第142話 ケンドットの海の中
(おおー!)
目の前には、南国の綺麗な海が広がっていた。
水深で言うと、15メートルから20メートルぐらいでそれが先の方まで続いている。
海底にはサンゴなどが生え、彩を添えていた。
それに、色とりどりの魚を見かけることもできた。
元の世界と違うところをあげるとするならば、やはり水中に人がいるところだろうか。
人魚族の人たちがまるで海の中を散歩するかのように泳いでいる。
まあ、当たり前といえば当たり前だけど。
あと、遠くの方には船もあるな。
ケンドットの北側の方は船も停泊しているからね。その影響だろう。
(海藻が生えているところはもう少し砂浜から離れる必要があるわ)
そういうと、ジーナさんは俺たちに背を向けて、両手を横に広げた。
(二人ともあたしの手に掴まって)
首だけ俺たちの方に向けてそういった。
ジーナさんの指示通り、俺はジーナさんの右手、サラは左手を掴む。
(しっかり握るのよ)
ジーナさんは尾びれを強く動かした。
すると、俺とサラが掴まっているにも関わらず、グイグイと進んで行く。
水族館で見たイルカと同じぐらいの速さだな。
体格は人間とほとんど変わらないのに、水中での力は段違いだ。
さすが人魚族といったところか。
猛スピードで進んで行くから、頭に水の衝撃を受ける。
それが水中アクティビティみたいで面白い。
(!!!)
サラも横でジーナさんを挟んだ向かいで何か話しているけど、高速で移動している影響で何を言っているかは分からなかった。
ちなみに、呼吸をしたりすると当然海水が口の中に入ってくるわけだけど、しょっぱくは感じなかった。
これも水中玉の効果なのかな。
下に広がる海の景色を眺めながら、俺たちは水中遊泳を楽しんだ。
ーーーーー
20分後
ジーナさんがスピードを緩めた。
(ありがとうございました!楽しかったです)
サラが嬉しそうにお礼を言う。
(そう言ってもらえてよかったわ。また帰りも泳ぐから楽しみにしてて。そして、ここが今回の最初の目的地よ)
到着した場所はさっきまでのサンゴの景色とは違って、海藻が生い茂る原っぱのような場所だった。
生えている海藻の丈は俺の膝ぐらいまでの草が多い。
大型のものはそれほど生えてはいなさそうだな。
でも、使える海藻はあるかもしれないから頑張って探してみよう。
「これは……」
俺が見つけた海藻は、茎の部分に小さなつぶつぶが沢山ついた海藻だった。
海ブドウみたいだな。
これなんか食べてみてもおいしいかもしれない。
俺は試しに一株取ってジーナさんに渡した。
それを食べるの?って顔をされたよ。
海ブドウは海藻の中でもインパクト強いからな。
小さい頃は食わず嫌いをしていたけど、大人になってから旅行で沖縄に行ったときに食べたらプチプチとした食感の虜になったんだよな。
とりあえずチャレンジしてみよう。
(リュウさん!これなんかどうですか?)
サラが持ってきた海藻は黄色かった。
細い茎から細い葉っぱのようなものが生えていて全体的にふさふさしている印象だ。
これは……食べられるのか?
黄色い海藻を元の世界でほとんど見たことがないからな。見当がつかない。
でも、アッサリには黄色のものもあったわけだし……ものは試しだな。
(よし、それも持って帰ろう)
これもジーナさんに渡した。
それから、何種類か海藻を少量ずつ集めていった。
まだ食べられるか分からないからね。無駄に多くを集める必要はない。
持ち帰って食べてみるのが楽しみだ。
ーーーーー
(あともうひとつ見てもらいたいところがあるの)
そうジーナさんに言われて別の場所にやってきた。
(これは……すごいな)
目の前には15メートルほどの高さのある木々が生えていた。
葉っぱの隙間から日差しが差し込んでいて、その間を魚たちが泳いでいる。
神秘的な雰囲気だ。
この景色を見れただけでも、ジーナさんについてきて良かったと思えるよ。
(あれが使えそうだと思ったんだけど、どうかしら)
ジーナさんが指差したのはその大きな木の葉っぱだった。
泳いで近づいてみる。
葉っぱの形は昆布に近かった。
これは使えるかもしれない。
よし、これも持って帰ってみよう。
(さ、そろそろ岸に戻りましょ)
海に潜ってからそれなりに時間がたったので俺たちは帰ることにした。
水中で時間がオーバーしたら俺とサラは一巻の終わりだからな。
俺たちは再びジーナさんの手を握って泳ぎ始めた。
ーーーーー
「ジーナさん、今日はありがとうございました」
無事に砂浜へと帰ってきた後、ジーナさんに改めてお礼をいう。
「こちらこそ。2人にケンドットの海を案内できて楽しかったわ」
「また連れて行ってください」
「ええ、もちろんよ。海藻の調査頑張ってね」
「はい!」
こうして、ジーナさんは笑顔で海へと帰っていった。
よし、異世界の海藻を研究していこう。




