翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第3章 キル・ラルの遺跡 Act18
魔剣を手に入れたミコ。
だが、心此処にあらず・・・
聴こえた姉の声が何を意味しているのかと、考えて・・・
白き剣を振りかざして見詰めていた。
そこからもう一度聞こえてこないかと耳を澄ませて・・・
「なぁミコ?その剣に何かあるのか?」
じっと見つめて動こうとしないミコに、リュートが訊いたのだが。
「えっ?!あ・・・何でもないよ。綺麗な剣になったなぁ・・・って」
誤魔化しているのが丸解かり。
幼馴染で、今は下僕で・・・宿る翔龍には。
「言いたくないならしょうがないけどな。いつかは教えてくれるんだよな?」
魔剣を手にしたミコに、何かがあった事は間違いない。
今は話したくなくても、いつかは知る事になるのだろうと。
幼馴染で自分を頼って来る弟の様な存在の・・・
「それよりも・・・だ、ミコ。
お前・・・自覚してるのかよ?また・・・育ったって事に?」
不意にリュートが肩に乗り、視線をずらそうとして来る。
「ほぇ?何の事・・・だぁっ?!」
リュートに釣られて下を向いたミコの眼に飛び込んで来たのは。
「あ・・・あるっ?!ふくらみがぁっ、二つゥ盛り上がってるぅっ?!」
思わず剣を降ろしたミコの眼に、ポヨンと揺れる胸が・・・
「やっぱり・・・気が付いてなかったんだな?」
「ど、どどどどっ?!どうなってるのぉっ?!」
夫婦漫才か・・・・
「どうもこうも。魔剣を手にした瞬間に、だな。
魔力が繰り上がったんじゃないのか。レベルアップってやつ?」
眼が点状態のミコに、リュートがうんうんと頷き教える。
「じゃ・・・じゃあっ?!身体が完全に女の子に?」
「・・・それは、初めからだろーが?!」
トチ狂うミコが顔や体を撫でまわしてどうなってるのかを調べていると、
「見た目には、背の高さはさっきと変わらないけど、出る処が進化したようだな?」
リュート・・・セクハラ発言だぞ?
「ううう~っ、どんな進化なんだよっそれって!」
胸の大きさだけが変わったのかと、ミコが泡を喰って言い返すと。
「「そうねぇ・・・心も進化したんじゃなくて?」」
女神ミレニアが他人事のようにそっけなく言って来る。
「あのねぇ、ミレニアさん。他人事だと思って・・・他に育つ処がなかったの?」
身体が変わるというヘンテコな世界。
それがどんな意味を持つのか、全く理解不能のようだった。
「「ミコ、それはねぇ・・・誰かさんの所為よ?」」
ミレニアさん・・・誰かって誰の事??
「・・・とほほっ」
魔剣を手に入れたミコがサエの元まで来て。
「・・・ミコ、なにをそんなに嘆いているのよ?」
サエには分かっていないのか。
「育ったんだから良いじゃないの!」
解ってた・・・・
「サエさんは元々女の子だから!僕は男だったんだからね!
こんな胸って経験した事が無いんだから!」
混乱したままなミコが、訳の分からない言い分を放つと。
「おーっほっほっほっ!そんな事位で嘆くなんて!
アタシなんか始めっからないモノが付いてるんですからね!」
サエも・・・訳・・・わかめ。
辞めんか、二人共・・・
性転換してしまった二人が、お互いの身体を観て。
「はぁぁ~っ・・・・」
溜息を吐く。
ミコの身長がクエスト前より数センチ伸び。
サエも十センチ近く伸びていた。
つまり、それだけの成長を遂げられたという事でもあるのだが。
「いきなり女の子っぽくなった・・・」
ポヨンと弾む胸にミコがため息を吐く。
「アンタなんかよりも、アタシの方が問題なのよ!
こんな格好のままじゃ、単なる変態よ!どうすればいいのよ?!」
自分の姿に自信が持てないのか、サエがもじもじと身体をくねらせる。
「いや、そんな問題じゃ・・・別に似合ってると思うけど?」
男の娘にしておくのが惜しい程、女の子に近い表情を持つサエに、
「元が女の子ってだけで、色気があるのかもしれないね?」
もじもじするサエにミコが半ば恨めしそうに言ったら。
「そう?!そうなんだね!善かったぁ、変態に思われるんじゃないかと・・・」
白々しい眼がサエが喜ぶ前から注がれている。
勿論、男であるリュートからだが・・・
「なによ、狐モドキの分際で。文句でもあるの?!」
ジト目で観返すと、リュートに問い詰めた。
「なぁーんにも。別にどう育とうが俺には興味がない」
ふぃっとそっぽを向き、ミコの肩に乗ると。
「もうこの遺跡には用は残ってないようだから帰るとするか?」
二人にオズマンの宿屋へ帰る事を勧めた。
秘宝である魔剣を手に入れたミコと、闇の翔龍騎ジャキを滅ぼしたサエとに。
二人の目的は完遂された・・・筈だった。
「帰るのは良いけど。なんだか忘れているような・・・」
ミコが何かしらを思い、忘れ物を考える。
「そうよねぇ・・・なんだったかしら?」
サエも何か不都合な事を思い起こそうとしていた。
「僕達って、落とし穴に堕ちてここまで来たんだよねぇ?」
「そうそう!穴ぽこを避けたらもう一個、穴が開いたんだよねぇ」
・・・・
それって・・・つまり?
「あああああああーっ?!サエさんって墜ちて来たの?」
「あひゃぁっ?!戻り方が解んないっ?!」
二人共・・・どうするんだよ?
狐モドキのモフモフがミコの肩からずり落ちた。
______________
いつの間にやら・・・日が昇って来ていた。
紆余曲折の末・・・二人は翔龍に乗る事に因って脱出に成功したようだが。
丸一日を費やす羽目になったみたいだった。
「はぁ~っ、疲れたびぃ~っ」
サエがピンクの豹を仕舞い込みながら草臥れ果てたような声をあげる。
「前に同じ・・・」
モフモフのリュートを抱きしめてぺたんと座り込んでしまったミコも眼の下にクマが出来ていた。
「結局・・・一睡も出来なかった・・・し」
「お腹・・・へりんぼ・・・」
くたくたと座り込むミコとサエに。
「おらおらっ!こんな所で座り込んでいたら。魔物が襲ってくるぞ?!」
元気一杯のリュートが促してくる。
リュートは脱出するまでの間に、何匹化の魔物を倒して魔法力を補給してこれたから善いが。
「そんなこと言ったって・・・眠たいしお腹減ったし・・・疲れたしぃ」
ミコが動けないと、愚痴を返してくると。
「しょうがねぇなぁ?!」
モフモフの背中を向けると。
「翔龍になってやるから。乗って行けよ?」
魔法力に余裕があるのか、リュートが背におぶると言い出した。
「そ、そう?じゃ・・・お言葉に甘えようかな?」
眠気と空腹と、疲労感で甘える事にも吝かでない・・・とミコが頼むと。
「あーっ、アタシも載せてってよぉっ?!」
空を飛べるリュートに、サエも頼んで来る。
「だぁっ?!お前は自分ので帰れば良いだろ?!」
ピンクの豹は空を飛ぶ事が出来ない。
地上を駆けるのが得意分野の筈。
「良いでしょお?一人くらい余分に乗ってもぉ?」
リュートに頼んでも埒が明かないと、ミコに向かって頼んで来た。
「もうっ、しょうがないなぁー。これっきりだよ?」
ここで言い合っているのが無駄に感じたミコが結局承諾すると。
「・・・これっきりだからな?!」
止むを得ず・・・リュートも納得せざるを得なくなった。
ミコの魔法力で呼び出された翔龍が二人を載せて飛び上がる。
易々と飛び上がるリュートに身を任せ、ミコは手綱を引いて街へと向かう。
「僅かこれだけの距離だったのに。
どうして今の今迄、魔剣を採ろうとしなかったんだろう?」
空の上から観た遺跡と、街までの距離があまりに近く感じたサエが不思議がる。
「多分魔物が手強かったんじゃないの?」
あれだけの魔物の量には、流石のミコ達も手を焼いたから。
だが、サエは全く違う意見を返してきた。
「それは最近の話じゃないの。
アタシが言ってるのは昔からあのラルっていう遺跡が手付かずで残されて来た事よ」
古の昔に魔王が滅んでから、魔剣がこの地にあったというのなら。
誰も挑もうとはしなかったのだろうかと。
だが、確かタストンが言っていたと思った。
何名かの冒険者が挑んだと。
悉く失敗したとは聞いていた筈だが・・・
「それに・・・よ?
ラルとかいう賢者が封印した魔剣をミコがあっさり手に出来た事もふに落ちないのよねぇ。
アタシ達が落とし穴に掛かる前からジャキはあそこに居たんだから。
守護者が何のために護っていたのかも意味不明なんだよねぇ?」
ミコにそれとなく載せて還れと言ったサエ。
何故なのかが言葉の端から伺えた。
「サエさん、もしかして何か疑ってるの?僕達の事を?」
後ろに載せたサエに振り返らず、疑われているのかと聞き咎めた。
「別にミコ達の事を疑ってる訳じゃないわよ。
どうしてタイミング良くジャキが居て、どうしてこうも容易く手に出来たかよ?
どう考えって偶然が重なってるようには思えないじゃないの?」
そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
だが、考えてみても判らない事が多過ぎた。
<それに・・・美呼姉の声が。魔剣から聞こえて来たんだから>
確かに空耳じゃないと思っている。
姉の驚く声、そして動揺した叫び・・・に。
<美呼姉が、エクセリアに来ているなんて。
想像もしてない事だもんな・・・でも。
あの黒い魔法書が机の上に在ったのは事実だから・・・>
ミコは不確かな現実に戸惑う。
姉がもし、エクセリアに居たとして、なぜ魔剣から声が聞こえたのか。
なぜ、姿も見せずに声だけで消えたのか。
考えてみるのが恐ろしくもあり、追及する事が自分達の運命にどう左右して来るのかを思った。
「ミコ・・・何か思い当たる節でもあるの?急に黙り込んじゃって?」
揖斐かしむ声に我に返ると、目の前に街が迫っていた。
「あ、ううん。何でもないよ、ほらっ街だよ?!」
正直に答えられず、誤魔化す様に前を指す。
「ぼぅっとしてたのはお腹が減り過ぎた所為かな?
帰ったら先ずは空腹を満たさないとね?」
もう、街は眼の下にある。
ミコの変調を感じ取っていたサエも、今は追及するよりも・・・
「そうね!腹いっぱい食べなきゃ!アンタ達の奢りでね!」
「・・・どうして僕達が奢らなきゃいけないの?!」
街へと降りて行くリュートの背に乗り、二人の翔龍騎が嘲り合った・・・
街へと帰り着いたミコ達。
先ずは空腹を満たすのが先決とばかり、オイスターに転がり込んだ。
食事をしながらギルドマスターでもあるタストンに報告するのだったが・・・
次回 第1ステージ 終了((完結))
君は旅立つ。果てし無いクエストへと・・・エクセリアの秘密と魔王を求めて・・・
次回最終回!!!ハヤッ?!




