第101話 ケーキプロジェクト その2
第3回サート商会会議で決まったのはあくまで方向性の決定だから、これから具体的に計画を実行していく必要がある。
まずはナターシャさんに相談しにサラとクトルと一緒に商人ギルドへと向かった。
会議で決まった内容をナターシャさんに伝える。
「お話は分かりました。作業場所の拡大ですね。サート商会の場合、リュウさんのスキルで費用も減らせますからね。良いと思います」
ナターシャさんからもお墨付きを得た。
「そうしましたら、ふさわしそうな物件を探しておきますね」
「よろしくお願いします」
数日後、ナターシャさんから連絡が入った。
再び商人ギルドに行ってナターシャんさんに会う。
「ケーキ工房に最適な場所を見つけましたよ」
「本当ですか」
すぐに見つかったみたいで良かったよ。
レンガ造りの平屋で賃料は月20万クローネとのこと。
ソルーン・バーガーを作る時に候補の一つだった商店街の通り沿いの店が、80万クローネだったことを考えると大分安いと思う。
「いいですね、実際に見に行ってもいいですか?」
「はい、今から行きましょう」
ナターシャさんに連れられてその場所へと移動を開始した。
行き先はソルーン・バーガーの近くにある商店街みたいだ。
人の行き交う商店街の通りをてくてく歩いていく。
「ここを曲がります」
ナターシャさんに連れられてとある脇道へと入った。
おかげで人通りはさっきに比べてだいぶ少なくなる。
まあ、薄暗い雰囲気のある場所ではないからそれほど不安になることはないけどね。
「着きました。こちらです」
ナターシャさんが一つの平屋を指差した。
「ここですか」
目の前の平屋はこぢんまりとしていて、隠れ家的な雰囲気がある。
家賃が20万クローネなのは人通りの少なさだろうな。
ここで店を開こうとしたら客を呼び込むのは少し大変だ。
ただ、今回のケーキ工房はあくまで臨時の作業場だから問題はないだろう。
それに、今後ここで店を開くことになったとしても「知る人ぞ知る名店」感があって、予約制のケーキ販売としてはかえって都合がいいかもしれないな。
「ここいいですね!」
「我もここでケーキを作ってみたいです!」
うん、2人とも賛成してくれているみたいだし決まりだな。
次にドルホフ商会に行く。
今回もドルホフさんが担当してくれるとのことだ。
「ほう、新しい厨房が欲しいと。面白いことを考えるやつじゃな」
サラの方から説明を聞くとドルホフさんが唸る。
確かに店じゃなくて厨房を作るって珍しいよね。
内装や冷蔵庫、大型のオーブンといったケーキ作りに必要な設備の見積もりを依頼する。
ちなみに、冷蔵庫そのものはソルーン・バーガーにかなり前から導入されている。
牛乳、肉等冷蔵保存が必要なものは冷たい温度で創造されていたから屋台の頃はあまり不便になることはなかった。
ただ、収納魔法には「時間経過を止める」機能があるだけで「冷やす」機能はない。
だから、必要な時も出て来るだろうということで開店準備の時、調理人グループから提案されてすぐに導入をしている。
スイーツ作りになったら更に必要になる機会が増えるだろうし、大事だね。
「欲しいものは分かった。後は実際に店を見てから設置費用を含めた見積もりを出そう」
「はい、よろしくお願いします」
なるべく安くあってほしいな。
最後はクトルを連れて商店街にある金物屋へと向かった。
ボウルやスポンジケーキの型、追加の泡だて器等を注文する。
泡だて器は、生クリームが創造魔法で作れるようになった時に作ってもらっていた。
ただ、俺の手に合わせて作ったものだから少し形が大きい。
だから、クトルの手のサイズに合わせて小さめの物を注文をする。
「我の相棒として大切に使わせてもらいます!」
クトルも嬉しそうだ。
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「計算が完了しました。すべて問題ないです!」
後日、ドルホフさんから届いた見積もり等の計算もすべてで終わったところでサラから最終的なゴーサインをもらった。
経営の最終的な判断はサラに任せているからね。
あと、今回はソルーンバーガーの時と違って商人ギルドの方からお金を借りることはない。
金額的にサート商会の持っているお金だけで賄えると判断したからだ。
ありがたいことにそれなりの利益を出せているからね。
だから、この決定をもって物件も借りる手続きやドルホフ商会への工事の依頼も正式にすることになった。
完成が楽しみだな。




