第111話 オブリナ・サート杯 その3
その後も順調に試合が進み、ベスト4まで出そろった。
内訳としては、サラ、ハンナ、セレド様、そして俺を負かしたナイジェルくんの4人だ。
まさか知っている人が3人も残るなんてびっくりだな。
準決勝の第一試合はセレド様とサラの対決になった。同時進行でハンナとナイジェルくんの対戦も行われる。
俺としてはセレド様が有利な気がしている。やっぱり「直感」はチートすぎるからね。
ただ、サラの巻き返しも見てみたいところだ。
「まさか君とオブリナをやることになるなんてね」
セレド様が面白そうに笑った。
「私もこんな日が来るなんて思ってもいませんでしたよ」
サラも頷いている。
そりゃ領主様とゲームをする機会なんてそうそうないよな。
「それでは試合を始めてください」
アナウンスと同時にセレド様が先手で試合が始まった。
相変わらずセレド様は打つのがめちゃくちゃ早い。
序盤は定跡があるからかサラも早かったけど、中盤になるとその差は歴然だった。
セレド様が5秒弱の時間で駒を進めるのに対して、サラは早くても20秒ぐらい時間をかけてしまっている。
盤面そのものはサラも悪くないんだけどな。
そして、ついにセレド様の魔法使い(角)がサラの陣地に侵入してきた。
形勢としてはセレド様が有利な展開となる。
「……」
サラが腕を組んで考え始めた。それもかなりの長考だ。
持ち時間25分のうち、10分ぐらい使って考えてるんじゃないかな。
セレド様に対して致命的な気がするぞ。
これはサラの負けじゃないかと思ったその時
サラが笑った。
「なっ……」
セレド様が驚いた。
サラが金の動きをする近衛兵を攻撃に使い始めたのだ。
近衛兵は通常守りに使うことが多いだけに俺としてもかなり驚いた。
それに今は攻め込まれているからね。
けれども、セレド様は一瞬でその手に対策する一手を打つ。流石と言ったところかな。
ところが、次の一手をサラはノータイムで打った。
さっきの長考とは大違いだ。
その後もサラはセレド様とほぼ同じ速さで駒を打っていく。
その手数が増えるにつれてセレド様の顔がどんどんと険しくなっていった。
しまいには、セレド様の駒を打つスピードが遅くなっていく。駒に手を伸ばそうとしては止めて、また別の駒に行ったりと繰り返していた。
相当迷っているんだろうな。
そしてついに
「参りました」
セレド様の降参で勝負が終わった。
サラの残り時間ギリギリでの詰みとなった。
「まさか負けるとは思わなかったよ」
セレド様が悔しそうに言った。
「こちらも危なかったです」
サラも額の汗をぬぐいながらほっとしたように言った。
「まさか、私の直感を掻い潜ってくるとはね。恐れ入るよ」
どうやら、セレド様の直感が及ばない範囲で陣形を構築していたらしい。
だから、セレド様がまずいと思った時にはもう手遅れの状況だったみたいだ。
そんな高度な芸当をしていたんだな。
「長考した甲斐がありました」
例の長考の時に、あらゆる可能性を計算をして勝ち筋を見つけたらしい。
サラの「演算」だからなせる業だろうな。
もう一つの準決勝はハンナの勝利で終わった。
これで、オブリナ・サート杯の決勝戦はサラ対ハンナということになった。
ハンナも成績を見る限りかなりの強敵を破って来たし、どっちが勝つのか予想できないな。
決勝戦の前、休憩時間を取っていると
「リュウ、ちょっと話があるんだけどいいかい?」
セレド様に呼び出された。
「どうしましたか?」
「いや、リュウに一つ面白い物を貸してあげようと思ってね」
そう言って渡されたのはオブリナのセットだった。
ゲーム盤が折りたためるタイプのありがちなものだ。
「あ、ありがとうございます」
とりあえず受け取る。
「今要らないって思っただろう」
セレド様が俺を見て笑う。
「実はそのオブリナには魔法が施されていてね。決勝戦で使うにはふさわしいものになっているから使ってみるといいよ」
「そうなんですか!ありがとうございます」
そんなものを貸してもらえるなんてありがたいな。
「いやいや、大会を楽しませてもらったお礼だよ。それに君の仲間の勇姿を楽しませてもらいたいからね」
「そういっていただけると嬉しいです。使わせてもらいますね」
大会も大詰めだし、盛り上がる決勝戦にしよう。




