翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第3章 キル・ラルの遺跡 Act17
魔剣・・・
魔王の手にあったモノだという。
それが意味する事とは?
今現在、誰が持つというのか?
赤黒い剣。
柄の部分に施された刺々しい装飾。
どれを採っても悪魔の力が籠められている感じがしている。
まさに魔剣・・・そう感じていた。
「これってどうしても必要なのかな?」
剣を手にするかを躊躇してしまう。
確かに秘宝なのだろうが、自分にとって必要とは思えない。
「ねぇ、リュートはどう思う?」
足元に居る狐モドキに訊いてみる。
「うーん・・・どうなのか。
俺には判断し難いが、これから先の闘いに必要なのかもしれないしなぁ」
問われたリュートがミコの身体によじ登って、肩の上に乗ると。
「近くで観れば尚更、危ない感じがプンプンするな?」
ミコの目線になって、狐モドキも剣の柄に施されてある装飾を注視する。
刺々しい柄には、何かの文字が刻み込まれてある。
「なぁミコ、この文字が意味するのはなんだろう?
俺達には読めないが、女神になら読めるんじゃないのか?」
宿りし女神に問い合わせてみればと促すリュートに。
「そうだよね、ミレニアさんが起きてればなぁ・・・」
「起きてる」
あっさりリュートが言い切った。
「へっ?!どうしてリュートが知ってるの?」
自分に宿る女神の事をリュートが先に知ってるのか、小首を傾げて訊くミコに。
「どうもこうも・・・さっきから起きてやがるぜ?」
肩に乗るリュートに言い切られて、ミコが身体の奥に潜む女神に問いかける。
「あの・・・ミレニアさん?起きてたの?」
「「そ、そうよぉー(棒)」」
返事があっさりと返って来る。
「なぁーんだぁ、そうだったのかぁ・・・って。
いつから起きていたの?どうして今まで黙っていたの?」
ミコの問いかけに、女神は言い辛そうに。
「「あははっ、ミコが心の内を告げた・・・時からよ」」
「・・・それって。まさか・・・」
ミレニアが起きていたと聴いたミコの顔が真っ青になる。
女神はリュートに告白した時には起きていたと言ったから。
「あっ、あのっ!あれは・・・リュートには黙ってて!」
慌てるミコの声が肩に乗るリュートにも聞こえるのが解っているだろうに・・・
「ミコ?俺に内緒の話なのか?水臭ぇーなぁ、何の事だよ?」
ほら・・・
「あっ?!あのっ、それはそのっ?!つまり・・・なかった事にして!」
自爆した・・・誰がどう聞いても。
「「ミコぉ?あなたって本当に損な子ねぇ・・・」」
ミレニアにまで言われるとは。
つまり・・・公然の話になっているのだと、どうして分らない?
「ミコ?糞女神の事はほっておいて。
今はこの剣についてだ。何と書かれてあるかを訊くのが先決だぞ?」
リュートが話を切り替えてくれたことに、少なからず感謝の念を抱くミコ。
あの時気絶していた理由がどうあれ、リュートは不問に伏してくれた。
「そ、そうだよね。
・・・ねぇミレニアさん、これってなんて書いてあるの?」
ミコもリュートに併せて訊く事を優先した。
そんな二人の態度にミレニアは不満であるのか、それとも文字を解読しているのか黙っている。
「なぁ糞女神。どうなんだよ?」
ミコの胸元を観て、女神に問いかけたリュートが。
「魔剣ってジャキが言っていたが、どんな力を秘めているんだ?」
禍々しい剣に、どれ程の力が備えられてあるのかを訊くと。
「う~んっ、書かれてあるのは・・・これが魔王の手に在ったモノだってこと。
それと力は持つ者の能力に因って異なるんだってこと・・・」
ミレニアが何かを読み調べているような声で教えてくる。
「・・・っんだよ。またアンチョコ本を頼ってるのかよ?」
「「そうよ?!悪い?」」
悪びれずミレニアが即答して、
「「それよりも。これを手にする者には願いを遂げられる力が与えられるんだって!
魔王が持っていただけあって、それなりの力があるようね?!」」
希望的な事だけを教えてくる。
魔王の手に在った剣が、どうしてこんな所にあるのかも言わずに。
「ちょっと待てよ。この剣が魔王の手に在ったのなら・・・
どうしてこんな場所に突き立っているんだよ?」
リュートが不思議がるのも無理はない。
街から程ない場所の遺跡に、魔王の剣が突き立ったままなんて。
誰かに盗まれてもおかしくは無いというのに・・・だ。
「それもそうだよね?ミレニアさん確かなの、その話?」
ミコも不思議がって訊き直すとミレニアは。
「「この魔法書に書かれてある事に間違いはないから。
神の知りえる事が逐次改稿されるんだから・・・間違いは絶対にない!」」
言い切ったミレニアにますます不審が募るのは・・・
「間違いがないだってぇ?だったら俺達を召喚したのは間違ってないのかよ?!」
始まりが始りだけに、不信感が尚更に倍増したようだ。
「「あっ、あれはっ!私にも解らないのよ?!
確かにこの魔法書の告げた通りに召喚した筈だったのに・・・ねぇ?」」
同意を求められても困るのだが。
ミレニアがミコとリュートを召喚した事が魔法書によってなのかは知らないが。
「もうっ、今はそれよりも魔剣だよ?
ミレニアさんが言う通りなら魔王が持っていたんだよね?
僕に扱う事が出来るのか、僕達に必要なのか。
その事の方が大事だとは思わないの?」
ミコの求めている答えを返してこない女神に、
「そうだ!どうなんだよ?」
リュートも話を元に戻して訊く。
「「うーんっ、先ず初めに。
魔王が手にした剣の事なんだけど・・・誰も手にした者がいないから不明。
どうしてこんな所にあるのかは・・・ラルと呼ばれた賢者が封印したらしいの。
で、どうして闇の者が護っていたのかも・・・不明」」
魔法書を繰っているのか、ミレニアの答えは鈍行だった。
「それじゃあ、まるっきり解っていねぇって事だぞ?
ミコに必要なのかも、魔王の足掛かりを掴む事も何も判らねえってことじゃないか?!」
リュートが馬鹿にしたように女神に言い募ると。
「「しょうがないじゃないの!
誰も手にした者がいないんだから・・・あ」」
女神が気付いた。
今の話で見逃していた部分に・・・だ。
「ミレニアさん、今話に出て来たラルって賢者は、魔王の剣だって知っていたんだよね?
抜き放つ事もしないで封印する位なら、手にするのは躊躇われるってことだよね?」」
古の賢者が封印するだけに留めた・・・その訳について。
「「そうよね、ラルって賢者がどれ程の者だったのかの記載が無いから計り知れないけど。
誰かが引き抜こうとしたのは間違いない筈。
そして引き抜こうとした者がどうなったのかも・・・記載されていない」」
ミレニアが言いたい事は。
「その誰かに、善からぬ事が起きた?」
魔剣に触れる事がどれだけの危険を伴うのか。
禍々しい魔剣には触れてはならないのだろう。
「ラルって奴が封じた筈じゃないのかよ?」
意見を述べるのはモフモフの狐モドキ。
「賢者だか何だか知らねえけど。そいつが封じたんじゃないのか?
それに魔王が持っていたのはいつの時代の話なんだよ?」
今一度調べさせるリュートに、ミレニアの答えは・・・
「「あった、これね!ええっとぉ・・・なになに?
ラルの遺跡が造られたのは今から400年前?!
初代魔王が勇者に滅ぼされたのは1000年前って言われてるから・・・
どう考えても間尺に合わないわね?」」
600年の差が、どんな意味を持つというのか?
「「良いこと?初代魔王が滅んだ後に魔剣がこの場所に突き立ったって事になる。
つまり、魔王が居ないのに魔剣だけが突き立った・・・あり得ないじゃないの?」」
ミレニアが知った事実に注釈を加えて教える。
「「だから、この魔剣が魔王のモノだった可能性は低いって事よ。
遺跡が造られた年代が記載通りなら、これは魔王の剣じゃないって事になる!」」
だったら、何故ジャキは魔王の剣だと言っていたのか?
だとすれば魔法書に記載されてある魔王の剣は何処に有るのか。
「「この剣は確かに禍々しい。
そしてジャキが言っていた通り、賢者ラルが封印した通り。
間違いなく能力を持つ者には必要な剣なのでしょう。
でも、魔王の剣じゃない・・・今の処は。
ジャキが魔王の剣って言っていたのは・・・
これから魔王の持ち物になるって意味じゃなかったのかしら?」」
だから、今現在。ジャキという闇の翔龍騎が護っていた。
誰かに奪われない様に・・・と。
そう考えれば、辻褄が合う。
で、あるならば・・・手にすべき物でもあるという事だ。
「「ミコ・・・抜き放ちなさいよ」」
「ミコ、それを自分で制御してみるか?」
ミレニアとリュートが交々言う。
「うん・・・やるしかなさそうだね?」
肩にリュートを載せたまま、ミコがゆるゆると手を差し伸べる。
柄の部分が告げ棘しい魔剣に・・・
「いくよ・・・」
ぐっと力を籠めた手に、違和感なく吸い付いて来るような感じが。
手にした魔剣が生き物の様にミコを誰何する。
「「お前は異世界からの転移者だな?名は何という?」」
魔剣が声を発した。
「僕?僕はミコ」
返した名を魔剣が問い直す。
「「御子?お前の名を訊いたのだぞ?」」
問い直されたミコが首を振ると。
「違うんだ。僕の名は尊。
エクセリアに来てから呼ばれてるのはミコって名だよ?」
答えらえた魔剣が突然暴れ出した。
まるで何かに驚いたように。
「「ミコト?!・・・あなたっ、ミコトって言ったわよね?!
まさか・・・リュートの幼馴染の?!」」
急に魔剣の声が女の声に替わった。
しかも、此処で聴く筈もない声色で・・・
「えっ?!その声は?」
一瞬にして弟が気が付く。
「美呼姉さん?!」
魔剣に呼び返したミコに、暴れていた魔剣が急に大人しくなると。
「「そなたの名を刻んだ。今より我はそなたと道を同じくする者となる」」
初めの声に戻って従う意を示した。
「えっ?えっと・・・姉さん?」
魔剣の声が姉の声に聞こえてしまった。
そう思ったのだが・・・
「「ミコ?どうかした?」」
宿るミレニアには聞こえてなかったようで。
「なんだか剣に訊かれていたようだけど、何か言っていたのか?」
二人には聞こえていない様だった。
信じられないと思っていた。
だが、確かに姉の声が聞こえた。間違いないと感じて。
「ううん、何でもないよ・・・魔剣に名を名乗っただけだから」
手にした魔剣が形を変えていた。
あれ程禍々しかった柄の部分が白色の装飾になっていた。
刺々しかった柄が、羽を拡げた白鳥の様にも美しく観える。
「ふぅーん、見違えるくらい綺麗になったね?」
手にした剣を振り上げるミコに、
「スワンの剣って奴かな?いわゆる勇者の剣って奴だよ」
リュートが魔法の剣を観て感慨を述べた。
「うん、いい名前だね。気に入ったよリュート!」
これから自分と共に在る剣の名前を<白鳥>にしようとミコは思った。
一振りして剣の軽さに惚れたミコに、
「なぁミコ。今何があったんだよ?」
狐モドキが小声で訊いて来るのを、知らない顔を造って。
「うん?何かおかしなことでもあった?」
素知らぬふりをしたつもりだったのだが。
「・・・ミコが言いたくないなら・・・話したくなったら言えよ?」
深くは聞いてこないリュートの声が耳に痛かった。
この世界で姉の声を聞いたのだと・・・言える筈もなかったから。
心の底に仕舞い込んだのは、ミコが事実を知るまでの話だった。
リュートもミレニアにも、ミコの変調が解っていた。
唯、何がミコに起きたのかは知る由も無かっただけの事であった・・・




