第132話 空の旅
その後俺たちは、馬車に乗ってソルーンの街を出た。
マイマイ村以来、約4ヶ月ぶりだ。
ただ、今回はこの世界に来て初めてフストリア領を飛び出ることになる。
高揚感が更に高まってきたぞ。
ただ、馬車の旅はそれほど長くはなかった。
馬車に揺られること1時間、広い平原のようなところに出る。
俺たちは馬車を運転している御者に頼んで途中下車させてもらう。
御者のおじさんはこんなところで降りてどうするんだ?って顔をしていたけどね。
「2人は下がっておれ」
レイはそう言うと、その場で空中で浮遊して俺たちから離れた。
青い光を放ちながらどんどんと体が大きくなる。
ついには初めて会った時と同じように青色の巨大なドラゴンに変身した。
久しぶりに見たけど、五大竜と呼ばれるだけあって風格があるな。
「改めてみるとすごいですね……」
サラも感心している。
「何をしておる、後ろに乗るのじゃ」
ドラゴン姿のレイがそう言ってきた。
「どうやって乗るんですか?」
サラが戸惑っている。
「俺が先に乗るよ」
マイマイ村で一度だけレイに乗せてもらったことがあるからな。
その時はほんの一瞬だったけどね。
俺は地面にお腹を付けた態勢になっているレイの脇から背中へとよじ登った。
「サラもこんな感じで登ってみて」
「わ、分かりました」
サラも苦戦しながら俺のところまでやってきた。
サラの手を握って上まで引っ張り上げる。
「ちょっと怖いですね」
「ああ、俺もそう思う」
レイの背中は人がまたがるスペースはあるのだが、掴まる場所がないからちょっと不安定だ。
「出発するぞ!!」
そう言うとレイは頭を上げ、翼を大きく広げた。
「うわっ!!」
サラがバランスを崩し慌ててレイの背中にしがみつく、俺も低い姿勢になって衝撃に備える。
レイが翼を羽ばたかせながら飛び始めた。
翼の上下に合わせて体も大きく揺れる。
しがみついてなければ振り落とされそうだ。
「高度を上げるぞ!!」
レイはどんどん上昇していく。
ついには雲の上の高さまでやってきた。
この高さまでやってくると、レイも上昇するのを止めて水平飛行へと移る。
おかげで揺れはほとんどなくなったけど……
「寒い……!!」
かなり上空まで来たからめちゃくちゃ冷え込んでいる。
それに、揺れはなくなったが、風はもろに当たるから体感温度は更に低かった。
「こ……凍えます」
サラも震えている。
「うむ……分かったぞ!」
レイが何やら呪文を唱えると、突然吹き荒れていた風の音がピタッとやんだ。
それに周りの空気も暖かくなる。
おかげで大分快適になった。
レイは本当に何でもできるよな。
「すごい眺めですね!」
サラも余裕が出てきて、周りの景色を見て楽しんでいた。
「ああ、そうだな」
真下には自然豊かな風景が広がっていて、素晴らしい眺めだ。
前に一度乗らせてもらった時は森の上を低空飛行したからあまり景色はよく分からなかったが、この高度からはよく見える。
飛行機にのってもここまで綺麗な景色を見ることは出来ないな。
この世界の雄大さが分かるし、改めて違う世界にやって来たんだなってことが実感できる。
「リュウさん鳥ですよ!!」
サラが下の方を指差した。
10匹ほどの鳥がVの字に隊列を組んで飛んでいる。
日本にいた時、どこかで下から鳥の隊列をみたことはあったけど、上から見るのは初めてだ。
俺たちがいるところよりは高度は低いけど、それでも寒い中を羽ばたいている。
動物の力強さを感じることが出来るよ。
そんなことを思っていると、
「美味しそうですね!!!」
「……」
サラが身もふたもない発言をする。
「あれをカレーに入れても美味いと思うぞ!」
……ここには食い気があるやつしかいないみたいだな。
こうして俺たちは空の旅を楽しんだ。
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途中休憩しながらレイの背中に揺られること半日
「リュウさん見てください!!!」
サラが指差した。
「おお!!!」
前方には海が見えていた。
色はエメラルドグリーンに近い感じで南国の海を連想させる。
「私海を初めてみました!」
内陸出身のサラは大興奮だ。
浜辺には街が広がっていた。あれがケンドットだな。
街の中心部には宮殿のような建物が見えている。
あれがゼーベル家のお屋敷なのかもしれないな。
「そろそろ高度を下げるから降りる準備をするのじゃ!」
レイのアナウンスで俺たちは再び体にしがみつく。
下降する時はジェットコースターに乗っているような感覚だ。
レイが調節してくれているおかげで落ちずに済んでいるけど、普段だとほぼ直滑降のように降りるらしい。
もしこの場でやられてたら即死確定だな。
高度が下がるにつれてどんどん暖かくなっていく。
今は夏の終わりぐらいだけど、海が近いからか半そでで過ごせるぐらいの気温だ。
過ごしやすそうでいいな。
流石に街のど真ん中に降り立つと騒ぎになるので街から少し離れたところに着地した。
そこから街道に添って歩くと、目の前に外壁が見えてくる。
ケンドットに到着だ。




