第18話 スタンプホルダー
「大丈夫ですか!?!?!?!」
サラが慌てて倒れたナターシャさんを拾い上げる。
「な、なんでこんなものリュウ様が持ってるんですか!?!?というかこれリュウ様にお返しします!怖くて持ってられません!!」
イスを直すとすぐにナターシャさんが俺に返してきた。
「どうしたんですか急に?」
ざっくりとサラから聞いたけどひっくり返るほどの物なのかな?
「こんなもの普通の商会が持てるものじゃありませんよ。これはフストリア家の印章、ということはリュウさんはスタンプホルダーですか……」
貴族家の印章を持っている人のことをスタンプホルダーと言うらしい。
セカンドマーチャントクラスになると持っていることも珍しくないみたいだけど、うちみたいに発足してすぐの商会が持つことはまずないみたい。
「簡単に言えばこの印章が押されるだけで、このフストリア領において重要な案件だということになります」
ナターシャさんが汗を拭きながら答える。
「例えば、先ほどのサート商会の融資の話、借用書にこの印章が押されればほぼ無制限、無担保で借りられます」
「無担保!?!?」
ざっくり説明すると、普通銀行などで大金を借りるときには、もしお金が払えなかったときにお金の代わりに担保、例えば自分の持っている土地などを渡すように取り決めをする。
じゃないと銀行は安心してお金を貸せないからだ。
ただ、この印章が押されれば「責任はフストリア家が持つ」という意味になり担保の必要がなくなるらしい。
「もちろん好き勝手に契約していいわけじゃないです。契約の当事者はリュウさんですし、変な契約をしたり、契約が果たせなかったりしたらフストリア家の名に泥を塗ることになりますから」
この印章には魔法がかけられており、使うと、いつ、誰と、どんな契約をしたか把握できるようになっているらしい。
もし悪いことに使えば商人としての信頼は完全に失墜するし、命の保証もないってさ。それも契約に関わった全員。
「いや、そんな話聞くと怖くて使えないんですけど」
「いやいや、私としてもそんな契約してほしくないです。印章は実際に使うためのものではありません。フストリア家が後ろについているという一種のステータスを表すためのものです。もっていることに意味があるんです」
「例えば無担保の借り入れ以外にどんなメリットがありますか?」
「そうですね、サート商会の場合、急激に売り上げを伸ばしているじゃないですか」
「ええ、おかげさまで」
駆け出しの商会としては上出来すぎると思う。
「そうなると、理由はどうあれ、それを疎ましく思う人もいますよね?」
「はい、確かに」
良く思わない人はいるだろうな。
「ですが、この印章を持ってたら直接の手出しは出来ないでしょう」
サート商会に何かあればフストリア家が動くことになる。
だから何か自分たちの企てがバレたりでもしたらそこの商会が取り潰しになるのは確実らしい。
もちろん、正当な商会間の争いならフストリア家も口出しはしないようだが。
「なるほど」
それはありがたい話だな。セレド様にも感謝しないと。
「まあ、怖いことは言いましたけど、悪いことさえ考えなければ素晴らしいものですから」
うん、とりあえず気にせずやっていこうとは思う。
「これで商人ギルドの、いえフストリア領期待の若手になったってことですね。おめでとうございます……はぁ」
ナターシャさんが低いテンションで言った。
「褒め方雑すぎません?」
なんかこう、全然気持ちがこもってないんだけど。
ため息までついてるし。
「やれ初月売り上げ500万だ、三大法則無視するスキル持ちだわ、おまけにスタンプホルダー。もうびっくりしすぎて疲れましたよ……」
ヘトヘトの顔でナターシャさんが答える。
なんかごめんなさい。
申し訳なかったから、店の準備については後日相談することにして次の営業報告の日だけ決めて、今回の話し合いは終了することにした。
再び1階に戻ってサラの身分証発行とサート商会への所属登録を済ませてこの日は商人ギルドを後にした。
ーーーーー
その日の夜、営業報告も終わったことだし、俺とサラは居酒屋で打ち上げをやることにした。
「「かんぱーい」」
俺とサラは出てきたエールで乾杯をする。
ゴクッゴクッ
「プハァーーーーー!仕事終わりのエールは最高ですね!!!!店員さんおかわり!!」
サラがグラスを一気に飲み干す。
「……すごい飲みっぷりだな」
口に泡までつけてておっさんみたいな飲みっぷりだけど。
「うちの田舎だと週末は村の人とエールをよく飲んでましたから」
「良い村だな。」
「はい!」
「もうそろそろサラとあってから一カ月か。あっという間だったな」
俺はしみじみと思い出す。
いきなり異世界に飛ばされてからこんな風になるとは想像も出来なかった。
「あの時は本当に死にそうでした。感謝してもし尽せません」
サラが頭を下げる。
「いやいや、大したことはしてないから。それよりこれ」
俺は手元の鞄から一つの袋をだしてサラに手渡す。
「なんですか?」
サラは怪訝な顔をして受け取る。
「それ今月のボーナス。思ってた以上に儲かったからね。来月あげられる保証はないけどもらっておいてよ」
「金貨何枚入ってるんですかこれ!軽く20枚は入ってますよ!」
袋を開いたサラが驚く。
「給料だって相場より多くもらってるのに、こんなものまでもらえませんよ!!」
サラが袋を返そうとする。
「いいからいいから、俺からの感謝の気持ちとして受け取って」
異世界から来た俺にとって初めての仲間だからな。とても心強かったし。
おかげで今は楽しく過ごせている。感謝しかない。
「そういうことでしたら……ありがとうございます。もっと頑張りますね!」
「無理しない範囲でね」
そういって俺は笑う。
来月も忙しくなりそうだ。
次回から閑話をはさんで新展開となります!
こうして続けられるのは読んでくださる読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価等応援よろしくお願いいたします!