インディさんの美味しいインド料理店
「へい! らっしゃい!!」
……
…………バタン。
一度外へ出て空を眺める僕。
いつの間にか新しいインド料理店がオープンしてたので覗いてみたら、捻り鉢巻きをした胡散臭いインド人が「へい!
らっしゃい!」って何事かと思いましたよ……。
―――キィ……
「へい! らっしゃい!!」
やはり何かの間違いでは無かった様だ。しかし僕は怖い物見たさと空腹に耐えかねて、インド料理店へと足を踏み入れた。
「お客さん初めましてだね? 私インドから来ました『インディ・貞夫・ハワワード』です。宜しく♪」
「……え?」
まさかいきなり自己紹介されるとは思っていなかったので、ちゃんと聞いていなかった……。
「私の名前は『インディ・正芳・ハワワワード』と言います!」
さっきと何か違う気がするけど、まあいいや。とりあえず適当に食べてさっさと出よう。
「お好きなお席にどうぞ!」
意気揚々と胡散臭いインド人はお冷や一つカウンター席に置いた。お好きな席にとは一体……。
席に置かれたメニューを見ると、そこには『かけうどん、ざる蕎麦、きつねうどん』等の麺類が書かれている。
「OH! それ私のお昼ねー!」
僕からうどん屋のメニューをひったくるインド人。代わりにこの店のメニューらしき物を渡してくれた。
「お薦めは『ウニバーガー』ね!」
やたらとデカイハンバーガーの写真とバンズからこれでもかとはみ出すウニ。少なくとも見た目から美味しそうには全く見えないのが残念だ。
「…………ほかには?」
「ウニカレーはいかが?」
ホカホカのカレーに盛られたウニはカレーの色とミスマッチを起こしとても食欲が削られる仕上がりになっていた。写真写りが良いだけに尚更だ。て、言うか殻ごとなのね……。
「……えぇ……?」
「なら、ウニプリンは!? 自慢の一品よ!?」
厨房の大きな冷蔵庫を開け、小さな皿にちょこんと乗ったプリン。少なくとも見た目は普通だ。
「まさか醤油をかけてウニの味とか言わない……よね?」
「チッチッチッ……逆ですよ逆」
「……え?」
「ウニから醤油の味を引いたんですよ! その味わいは正しくプリン!」
そんなバカなとプリンとインド人を交互に見比べ、僕はスプーンをプリンに突き刺し口へ一口と運んだ。
「――うっ! ……臭い」
そのプリンは思わず飲み込むのを躊躇ってしまう程に、口の中で磯臭い悪臭を強烈に放っていた……。
「どう!? 美味しい!?」
「……うげぇ…………帰る」
「へい! お代は900円になりまぁす!!」
「は!? プリンしか食べてないけど!?」
「ウニプリンですから!」
僕は無言でカウンターに千円を叩きつけると、足早に店を出て向かいに置いてあった自動販売機でコーヒーを買い口の中を浄化した。
「……何て店だ!」
僕は怒りが収まらず、SNSで自分の身に降りかかった災難を盛大にネットのうみへと大放出した!
「――皆気を付けてね……っと。これでOK」
僕は気晴らしにインド喫茶へと向かった。
次の日、僕はたまたまインド料理店の前を通り掛かると、そこには得体の知れない大行列が出来ていた。
「な、何だ!?」
行列の先を目で追うと例のインド料理店へと繋がっている。僕は慌てて店の窓から中を覗くと店主と目が合った。
―――ガチャ!
「へい! らっしゃい!」
扉の外へ出て来た店主は相変わらず場違いな挨拶で僕へ笑顔を向ける。
「昨日はありがとね! お陰でお客さんいっぱいいっぱい!」
どういう訳か知らないが、どうやら昨日の僕の書き込みがバズったらしく、インド料理店は怖い物見たさで大盛況となっていた!
しかしその内何人かは口元を押さえながら店から出ているので、どうやら僕の味覚は正しかった様だ。早く潰れてしまえ。
「ありがとね! これお礼よ」
と、店主はお持ち帰り用のウニプリンを幾つか僕に手渡した。思わず捨てたい衝動に駆られたが、公衆の面前である手前一応持ち帰り、家族に食べさせた。
「―――オェェェ……!!」
やっぱり僕は正しかった。
読んで頂きましてありがとうございました!