第103話 歓迎会その2
「「乾杯!」」
みんなでグラスを合わせた後、それぞれ思い思いの物を取っていく。
俺が手に取ったのはカインが作ってくれたローストビーフだ。
「うっま!!」
中の部分はレアな状態でしっとりしている。
それに余分な脂が落ちているからとても食べやすい。
「さすがカインだな」
隣にいたカインに感想を伝える。
「そういってもらえてよかったっす!」
カインも嬉しそうだ。この地方の文化としてお祝いの時にはローストビーフを作る習慣があるらしい。
「ちなみにこの料理ワサビ醤油ともあうと思うぞ」
俺は収納魔法から醤油とワサビを取り出す。
「本当っすか?塩が一番だと思うっすけど……確かにこれも美味いっすね!!」
味見したカインが驚く。
「だろ?」
お正月にローストビーフが出てくることがあったんだけど、その時に俺は醤油で食べていた。
ワサビでさっぱりするし牛のコッテリ感にはちょうどいいんだよな。
「さすが師匠っす」
カインが尊敬の眼差しで見つめてくる。
「いやいや、カインの方がすごいから」
俺にはこんなに美味しいローストビーフは作れないからね。
「そんなことないっす。こんな美味しく作れるのは師匠のおかげっすから」
街に売っている牛肉じゃこんな風にはならないとのことだ。
それならまあ、一役買っているということにしておこう。
今度は唸りながら堪能しているジェフの隣に向かった。
「このようなものを用意していただき恐悦至極」
ジェフがお礼をしてきた。
「喜んでくれてよかったよ。ちなみにジェフは冒険者の頃はどんなことを?」
「剣士でござる」
うん、イメージ通りだな。
使っていた剣も日本刀とのこと。勇者の使っていた剣をモデルにしているみたいだ。
「ハンナ殿から、会長のご尽力でマイマイ村に勇者の一振りが収められたと聞き申した」
今度空いた時間にマイマイ村まで見に行く予定らしい。
もしかしたら、今後ジェフみたいにマイマイ村に剣を見に行く人は増えるのかもしれないね。
ーーーーー
「セシルは何をそんなに見てるんだ?」
セシルが、ビールを注いだグラスを手に持ちながらじっと見つめている。
「このビールとっても美味しいんですけど、何か気になるんです……」
「気になる?」
普通にビールとして完成形のような気がするけど。
「この泡、もっと美味しくなると思うんです!」
セシルがそう言いながら俺に顔を近づけてきた。
急に来たもんだからびっくりしたよ。
「もっと細かい泡が飲めると思うんですよねぇ」
セシルがグラスに目線を戻しながらそうつぶやく。
「それをやるとなると、サーバーが必要だな……」
きめ細やかでクリーミーな泡。居酒屋でサーバーで入れてもらったビールを飲むときの醍醐味だ。
そのために俺は飲み放題で生ビール付きの追加料金を払っていた。
あんまりお酒そのものは強くないから2、3杯ぐらいしか飲めないんだけどね。
「さーばーとは何ですか?」
セシルが食いついてきた。
「セシルの言う細かい泡を出す機械のことだよ」
「そんな機械が!?どんなしくみなんですか?」
セシルが矢継ぎ早に聞いてくる。
「うーん、それはよく知らないんだ」
あの機械の仕組みどうなってるんだろうと思って調べてみたんだけど、いまいちよく分からなかった。
「そうですか……」
セシルがしょんぼりする。
「あ、でも似たような機械なら分かるかも」
俺が思ったのは缶ビールに取り付けるタイプの物だ。
ボタンを押しながら注ぐと泡になる。
雑貨屋で見たときは衝撃的だったよ。
あれは確か、超音波か何かで振動させて泡にするって仕組みだったと思う。
「ビールを振動……」
俺の説明全部を理解したわけではなさそうだったけど、俺の話を聞いてセシルが考え始めた。
「……時間をかければ作れるかもしれません」
「本当か!?」
「はい!」
セシルが自信満々の表情で頷く。
「是非お願いしたい。研究費用は任せろ、俺の給料から出す」
あの感動の泡を飲めるのなら資金援助はいとわないぞ。
「分かりました。結果を出します」
俺とセシルはガッチリと手を組んだ。
ビール同盟の結成だな。
「……なんでそんなことしてるんですか?」
急に現れたサラが片手にチキンを持ちながら俺の事をジト目で見てきた。
「持つべきは頼りになる部下ってことさ」
その言葉を聞いてサラは首を傾げたまま、再びテーブルの方へと戻っていった。
というか、本当にサラは良く食べるな。
それから、俺たちは飲んだり騒いだりしながら楽しく過ごした。
みんなお酒が回ってテンションが上がってくる。
すると
「歌います!!!」
突然酔っぱらったショーンが大きな声で歌い始めた。
あの、引っ込み思案な性格のショーンがそんなことをするなんて驚いたけど、なかなかの美声だった。
歌声には自信があったんだろうな。
有名な曲なのか、後半はみんなで大合唱していた。
良い曲だったから俺も覚えようと思う。
少し、酔いが回ったので、隅の席に座りながらみんなが騒いでいるところを眺めることにした。
横にサラが来る。
「もう満足したのか?」
「はい、お腹がはちきれそうです」
サラがお腹をさすりながら頷く。
それだけ食べればそうだろうなって言葉はとりあえず飲み込んでおいた。
「ならよかった。それにしてもこの光景を見ると考えさせられるものがあるな」
こうやってみんなが一堂に会しているところを見ていると、責任感が湧いてくる。
この人達を支えていけるようにしないといけないからね。
「リュウさんなら大丈夫ですよ」
サラがそんな風に言う。
「そうだな、サラやみんながいれば大丈夫か」
「はい!任せてください」
「ああ」
こうして、歓迎会は大満足の結果になった。
またこれから頑張ろう。




