翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第1章 龍と女神と幼馴染と?! Act3
まだ・・・眼の前が真っ暗な中。
自分に何が起きているのか。
ハッキリした事は何も見えてはいなかったんだけど・・・
眼を開けている筈なのに。
どうして気が付かなかったんだろう・・・そう思ったのは。
呼びかけている女の子の声が自分の字名を叫んだ時。
「真っ暗で君が観えないんだ。傍に居るんだろ?」
呼びかけて、もう一人の事も訊く。
「リュートは?冷たくなった手の訳を知りたいんだ!」
観えない状況を何とかしたくて、女の子に頼んだ。
どうしてかは分からないけど、女の子は暗闇から解放してくれるような気がした。
「そうね!ミコ。あなたはもう召喚に応えたのだから。
こっちの人間になったんだものね・・・えいっ!」
女の子が気合を込めたのか、勢いのある掛け声と共に何かをした気がした。
(( シュワンッ))
身体に何かが入って来たように感じた。
まるで・・・何かが身体に乗り移って来たような。
「えっ?!」
いきなり・・・そう。
眼が見えるようになった。
「あ・・・れ?!ここは?どこ?」
周り中、石の壁に囲まれた・・・石室のような所でポツンと座っている自分に気付く。
「何が・・・どうなってんだよ?」
呟いたのは一声だけ。
直ぐに手を握るリュートの方へ視線を向けて・・・
「リ・・・リュート?!嘘だろ?!」
驚きの声をあげてしまった。
冷たくなった手は解っていたのだが、まさか・・・
「石?いや違うっ、金属?!」
鋼色に染まったリュートの身体。
衣服を剥ぎ取られた姿で横たわる幼馴染。
「リュート?!リュートォッ?」
思わず声を荒げて呼んだが返ってくる声も無い。
「どうなっちゃったんだよリュート?」
びくとも動かない身体。
息さえもしていない・・・鼓動も感じられない。
「死んじゃった?リュートが?なぜ?」
金属のように冷たく、鋼のように重たい。
「ミコの下僕はこっちに来る予定じゃなかったんだよねぇ。
まぁ・・・何かの都合で紛れ込んじゃった・・・と」
さっきの女の子の声が頭上から聞こえて来た。
「予定?紛れ込んだ・・・って?!」
振り仰いで訊き返そうとした尊の眼に入って来たのは。
「君・・・って。もしかして妖精さんか・・・なにか?」
ふわふわ浮く少女の姿は・・・お伽話に出てくるような小人の姿で。
「その背中の羽根・・・動いてないけど。どうやって飛んでるの?」
気が動転して、全く見当外れの質問になってしまった。
尊の眼に映る妖精のような少女。
栗毛の長めの髪を靡かせ、薄青い髪飾りを着け。
空色のレオタードにハイソックス・・・
どこかの絵本から抜け出してきたような妖精そのものにも観えた。
「妖精じゃないわよ、ミコ。
私はれっきとした女神なのよねぇ・・・これでも!」
ツンっと顔を逸らして胸を張る少女。
ふわふわ浮きながら尊の周りを飛び回り品定めでもするかのように頷て。
「ミコ、あなたはそんな身体でも勇者さんなのよね?
私にはとても強き騎士には観えないけど・・・あなたの世界では勇者だったのよね?」
少々自信がないのか、腕を組みながら訊ねてくる。
「勇者?なんの事だよそれは?僕は高校一年生の男子なだけだよ?」
周りを飛び回る女神と言った少女へ断った途端に。
「えぇーっ?!ジョブは勇者じゃなかったの?!
それなら・・・って、高校生ってなに?」
目を丸くした女神が慌てて訊き返して来る。
なにか思いっきり落胆されているような顔で。
「あ、あのさぁ。勇者とか強き騎士とか、僕の世界にそんな職業ないから」
あるとすれば。
ゲームの中くらいじゃないのか?そう思う尊に。
「なぁ~んでぇ?!ミコは勇者じゃなかったのぉ?!
それじゃあ、どうして召喚に応えたのよぉっ?!」
泡を喰う女神が、半泣きになって尊に掴みかかる。
「そんな事言われたって。ないモノはないんだから、しょうがないじゃないか!」
目の前に詰め寄られた尊が反対に言い返すと。
「それじゃあ・・・私達って。魔王に殺されちゃうの?」
酷く怯えた様な顔になって後ろを振り返る。
その視線の先には、黒い澱んだ空間が存在している。
「もう直ぐ・・・やって来るのに・・・どうすりゃいいのぉっ?」
怯えた女神が尊に向かって回答を求めて来るが。
「どうすりゃって・・・僕達を元の世界へ還して」
本気で女神に向かって詰め寄り返す尊。
二人の視線が絡む。
方や召喚した女神。方や召喚された人間で間違われた者。
「僕は君の望んだ者じゃなかったんだから、さっさと元の世界へ戻して。
それから君の言う勇者さんとやらをもう一度召喚すればいいじゃないか!」
金属になったリュートを指し示して、
「こいつも一緒だからね。
二人揃って元へ戻してよ女神さん、ちゃんと生き返らせてね」
自分達をここから解放するように頼んだのだが。
「ああああああっ?!なんてこと?!それが出来ればやってるわよ!
一度召喚してしまえば帰るには魔王を倒さなきゃ帰れない決まりなのよ!」
女神の言葉に、尊が凍り付く。
「え?今何と・・・仰られました?」
ギギィっと首を廻した尊が訊く。
「だぁーかぁーらぁっ!魔王を退治しないと!
あなたが魔王を倒さないといけないの!帰れなくなっちゃうの!」
女神が言う事は。
「つまりぃ、ミコが現れる魔王を倒してくれないと。
この世界から帰れないし、命も無くなっちゃうって事なのよ!私も含めてね!」
泡を喰う女神。
呆然と女神の言葉を聞く尊。
「あの?どうやって倒すというんですか?
僕はこの世界の事は知らないけど、魔王って強いんですよね?
一介の高校生である僕がどうやったら魔王なんて倒せるんですか?!」
つい声を荒げて訊ねてしまうが、女神の方も頭を抱える。
「そうよねぇ、こんなちっこい少女に期待なんてする方が間違いだわ」
頭を抱えた女神が気になる事を言った。
少女?ちっこい?
それって?
「ミコ!あなたは確かに召喚されたのよ。
その身体に秘められた力がきっとある筈・・・筈なんだから!
その少女の身体にはきっと強大な力が秘められているんだわ!!」
また・・・少女と呼ばれた。
確かに自分は男子高校生の筈なのに・・・なぜ?
「あの・・・さっきから。少女だのちっこいだの言ってるけど?
僕は男子高校生なんですけど?・・・って?!」
頭の芯が呆然となった。
自分が置かれた立場に理解していなかったから、気にも懸けずにいたのだが。
話す自分の声が不自然である事にやっと気が付いた。
この場所へ来た時から、声が嫌に甲高いとは思ってはいたが。
「えっ?!なんで?マジかよ?誰の声・・・僕?」
喋れば喋る程、違和感が喉を指す。
「えっ?!なんだよ・・・これは?」
声だけじゃなかった。
気になって自分の身体を見下ろした時。
「ちっこい・・・けど。胸・・・そんでもって・・・あるべきモノがないっ?!」
触ってみて確認する。
確かに・・・自分が動かしている手。
その手の感触に胸が当たる。そのまま股間に手を伸ばして・・・
「ど、どどど・・・どぅなってるんだよぉっ?!」
いつの間にか。
自分の身体が別物になっていた事に気が付いた・・・今更。
「はん?ミコ・・・もしかして。
今の身体が自分のモノじゃないって・・・事なの?」
女神が少女の身体を観て、小首を捻って訊ねてくる。
「ど、どうなってるのか分からないけど、そうみたいなんだ!」
身体中を触り、感触が本物である事にパニックになる。
「ふぅ~んっ、じゃあ・・・これでも見てみ?」
妖精の様な女神が胸の前で手を組むと、尊の前に水鏡が現れる。
水面に映り込む姿は。
「はぁ・・・確かに。間違いなく女の子だよな・・・これは」
呆然と見ていたが、それが自分だと気が付いた瞬間に。
「うぎゃああぁっ?!僕が女の子に?なぜだぁ?!」
理解・・・したようだ。
「だから言ったでしょう?少女だって。
ミコは此処に来てから女の子になったんでしょ?
前の世界では勇者じゃなかったって言ってたけど。
本当は勇者で騎士だった・・・なんて事は?」
「ない・・・ないよ!ないんだってばぁっ!」
女神のダメ出しに思いっきり断った・・・少女の声で。
眼を廻して・・・錯乱した声で。
ミコは女神ミレニアに因って転移させられた。
異世界に召喚された時に、何が起きたというのか?
「僕・・・女の子になってる?!」ミコ
漸く・・・気がついたようだな?
で?どうするの?
ミレニアの言う通り闘う?
それとも・・・?
次回 第1章 龍と女神と幼馴染と?! Act4
僕の幼馴染・・・どうなってるの?
生き返らせるにはどうすれば?で・・・その人は・・・誰?