第144話 海藻を調べましょう その2
次の日、宿の部屋で屋台を召喚し、海藻の調査を開始した。
「まずは海ブドウみたいなやつから食べてみよう」
収納魔法から海藻を取り出す。
「これは生のままいただこうか」
俺は軽く水洗いした後、一口つまんだ。
「こりゃいいな」
見た目の通りプチッとした食感が楽しい。
茎の部分はシャキシャキとしていて、違った美味しさがあるな。
「私も食べてみますね!」
俺の反応を見たサラが一口頬張る。
「……なんというか、もう少し味が欲しいですね」
「そうだな。今からタレを作ってみるよ」
昔食べた記憶をたどると……醤油とお酢と砂糖かな。
とりあえず、感覚で3つを入れて、その後調節してみた。
「よし、こんなもんか」
甘さ控えめダレの完成だ。
「いただきます!」
サラがタレにつけて頬張った。
「んー!このタレとの相性最高ですね!」
サラがバクバク食べ始める。
この世界の人にも気に入ってもらえたみたいで良かったよ。
……って食べすぎだろ。
元々そんなに量は取ってきていないからな。
俺も慌ててタレにつけて食べる。
うん、海藻の風味がお酢の酸味と相まっていいな。
じっくり味わっていると、
「ごちそうさまでした!」
サラが満足げに横でそう言った。
……こいつ全部食いやがった。
俺まだ二口しか食べてないのに。
まあ、いいけどね。ジーナさんにまた取ってきてもらおう。
「今度は私が取ってきた海藻ですね」
サラの黄色い海藻は少し茎の部分がかたそうだったので、茹でてみることにした。
「食べてみますね」
サラが最初に試食する。
すると、サラは頬を押さえながら目を閉じてゆっくり味わっていた。
そして、海藻を指差す。
そんなに美味しいのか。どれどれ
俺も食べてみた。
おお、弾力があるな。
それに、ほのかに海の香りがしたあとに独特な酸味と辛味とえぐみが……
「まっず!!!!!」
俺は思わず口から海藻を出してしまった。
こりゃ食えたもんじゃない。
「サラ騙したな」
「だって不味いっていったらリュウさん食べないじゃないですか。それに私美味しいなんて一言もいってませんよ」
サラが痛いところをついてくる。
「どうですか?演技上手くなりました?」
サラが満面の笑みで俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ、参った。やられたよ」
マイマイ村で劇をしたときには大根役者だったのにまんまとはめられてしまった。
成長したんだな。まあ、成長してどうするんだって話だけど。
最後に昆布っぽい葉っぱを試すことになった。
「いよいよ本命ですね」
「ここが一番大事だ」
これが成功するかどうかに今後がかかっているからな。少し緊張する。
「ひとまずこれを乾燥させようか」
出汁を取るためには大事な工程だ。
ということで、1日部屋の外に置いて天日干しさせることにした。
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翌日、
「うん、いい状態だ」
この葉っぱは部屋の外の部分にかけておいて、乾燥させておいた。
初めに、軽く拭いた葉っぱを鍋の中に小さくカットしていれる。
とりあえずふやけるまでは待つことにしよう。
数十分後、柔らかくなってきたから加熱を始める。
すると、
「いい匂いがしてきましたね!」
サラの言う通り、昆布出汁のような香りが漂ってきた。
順調そうだな。
その後もぐつぐつ煮ていくと
「リュウさん……なんか変じゃないですか?」
サラが怪訝な顔をしながら鍋を覗き込む。
「あれ……?」
さっきまで美味しそうな匂いだったのに、いつの間にか汁にぬめりがでているな。
「もしかしたら沸騰させちゃいけないのか」
出汁以外の成分まで外に出てきているのかもな。
もう一度やり直そう。
2回目のチャレンジを開始する。
「よし、これぐらいでいいな」
俺はゆっくりと過熱して沸騰する少し前に葉っぱを取り出した。
試作品1号の完成だ。
「いただきます」
俺は小さなお皿に出汁をすくって飲んでみる。
「なんというか……ほっとする」
久しぶりに日本に帰ってきたって感じがするな。
もちろん、スキルに味噌とか醤油があるから全く和食に触れてないわけではないけど、出汁の偉大さがよく分かる。
昆布だしは日本の料理に欠かせないものの一つだからね。
料理の幅もこれから広がるんじゃないかな。
いい物を見つけることができたよ。
「海の中にこんなに上品な味が出せるものがあったんですね。どうして今まで見つからなかったんでしょう?」
サラが出汁をすすりながらつぶやく。
仕草が完全におばあちゃんだ。
「海の中で出汁が出るわけじゃないからな」
人魚族の人たちは海の中にいるわけだし、気付かなかったのかも。
そう考えると、よく昔の人は昆布を出汁に使おうと思ったよな。
初めて試した人は相当な探求心を持っていたんだろうね。




