第158話 体を動かそう
次の日、水着に着替えて砂浜に行くとロンドさん達が待っていた。
「さあ、今日は動くぞー!」
アミルさんが準備体操をしながらそう俺たちに言ってきた。
「どんなことをするんですか?」
「最初はボール遊びですの」
ユフィさんが自前の収納魔法から取り出したのは、褐色のボールだった。
ちょうどバレーボールぐらいの大きさだ。
ユフィさんによると、これは魔物の皮を特殊な方法で縫い合わせたもので、軽くて丈夫らしい。
普通の人間の力じゃ壊すどころか傷一つつかないそうだ。
「今からコートを作る」
ロンドさんが地面に片手をついた。
すると、近くの地面から砂でできた2本のポールと、ネットが現れた。
そして、それらを取り囲む形で長方形の線が引かれている。
そういえば、ロンドさんのスキルは土を自在に操れる能力だったな。
「今から2チームに分かれて、3回以内のタッチで相手コートに返球してもらう。もちろん地面についたら相手の得点だ」
ルールはほとんどバレーボールと一緒だな。
砂浜でやるからビーチバレーか。
相談の結果、俺、ダミアンさん、ユフィさんチーム。サラ、ロンドさん、アミルさんチームに分かれることになった。
「リュウ、ユフィ!ちょっと来て」
同じチームに入ったダミアンさんから声をかけられた。
「遊びだけど……」
ダミアンさんが相手に聞こえないように小さな声で囁く。
「勝負事は全力でやるよ。それにアミルには絶対に負けられない。昨日とっておきのおやつを食べられたんだ……」
と、嘆き節が始まった。
まあ、食べ物の恨みは恐ろしいっていうからな。
「始めますねー!」
相手チームのサラがサーブをして、俺が受け止め、ユフィさんがトスをあげる。
ただ、トスが高すぎるな。
そう思っていると、横でダミアンさんが右手に力をためる動作をした。
すると、海から直径2メートルほどの水球が握り拳のような形に変化しながら俺たちの上空にやってくる。
水を操ることのできるダミアンさんの技だ。
ダミアンさんが右手の握りこぶしを下に向かって振り下ろすと、それに呼応するように上空の巨大握りこぶしがボールをたたく。
鋭い衝撃音とともにアミルさんの方向にボールが飛んでいった。
危ないと声を上げようとしたが、
「ほいっ!」
と軽い調子でスパイクを受け止め、くるっと縦に一回転しながら衝撃を完璧に受け止めていた。
ふわっとしたボールがコートの中央に上がる。
「サラちゃーん!とにかく高くトスを上げてー」
「は、はい!」
アミルさんの指示でサラが高いトスを上げると、
後方から助走をつけたロンドさんが思いっきり踏み込んで飛んだ。
ネットから手が出るどころか、体が全部飛び出てしまっている。
背中に羽でもついているみたいだ。
ブォンという鈍い音とともに撃ち抜かれたスパイクはダミアンさんとユフィさんの間をすり抜けていった。
「アウト!」
どうやら線の外側に落ちてしまい、こちらの得点になったようだ。俺は目で追いきれなかったけど。
……レベルが高すぎる。
運動系のスキルが何一つ備わっていない俺にとっては異次元の世界だ。
同じく運動系スキルに関しては一般人のサラもネットの反対側でアワアワしている。
その後も魔女の杖の人達の超絶技巧を横目に必死にフォローをしながらなんとか最初のセットを取ることができた。
ダミアンさんはアミルさんに勝利アピールをして挑発してたけどね。
「リュウ、最初のセットはどうだった?」
セット間の休憩でダミアンさんが話しかけてきた。
「皆さんの動きがすごすぎますよ」
「まあ、調節しながらってところだけどね」
ダミアンさん曰く、力は大分抑えているとのこと。
まあ本気を出したら俺とサラが危ないだろうし、それもそうか。
「あ、ごめん。リュウ達がいるからって意味じゃないよ。そもそも僕たちが本気出しちゃうとゲームにならないから」
全力でやったらボールが耐えられないらしい。それどころか、ボールを打った時の衝撃で周囲のものが簡単に吹っ飛ぶそうだ。
「そうだ、せっかくならリュウもかっこよくスパイクを打ってみない?」
ダミアンさんから耳打ちで作戦を伝えられた。
……うまくできるのか?
ー----
「今度はうちからはじめるよー!」
アミルさんが豪快なジャンピングサーブをユフィさんに叩き込む。
ダミアンさんが受け止め、ユフィさんがトスを上げてくれる。
「リュウ!いくよ!」
ダミアンさんの掛け声とともに足元に水球が現れ、俺の体を空中へと弾き飛ばした。
高さでいうと4、5メートルぐらいだ。
ふわっとした感覚が襲うが、生身の状態で放り出されるとジェットコースターとは比べものにならないくらい恐怖感が跳ね上がる。
ダミアンさんが調節してくれたみたいでちょうど目の前にボールが来た。
がむしゃらにボールをたたき、なんとか相手コートに返す。
そのまま、自分の体が自由落下が始まった。
ぶつかると思ったそのとき、地面からふわふわした草が生えてきて、クッションのように受け止めてくれた。
「ユフィさんありがとうございます」
植物を操るスキルを持つユフィさんにお礼を言う。
「うまくできてましたの」
とユフィさんは褒めてくれた。
なんとかコースギリギリに入って得点することできたみたいだ。
「リュウさんすごいです!」
相手コートのサラも驚いている。
「もう一回やる?」
ダミアンさんがいたずらっ子のような笑顔を浮かべながら俺に聞いてきた。
「いえ、遠慮しておきます」
これは1回で十分だ。
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