第30話 ドルホフ商会 その2
2日後、再びドルホフ商会に向かった。
「いらっしゃい、それじゃあ行こうかの。横にいるのはユルじゃ、今回わしのサポートに回ってもらうつもりじゃ」
「ユルです。よろしくお願いします」
黒髪のおっとりとした雰囲気の娘さんだ。
「よろしくお願いします」
「それじゃあ、行こうかの」
俺たち3人とドルホフ商会の2人、計5人で建物に向かう。
「ここですね」
目的地に着くとドルホフさんが真剣な目つきになる。
「なるほど、なるほど。立派な建物じゃ」
頷きながらドルホフさんが言った。
「中に入りましょう」
俺は扉の鍵を開けてみんなを建物の中に入れる。
「なかなかに広いのう」
ドルホフさんが見渡す。
「ユル、どれぐらいの広さじゃ?」
「1階の広さは280平方メートンありますね」
ユルさんが即答する。早いな。
「この娘のスキルでな、見たモノの計測をすぐにできるんじゃ」
なるほど、そういうことか。
ちなみにメートンはメートルとほぼ同じ単位だ。
2階も1度見てもらってから再び1階に戻ってくる。
「それじゃあ、店の作りについてじゃが」
ドルホフさんが話を切り出す。
「1階の調理スペースじゃが、どこに作ってほしい?」
この建物は入ってすぐの左側のところに2階へ上がる階段がある。それ以外には現状壁も何もない状態だ。
「どこにするのがいいと思う?」
サラに聞いてみる。
「無難に入り口から入って右奥でいいんじゃないでしょうか?」
サラが頭をひねりながら答える。
「うむ、それがいいじゃろう」
ドルホフさんも納得してくれたみたいだ。
みんなで右奥の方に移動する。
「そしたらここら辺に壁を作らせてもらうことになるじゃろう」
ドルホフさんがチョークのようなもので床に線を引く。
「して、設備には何が欲しい?基本的なものはそろえるとしてそれ以外の物じゃな」
「あの、そのことなんですが、コンロと冷蔵庫は必要ないです」
「なに?どうする気じゃ?」
そりゃおかしいと思うよな。
「それは私のスキルがあるからですね」
俺は屋台召喚と増殖で3つ作った後、1つはフォルムチェンジを使ってコンロ、もう1つは蛇口とシンクにして見せた。
「たまげた!スキルで設備が整えられるのか!」
「おまけにこの部分がアイテムボックスの収納になってます」
アイテムボックスのスキル自体は割とよくあるってサラから聞いたから教えても大丈夫だろう。
「ほう!アイテムボックスも!こりゃあセレド様が気に入られるのも納得じゃな」
もちろん、創造魔法系のスキルは秘密です。言う必要がないしね。
「そういうわけで、必要なのは大きなオーブンと大きなくぼみの付いた加熱器具が欲しいです」
フォルムチェンジでもオーブンはあるが、サイズが小さいからハンバーグを大量に作るには不向きだ。
それに蒸し焼きにして作るから密封できるかも大事になる。
「大きなくぼみの付いた加熱器具とはなんじゃ?」
フライドポテトを大量に揚げられるように油を入れて熱せられる器具が必要だ。
手元にあった紙にデザインを描いて説明する。
「ふむ、やったことはないが作れると思うぞ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
良かった。作れないって言われたらどうしよかと思った。
鍋とかフライパンを使えば出来なくもないだろうけど、効率も悪いからね。
「他に必要なものはあるか?」
「カイン何かある?」
料理の責任者はカインに任せることになるからね。
「そうっすね、肉を大量にミンチする機械が欲しいっす」
確かにハンバーグを作るうえでは重要だ。
「分かった。それも作ろう。何かほかに必要なものを思いついたらうちに来て教えてくれ」
「了解です」
その後、頭の中で思い描いている1階のデザインを説明していく。
まあ、そこまでこだわるわけではないけどな。シンプルなのがいいし。
次に2階へ移動して事務所の相談をする。
「作りたいのは会長室と事務室と休憩室の3つです」
ここはサラに話を進めてもらうことにした。事務所が一番必要なのはサラだと思うし。
「そしたら、右奥を会長室にするべきじゃろう。それに商会の威厳に関わるじゃろうからある程度立派に作る必要があるぞ」
そういうことらしいので、ドルホフ商会の会長室を参考にさせてもらって、机とソファを注文する。
「事務室は、シンプルに長机と本棚が欲しいですね」
サラが願望を言って、それをユルさんにメモしてもらう。
「休憩室は、これから雇う従業員の人たちが使う場所ですね。ロッカーとかここにも椅子や机が欲しいです」
「そうなると、商会のスペースはこんなもんかの」
ここもドルホフさんが線を引いていく。
「さて、後は客の人が座る椅子や机じゃな。何人分ほしい?」
「大体150人分ぐらいですかね」
1階の残ったスペースと2階を合わせればそれぐらいだろう。
「150、ちと多すぎはせんか?」
「いえ、それは問題ないです」
ファストフード店だから多少席が近くても問題はない。
「そうか、後で調節できるからその時は言ってくれ」
「分かりました。あ、あと大きめのゴミ箱を何個か用意してもらえますか」
お客さんに捨ててもらう用のゴミ箱が必要だからね。
「ゴミ箱か、分かったぞ」
「ありがとうございます」
「さて、今日のところはこんなもんかのう。あとは帰っていくらになるか計算してみる」
ドルホフさんが伸びをする。
「よろしくお願いします」
「うむ、分かり次第すぐに連絡する」
こうしてドルホフさん達との下調べは終わった。
一体いくらぐらいするんだろう。
なるべく安くあってほしいな。




