第124話 ソフィア様の誕生日会 その5
ダンスパーティーの準備が整ったらしく、再び大広間へと戻った。
先程の食事会の時にあったテーブルが片付けられて広いスペースが作られていた。
会場の前方にはオーケストラのような人たちがいてチューニングをしている。
「さ、ここからは肩の力を抜いて楽しんでいきましょう」
サラがウキウキしている。
「そうしたいんだけど、うまく行くかな」
俺としては人前で踊るのはケーキの時と同じぐらい緊張するんだけど。
「大丈夫ですよ。音に合わせての練習もしました。問題ないです」
「そう言われてもな」
サラとの練習を通してある程度型を身につけたとはいえ、本番は別問題だ。
「何事も挑戦です。怖がってたら始まりませんよ」
まあ、それもそうだな。せっかく異世界まで来たわけだし、今までやらなかったことに積極的にチャレンジしていくことも悪くない。
ダメでもともとだ。踊りきってやろう。
ーーーーー
人が揃うと、オーケストラの人たちが音楽を鳴らし始めた。
ダンスパーティの始まりだ。
音が鳴り始めると、バラバラに立っていた人たちが中央部分を開けて円状になる。
この円の中心で踊るわけだな。
まず最初にソフィア様と婚約者が手を取り合いながら真ん中へと歩いた。
それを周りにいる全員が拍手で出迎える。
セレド様は泣いてたけどな。
そして、2人は向き合うと踊り始めた。
スローなテンポの音楽に合わせてステップを踏んだり、ソフィア様がスピンしたりする。
小さい頃から知り合いと言っていただけあって息はピッタリだ。
途中になると、セレド様と女の人が中央に歩き出し、踊り始めた。
「あの方がセレド様の奥様です」
サラが小声で教えてくれた。
へぇ。あの人が。長くて暗めの青色の髪をした美しい女性だ。
その後、もう一組合流したが、そっちはソフィア様の婚約者の方の関係者らしい。
その3組が踊って一曲目が終了した。
3組がそろってお辞儀をし、周りにいた人達で再び拍手をする。
少しして、2曲目がかかり始めた。今度は明るい感じの曲だ。
曲が始まると、周りにいた人たちが中心に集まってくる。
ここからは全体で踊るみたいだ。
「さ、リュウさん私たちも踊りに行きましょう!」
サラが俺の手を取った。一緒に中央に移動する。
「リードは頼んだぞ」
「はい!任せてください」
俺は片方の手をサラの腰に回す。
そして、その体勢のままゆっくりステップを踏み始めた。
よし、出だしは大丈夫そうだ。
「その調子です!周りにも注意してくださいね」
サラからアドバイスが入る。
周りにも踊っている人がいるから、サラだけ見ているとぶつかる可能性があるからだ。
サラも周りを見ながら空いている方に動いてくれている。
その後も2人で息を合わせてスピンをしたり、手の振りを入れてみたりしていく。
「ダンスって楽しいな」
「分かってきましたか」
音に合わせて動く楽しさがようやく分かってきた。
動きがリズムと合うと「音にはまる」感覚が味わえる。これは今まで体験したことがない面白さだ。
それに、2人で踊ると一体感があるから楽しさが増す。
「そろそろ曲の最後です!」
クライマックスに向かってテンポが上がってきた。
必死についていき、最後には俺が右手を広げ、サラが左手を広げて決めポーズを取った。
踊らずに見ていた人たちから拍手をもらうことが出来た。
「上手く……いきましたね!」
サラが少し息を切らしながら俺の事を褒めてくれた。
「ああ、完璧だった」
決めポーズを取った瞬間の達成感はすごかったし、また踊りたいと思えたよ。
「少し休みましょうか」
サラと一緒に円の外側に移動する。
外側にはテーブルが置かれていて、飲み物を飲んで休憩できるようになっていた。
サラと一緒に休憩しながら他の人のダンスを眺めていると
「すみません」
1人の女性が俺に声をかけてきた。
シルバーの髪をしていて、北欧系の顔立ちの美人さんだ。
「わたくし、レナーテ・ゼーベルと申します。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
ゼーベル……そういえば前にサラに教えてもらったことがあるな。
フストリア領の隣のゼーベル領を治める家の人だ。
当然だけど貴族の方だな。
「リュウと申します。この街でサート商会の会長をしています」
「リュウ様……もしかしてあのデザートを作った商会の?」
「ええ、その通りです」
覚えてくれていたみたいだ。
「あの料理は素晴らしかったです。後で必ず注文させていただきます」
「ありがとうございます。お待ちしておりますね」
「あの……よろしければ一緒に踊りませんか?」
まさかのダンスのお誘いだった。
「俺とですか?」
「はい。いかがですか?」
俺はチラッとサラの方を見る。
OKのサインをもらった。
「ええ、もちろん。喜んで」
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
俺はレナーテさんと一緒に中央に移動する。
初対面の人と踊るのは大変だったが、レナーテさんが上手くリードしてくれたおかげで何とかうまくいったよ。




