第119話 レイの社会科見学
次の日、レイが遊びにやってきた。
「妾はレインドラゴンのレイじゃ!リュウの友達じゃ!よろしくのう!」
お店がオープンする前、これからシフトに入るメンバーに改めてレイを紹介する。
「「よろしくお願いします!」」
みんなレイに向かって明るく挨拶してくれた。
「あれ?みんな驚いたりしないの?」
アモードさんはレイと初めて会った時大分驚いてたからね。横にいたハンナに聞いてみる。
「リュウさんからお話は聞いてましたし、それにもうこういうのは慣れっこですから」
「なるほど」
確かに突然セレド様が店にやってくるからね。耐性がついているのかもしれない。
「か、かわいい……」
クトルのレイを見る目がハートマークになっていた。
「抱きついてもいいですか!?」
「え!?」
俺が返事をする前にクトルはレイに飛びついた。
「離せ!離すのじゃ!」
レイもタジタジだ。
結局ハンナが注意するまでクトルはレイに抱きつくのを止めなかった。
「すみませんでした……あまりにも可愛くてつい」
レイから離れたクトルが反省する。
クトルは一人っ子らしく、妹を持つことに対して憧れがあったみたい。
だから、レイの姿を見て我を失ったらしい。
「そしたら、基本的にクトルと一緒に行動してもらおうか」
外見と違ってレイは子供ではないが、誰かがついてもらった方が安心するからね。
「我でいいんですか!?」
クトルは嬉しそうだ。
「レイもそれでいいか?」
「構わぬ。ただ、抱きつくのは禁止じゃぞ」
急に抱きかかえられたのは懲りたらしい。
「そしたら、我と一緒にケーキ工房に行きましょう!」
クトルが提案する。
「あのけーきとやらか!妾も興味があるぞ!」
レイも乗り気になる。
こうして今日はケーキ工房の社会科見学となった。
ーーーーー
俺は今日は休みだったので、一緒についていくことにする。
「それじゃあ、我と一緒にケーキを作りましょう!」
クトルが宣言する。
「妾もがんばるぞ!!」
レイもノリノリだ。
知り合ってすぐだけど、2人の相性は良さそうだ。
これなら明日も大丈夫かな。
「材料はこんな感じです」
クトルがレイに説明をしていく。
卵白を混ぜるシーンになると
「妾も手伝うぞ!」
そういって、カインにも負けないぐらいのスピードで卵白を混ぜ始めた。
その様子を驚いて見ていたクトルが俺に近づく。
(どうにかしてうちで雇うことは出来ませんか?絶対即戦力です!)
と耳打ちしてきた。
(いや、それは無理かな)
レイは雇われるようなたちじゃないからね。
レイのおかげですぐに下ごしらえは完了して、ケーキを焼く作業に入る。
「この光景はずっと眺めてられるの」
レイがケーキの表面が焼きあがっていく姿を見ながらそんなことを言う。
「我も飽きないですね」
そう言いながらレイの横で一緒に眺めていた。
この光景だけ見ると、本当に仲良しの姉妹みたいだね。
スポンジケーキも焼き上がり、冷蔵庫で冷まし終えた後、いよいよ最終工程に入る。
「我がお手本を見せるので、それを参考にやってみてください」
そういうと、クトルは慣れた手つきでスポンジケーキを水平方向に半分に切り、ヘラを使いながら均一にクリームを塗っていく。
そして上の飾りつけも流れるようにこなしていった。
一つ一つの所作が洗練されていて、それだけ努力してきたことが伝わってくる。
「はい!完成しました!」
「綺麗じゃのう。クトルとやらは素晴らしい腕をもっておるの!」
レイが完成したケーキを見て称賛する。
「妾もやってみるぞ!」
そういって、レイも用意したスポンジケーキの飾りつけを開始した。
15分後
「出来たのじゃ!!」
レイが完成したケーキを俺たちに見せてくれた。
「おー、頑張ったじゃん!」
クトルのように綺麗とは行かなくても味のある感じにはなっていた。
「うーむ、やはり上でくりーむをくるくるとさせるのは難しいのう」
クリームがちぎれてしまい、不格好になっていた。
確かに、あれって初めてやると難しいんだよな。
俺も小さい頃にチャレンジした時、ケーキの上で蛇がとぐろを巻いているような感じになった記憶がある。
「初めはこんなもんですよ。それに明日も時間がありますから一緒に練習しましょう」
「うむ!頑張るぞ!」
少し落ち込んでいたレイが元気を取り戻した。
「それに味は絶対美味しいですよ。我が保証します」
そういわれてレイが完成したケーキを食べる。
「クトルの言う通りじゃな!美味いぞ!この味なら妾の作ったケーキでも売りに出せる!」
「いや、それはちょっと却下かな」
流石に味は良くても商品としては見栄えの問題がある。
レイのケーキの完成度だと……ちょっと厳しいな。
「ぐぬぬ。見ておれ、リュウが帰ってくる頃には売れるケーキを作ってみせるぞ」
「期待してるよ」
こうしてレイの社会科見学は終了した。
ーーーーー
クトルにレイを預けて、今日は家に戻ることにした。
明日はソフィア様の誕生日会だからね。
明日着ていく服や持ち物の最終チェックをする。
誕生日会はサート商会にとっても大事な宣伝のチャンスだ。
絶対に成功させよう。
俺は覚悟を決めて早めに眠りについた。




