表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼は死にたいと言った

作者: SMD

ー人間は救われる為なら泥水だってすする。僕は自分の命すら切り売りするー




人は常に誰かにその存在を肯定してもらっている。そうしなければ生きていけない生き物なのだ。


人に会った時の挨拶、仲間との会話、コンビニでの店員とのやりとり。


もちろん会話以外にも自分の存在を確かめる方法はたくさん存在する。

それぞれ自分に合った方法を無意識のうちに獲得し、無意識のうちに救われていることだろう。


そのことを思えば私は彼が変なのかと聞かれると自信がない。

世間は広いから彼と同じような人はたくさんいるのかもしれない。


ましてや最近では自分の存在に虚無を感じ、殺人を犯す者が増えている始末である。

今この瞬間に、アメリカでは銃の乱射事件が起きているかもしれない。


それでも私はある一人の友人について書こうと思う。


私と彼の関係はただ高校で同じクラスだったというだけである。

彼はいつも一人ぼっちだったと思う。

昼食も一人で食べていたし、移動教室の際も一人で移動していた。

誰も進んで話しかけなかったし、彼も自分から話しかけることはなかった。

どのクラスにも一人くらいそういう人はいたから、私は特に変に思うこともなかった。

例え無口で協調性のない人でも、それは普通のクラスを作る構成員の一人なのである。


彼と初めて話したのはクラス替えからおよそ半年ほど経った時、席替えで隣になったことがきっかけだった。

最初は当たり障りのない話をしていが、徐々に打ち解けていった。

2週間ほど経つと、くだらないことー人がおよそ普段話す内容はくだらないことだろうがーを気兼ねなく喋れる間柄になった。


彼は自分のことをよく喋った。

自分は英語が苦手であること、自分は度胸がないこと、自分はちっぽけな人間であることなどの自己分析ーほとんどが自虐的だったーから自分は一人っ子であること、自分の両親は共働きであること、両親は夜遅くにしか帰ってこないことなどの家庭状況まで語った。

正直どうでも良かったが彼にとっては深刻な問題なようだ。

そしてある日彼は私にこう言った。

「自分が君にこんなにも自分を自虐的に話したり、家庭環境を話しても、決して自分のことばかり話したがるウザいやつとは思わないでくれ」

最初何を言っているのか分からなかった。

私は彼のことをウザいとは思ってなかったし、急にそんなことを言われても反応に困る。

おそらく、私は得意科目のテストで赤点取った時ぐらい困惑した顔をしていただろうが、彼はそんなこと御構い無しに

「僕は家では空虚なんだ。誰とも話さないから、以前は学校でもそうだった。でも、君と会ったから、話しのネタがないから自分のことしか話せなくって。だから僕、僕家だとちょっとしたことでもなんだろう、壊したくなるっていうか、そう、死にたい、死にたくなるんだ。僕は死にたいんだ。」

と、必死で訴えてきた。

彼には申し訳ないが、彼の訴えは私をより一層混乱させただけだった。


よく覚えていないが、その日はそれ以上話さなかったと思う。

家に帰ってからはそのことばかり考えた。

彼は死にたくなると言った。確かに言った。

心理的に追い込まれているのだろうか?

それとも精神的に疲れているのだろうか?

とにかく明日彼にもう一度聞いてみよう。

その上で自分ができることを考えようと決め、その日は寝た。


次の日彼は学校に来ない代わりに、担任から交通事故に遭ったという連絡が来た。

なんでも酔っ払いが運転するトラックにはねられてしまったのだそうだ。

朝の段階では心肺停止だったが、昼には死亡に変わった。

クラスの数人は彼の不運な死を悼み、半数は普段通り次の授業の準備をし、残りの半数はスマホをいじっていた。

私は彼が前日死にたいと言っていたので複雑な気持ちだった。

帰りのショートホームルームでは学級委員の女子が彼の為に千羽鶴を折ろうと言い、男子がやりたいやつだけでやってろよと反対の意を表明した。

千羽鶴って入院患者の回復を祈って送るとかそういうやつじゃなかったかと思ったが、私は反対しなかった。

その後ちょっとクラスがヒステリックになったが、彼の机に花を置いておこうということで折り合いがついた。


私は担任から住所を教えてもらい、彼の通夜に参加した。

彼の家は想像していたよりも普通の二階建ての家だった。

家の中は悲しみで包まれていた。

彼の遺影はあまり笑っていなかった。

その方がしっくりくる。

もし彼が満ち足りた満面の笑みでも浮かべていたら、彼の告白はなんだったというのだろう。

幸薄い彼の周りを線香の優しい香りが包んでいた。

私も線香をあげ、手を合わせた。

それで終わればよかったのかもしれない。

その時私に奇妙な好奇心が生まれた。

彼の部屋を見てみたくなったのだ。

二階建てで一人っ子なら自分の部屋ぐらい持っているだろうと考えた。

私の推測は当たっていた。

彼の母親から許可をいただき、部屋に入った。

部屋には勉強机があり、本棚が二つあった。

一方の机には教科書類がきちんと整頓されて並べられていた。

もう一方には小説がずらりと、こちらも綺麗に整頓されて並べられていた。

幅広いジャンルの小説が並んでいたが恋愛小説はなかった。

そのことに妙に納得しつつ、目をやると芥川龍之介の短編集の隣に一冊の分厚いノートが置かれていた。

それは日記だった。

ちょっとドキドキした。

彼が何を思って生きていたか、それがこの中に書いてある。

そう私は確信し、小さい頃両親からのプレゼントを開けた時のように、ワクワクとドキドキを噛み締めながらそれを開けた。

中には小さい文字でびっしりと書かれていた。

これを一気に読むのは無理だと考え、彼の母親に頼んで貸してもらった。

家に着くなり自分の部屋に駆け込み、再び開いて読み出した。

あの時私は何を期待していたのかよく分からない。

ただ私は彼の日記を読むことに夢中になった。

読んで読んで最後まで読み終わった時、私には読み終わったという満足感も達成感もなく、ちょっと後味の悪い感じが残った。

その日記にはその日の言動とその理由が彼なりの分析で書かれていた。

その日記によれば、彼は中学の時から死にたいとよく言っていたそうだ。

言うだけでなく実際にー未遂だったがー実行した。

最後のページにー空白のページはまだあったが、おそらく自分がこんなことをする目的が分かったから最後に書いたに違いないー彼はこう綴っている。


※僕は何をやっても駄目な人間だ。

運動はからきし駄目だし、頭もそれほど良いわけではない。

小六の時にはもう親に褒められることはなかった。

じゃあどうすれば良いのだろう。

どうやったら関心を持ってくれるのだろう。

考えた結果死にたがれば良いという結論に辿り着いた。

跳び箱から落ちて病院に連れていかれた時の両親の心配そうな目は一生忘れられない。

その時僕は心配されることで家族の一員であるあることが自覚できた。

心配されなければ僕は存在を自覚できない。

存在を感じられなければ生きていけない。※


それを読んだ時、私は気づいた。

彼は死にたいだなんてこれっぽっちも思っていなかったのだ。

彼は死にたがっているふりをしていたのだ。

私が彼の告白を聞いて心配したことこそ彼が一番望んだことなのだ。

彼が事故に遭わなければ、間違いなく私は心配して話しかけたに違いない。

事実そうするつもりだった。

死にたいという訴えは生きたいという彼なりの叫びだったのだ。

彼は生きたくて生きたくて、だからこそ、それこそ必死に死にたがるふりをした。

必死に生にしがみつき、自殺未遂までして存在を自覚しようとした彼、それがあっさりと交通事故で死んだ。

どんなに無念だったことだろう。

どんなに悲しかったことだろう。

彼の本当の思いに気づいた時、私の目から涙がとめどめもなく流れた。


今私は彼の家に向かっている。

手に花束を持ち、鞄の中には彼のノートと、お供え物として小説を数冊入れてある。

もうすぐ事故があった交差点だ。

彼は果たして成仏できたのだろうか。

できていて欲しいものである。

彼は生きている最中、ふりの為に心を砕きすぎた。

そんなやり方は長く続くはずがないのだ。

そんなやり方なんかせずに、あの日も死にたいなんて言わずに、いつも通りくだらない話で盛り上がりたかった。

せめて安らかに眠って欲しい。

稚拙な文章で読みにくかったりしたら申し訳ありません。

何卒温かい目で見てもらえると助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ