閑話 私の新生活
私の名前はサラ。サラ・エストロンド。
田舎から出てきた私は今、サート商会という新しい商会で働いています。
こんな美少女がなぜそんな場所で働いているのか?
え、美少女とは言ってない???......ごめん。調子にのりました。
理由を説明すると1ヶ月ちょっと前にさかのぼるの。
私のお父さんはアモード・エストロンド男爵。世襲制の貴族の中では位は一番下で、田舎の中でもさらに田舎の貴族。
だから貴族と言っても名ばかりで、普段は村の人と一緒に農作業もしている。
でもお父さんは教育熱心で私を含めた子供4人にいろいろな本を買ってくれたの。
その中でも私は経済や経営の本に興味を持ったからたくさん勉強したわ。
昼間は畑で農作業、夜は家で勉強、そんなふうに過ごしていたある日の夜、お父さんから話を持ち掛けられたの。
「サラ、大事な話がある」
お父さんが真面目な顔をして書斎に私を呼んだわ。
「どうしたのお父ちゃん?」
「お前ももうすぐ20歳、そろそろ独り立ちしてもええ頃や」
私の国では18歳で成人になる。その頃にはもう結婚してたりする人も多い。
私はなんだかんだ先延ばしにしていたけど。
「そこでや、サラはこれからどうしたい?」
私は貴族の娘と言っても男爵の娘で次女だから、政略結婚を強制されるような立場ではない。
選択肢としてはいくつかあるけど、大きく分けるなら結婚するか仕事に就くのか2択。
そして仕事と言ってもこの村には林業と農業しかない。
私の心の中では進む道は決まっていたわ。
「この村を出て、働きたいと思ってる」
どうせなら勉強した知識を生かしたい。そしていつかは大きな商会に入って世界中を巡るような仕事をしてみたい。
これが私の夢。だからここだけは曲げられない。
「そうか、お前ならそう言うと思ってた。あのおてんば娘だったサラもこんなに立派になってしもうて」
お父さんが泣き出した。
「ちょっとお父ちゃん泣かんでよ」
私まで悲しくなっちゃうじゃん……
「そうやな、悪かった。よし、サラには餞別を渡そう」
そういったお父さんは引出しから袋を取り出し、私に渡してくれた。
「これって!こんなんもらえないよ!!」
中に入っていたのは金貨30枚!大金だ。
「いや、いいんだ。ここから都会へ行くにはお金もかかる。それに部屋を借りたり、住む場所も必要や。持っていきなさい」
「ありがとう。お父さん、大切にするね」
それから一週間後、誕生日のお祝いを終えた私はこの村を旅立つことにしたの。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん2人、そして仲が良かった村の人総出で馬車の停留所まで見送りに来てくれた。
お姉ちゃんはもう結婚して遠くに嫁いでいるからこの場にはいない。いつか会いに行きたいな。
この村は大好きだし、ずっとここにいたい気持ちもある。でも、自分の夢のためにも我慢しなくちゃいけない。
「みんな!!今までありがとう!元気でね!!!行ってくる!!」
私は乗った馬車から顔を出してこう叫んだ。
ここから私の新たな人生が始まった。
ーーーーー
期待に胸を膨らませて村から旅立ったのに、そこから先は災難続きだった。
まず村のみんなと別れて乗った馬車。しばらく乗っていると、運転していた男が突然馬車を止めてなんて言ったと思う?
「この一帯は魔物も多く出る危険な場所だ。追加料金で金貨5枚払いな!」
「は?そんな大金払えるわけないでしょ!!」
危険な魔物が出るというのも嘘だ。このあたりには私にでも倒せる弱い魔物しか出ない。
「じゃあなんだ?ここで降ろされてもいいのか?」
「うっ……」
ここは危険な魔物は出ないけど時折野盗が道沿いに現れる。そんな場所を一人で歩いてたら襲われかねない。
「分かったわ。払うわよ」
渋々金貨5枚を渡した。
それだけでも最悪だったのに次はソレーンの町に着く直前に野盗にあったの。
「おい、そこの馬車!止まれ!」
私も含めて4人乗っていた馬車は外からの怒鳴り声で急に止まった。
そしたら急に馬車の後ろから2人の刃物を持った男2人が現れたの。
「いいか、何も返事はするな。金になりそうなものだけ全部出せ。隠すんじゃねぇぞ!今すぐだ。さあ出せ!」
ここから先はあっという間だった。みんな慌てて持ってたお金とか貴重品を渡す。
私も持ってた金貨の袋はそのまま渡す。あらかたの財物を盗ると野盗たちは足早に去っていったわ。
幸運だったのは持ってきた本は取られなかったこと。多分本とかは荷物になるから盗らなかったんだと思う。
そして最後にはソレーンへの入城料でやられてしまった。袋に入れていたお金はすべて取られたし、その中に身分証も入れたままだったから、割高な身分証なしの入り口に並ぶしかなかった。
お金もなかったから泣く泣く本を渡してソレーンの町に入ったの。
それからすぐ働くところを探したけど、住む場所なし、身分証なしじゃどこでも雇ってもらえない。
身分証はソレーンの役所かギルドに行けば作ってもらえるけど高くて発行するにはお金が足らない。
しょうがないから、いくつか残った本を売って食いつないでいたけど、3日でそれも尽きた。
そんな絶望感を抱きながら夕方の町を歩く。
ソレーンを選んだのは5年前、一度この街に来たことがあったからだ。
セレド様がフストリア家の領主を継いだ日に家族みんなで参加したの。
そのときに見た活気あふれる街を見て、私は村の外に出ることを夢見た。
あの時と変わらず賑やかな街にいるのに、私は寂しく歩くだけ。
「私の人生ここで終わりやな……」
そしてとうとう体力の限界を迎えて私は道の端で倒れてしまった。
そのとき
「だ、大丈夫ですか?」
後ろから駆け寄ってくる男の声が聞こえたの。
ーーーーー
これが私とリュウさんとの出会い。本当に命の恩人だ。
今はがむしゃらに働いてるけど、リュウさんを支えてこの商会を大きくしていくつもり。
それが私なりの恩返し。どこまでもついていきたいと思っているわ。
この人についていけば、私が想像もしたことないようなことを見せてくれると信じているから。




