第20話 いつもの1日 後編
午前9時前、ローサさんがパンを買いに来てくれた。
ローサさんは宿でパンを出すために定期的に買いに来てくれる。
この世界に来て最初のお得意さんだ。
「おはようサラ。今日も買いに来たよ。10個もらえるかい?」
ローサさんがかごをサラに渡しながら挨拶をする。
「ローサさん今日もありがとうございます!」
今ではすっかりサラとも顔なじみだ。サラがかごにパンを入れてローサさんに返す。
「はいこれお代ね。それじゃあまた来るよ」
「「ありがとうございました!」」
俺とサラ2人そろってお礼を言った。
食パンの方は最初の頃は1日300個以上売り上げていたけど、実は今では80~120個ぐらいで落ち着いている。
まあそれでもすごいんだけどな。
最初は物珍しさで売れてた部分もあるが、そのブームも過ぎればいつものパンでということから他の店で買ってるんだと思う。
ローサさんだって毎日買うわけじゃないからな、きっと他のところでも買っているんだろう。
まあすべてうまくいくわけではないってことだ。
11時を回り始めると今度はパンの販売をやめてハンバーガーへとシフトしていく。
「ハンバーガーの販売を始めます!」
道を歩く人に向かって呼び掛けると少しづつお客さんが集まってきてくれた。
ハンバーガーの方は相変わらず順調だ。
大体1日350個ぐらい作って売っていたが最近はMPの方にも余裕が出来てきたから500個近く売ることも可能になってきた。
「お兄ちゃんいつもの1つ!」
昼過ぎに毎日のように買ってくれる常連のおじさんがやってくる。
「いつものですね了解しました!」
俺はセレド様に出した照り焼きのハンバーガーとポテトを紙袋に入れて渡す。常連さん限定の裏メニューだ。
「800クローネです」
セットだから値段も少し高めになる。
「ほいよ!いつもありがとうな!また明日来るぜ!」
「はい!お待ちしています!」
こういう常連客の人が来てくれるのはありがたい限りだ。
ちなみに3日に1回はモードンさんがこのセットを買いに来る。よっぽどセレド様がポテトを気に入ってるんだろうな。
それからサラと交代で休憩を入れたりしながら午後7時ぐらいまで営業を続ける。
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時刻は午後7時過ぎ、広場の人通りも減ってきたな。
「よし!撤収!」
掃除や後片付けを終えた後、屋台を魔法で消す。
「じゃあ家に移動しようか」
「はい!」
今のところ事務所がないからサラに俺の家まで来てもらって、そこで会計作業をしてもらっている。
8時30分ぐらいにその日の報告だ。
「パンは食パン110個、クロワッサン30個、ハンバーガーが407個、うちセット42、トータルで27万7600クローネです」
サラがテーブルの上のノートを片付けながら教えてくれる。
「了解、集計ご苦労様」
これで今日の仕事はすべて終了だ。
「今夕食作ってるからちょっと待っててくれ」
「はい!いつもありがとうございます!」
サラが集計している間は俺は暇だから大体夕食を作っている。
今日は味噌野菜炒めとキノコの味噌汁とサラダ、味噌尽くし定食だ。
まだサラは白米には慣れないらしいから俺は白米、サラには他のパン屋で買ってきたドーム状のパンを出す。
サラにはこのパンが落ち着くらしい。この地方出身の人だからな。
ちなみにサラによるとこの世界にも米はあるみたいだが、大陸の南の一部で作られてるだけで、ここにはほぼ米はないらしい。知らない人も多いそうだ。
「「いただきます!」」
今日の出来は……合格!ご飯によく合うし味噌汁もシイタケのダシが良く出てる。
「今日の夕飯も美味しいです!!!」
サラが野菜炒めと一緒にパンをちぎって頬張る。
「この野菜炒めは白米とベストマッチだと思うんだけどな」
日本人としてはこの世界で米を広めるのも使命な気がするのだが。
「だからいつも言ってるようにたまに食べる分にはいいんです。でも今回はパンの気分です」
自分も白米とパンを置き換えて考えてみる。確かに毎回食パンは嫌だな。そんなもんか。
そんなやり取りをしながら夕食を楽しんだ。
「ごちそうさまでした。それじゃあおやすみなさい!」
夕食を食べ終えた後サラは自分の家に帰る。
「おやすみ、また明日!」
一人になったらすることもないので寝る準備をする。
大事なのは収納魔法で食料を作っておくことだ。
MPが満タンになったらもったいないからな。
よし、それじゃ寝よう。また明日も早いからね。




