第147話 売り始めました
次の日のお昼、俺たちは砂浜へとやってきた。
今日もすがすがしいほどの青空で、じりじりと日差しが照りつける。
キュウリの一本漬けを売るにはベストコンディションだな。
俺たちは屋台のテーブル部分に底の浅くて、直径が大きい桶を置き、その上に氷を敷き詰めた。
その上に木の棒にさしたキュウリを並べる。
並べる本数は、お客さんが見て商品が分かれば十分だろうという事で5本ほどにしておいた。
暑さ対策だな。後は売れるたびに適宜補充していくつもりだ。
「なんだか噴水広場で2人で売っていた頃を思い出しますね」
サラがしみじみと言う。
「ああ、協力して頑張ったよな」
俺が異世界に来て、商売を始めてから割とすぐに出会ったからこの商会での思い出はほとんどサラと共有している。
どちらかがハンバーガーを作って、片方が接客して。
サラは計算が速いからちょくちょく会計で助けてもらってたな。
「そして、夜にはリュウさんの家で作業をしてました」
「そういえばそうだったな」
今はソルーン・バーガーにあるからそんなことはないけど、昔は俺の家が自宅兼事務所だったからね。
「あの頃から色々と変化があったよな」
セレド様と仲良くなったり、カインをはじめとした仲間が増えて、自分の店まで持つようになった。
本当に恵まれてると思うよ。
「はい、でもリュウさんはいい意味で変わってませんね」
サラがそう言って笑う。
「それをいったらサラもだぞ、もちろんいい意味でな」
明るくて真面目で食いしん坊、いいキャラだと思う。
仕事においても信頼できるし、最高の相棒だ。
「ふふっ。変わらないもの同士、お互い頑張っていきましょうね」
「ああ、気を引き締めて売っていこう」
「はい!」
ーーーーー
「いらっしゃいませ!キュウリの漬物はいりませんか?他とは一味違った味付けで、お酒との相性も抜群です」
俺は砂浜を歩く人に向かって声をかけた。
すると、
「お、冷えてうまそうなキュウリじゃないか」
肌の焼けたコワモテのおじさんが屋台を覗き込んできた。
「特製の液に漬け込んだキュウリです。よろしければ、いかがですか?」
「ほう。そしたら一本いただこうか」
「ありがとうございます。一本250クローネです」
他の屋台で売っていた冷やしキュウリは大体150クローネぐらいだったので、それよりやや高めに設定した。
俺はおじさんにキュウリを手渡す。
「ありがとう。いただくよ」
おじさんは豪快にキュウリをかじった。
「塩っ気が強くていいな!それに、噛めば噛むほどいい味が出てくる。こりゃあ酒に合いそうだ!」
「よろしければ、ビールも要りますか?」
俺はおじさんに勧める。
ちなみに、この世界にはエールとラガーの2種類のビールが存在している。
ただ、エールビールの方が一般的だ。ラガービールはやや高級な部類に入る。
俺のスキルのビールはラガーだから、値段も400クローネと他の屋台のエールの価格である250クローネより高めに設定した。
「少し高いが……よし、もらおう!」
おじさんが食いついてきた。
俺は収納魔法から瓶を取り出し、注ぎ口にセシルに作ってもらった魔導具を取り付ける。
そして、慎重に注いでからボタンを押し、泡を作ればジョッキビールの完成だ。
俺からビールを受け取ったおじさんはこぼさないようにそのまま口へと運んだ。
「!?」
一口飲んで驚いた顔をしたおじさんは、そのままごくごくと飲んでいった。
「こりゃあ、すごい。こんなに泡の美味いビールは初めてだ!」
おじさんが興奮気味に話す。
「それに、このキュウリの塩気とうま味でこの酒がすすむすすむ……」
おじさんは、キュウリとビールを交互に飲み食いしていった。
「いやぁ、満足だよ。ごちそうさん」
おじさんは笑顔で空になったジョッキを俺に渡してくれた。
「こちらこそありがとうございました」
「おれは船乗りでたまたまこの街に来たが、いい屋台を見つけた。この街にいる間は、通わせてもらおう」
そういうと、上機嫌で去って行った。
良かった、初めてのお客さんに満足してもらえたみたいだ。
やっぱり自分の作ったもので喜んでもらえるのは嬉しいな。
この調子で売っていこう。
本日、MFブックス様より第1巻が発売となります!
よろしくお願い致します!
実は、もう一つお知らせがございまして……
なんと、本作品のコミカライズ企画が決定いたしました!!
この物語を漫画でもお届けできることをとても嬉しく思っています!
これも読んでくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
具体的なレーベルや時期等について、現時点ではお伝えできませんが、発表できる段階になりましたらお知らせしていきたいと思います。
これからも、本作品をよろしくお願い致します!




