翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第3章 キル・ラルの遺跡 Act5
サエと分かれたミコ。
単独行動が招くのは・・・?!
サエと別れて右の道を歩んだミコ。
遺跡にあるとされる秘宝を求めて、深部に向かうのだったが・・・
別々に行動する事が良かったのか、悪かったのか。
異世界に転移して日も浅く、冒険者としての経験も足りていない。
自分に与えられた翔龍騎の力のみが頼りだったのだが。
「ミコぉ、良いのかよ?あれでもサエは翔龍騎なんだぜ?」
別々の道を進む事にしたのが気がかりだったようで。
「単独でダンジョン攻略するってのは基本に添わないぜ?
昔から言うだろ、ダンジョン攻略の鍵は仲間の協力があってこそだって?」
ロールプレイングゲームを齧った事のある者なら当然の事だとリュートが言うのだが。
「そんな事はないからさ。
ミレニアさんも居るし、リュートが力を出せるのなら。どんな奴が襲って来ても大丈夫だろ?」
独りで向かう事に少しも不安視しないミコの言葉に、リュートは心配を募らせる。
「それにさ、リュートが護ってくれるから安心しているんだから」
肩の上に乗っかるリュートに、ミコが笑い掛ける。
「お前なぁ、いくら護るって言っても限界ってもんがあるぞ?」
狐モドキ状態になっているリュートが咄嗟にはどうにもならないとばかり、ため息で返すと。
戸惑いも無く答えられてしまった依存度に、更に心配を併せてしまった。
「とにかくだ。
慎重に進まないと危ないっていう事だけは間違いないんだからな?」
肩に乗ったまま、辺りの気配を伺うリュートの眼に何かが映った。
<なんだ?今何かが光ったぞ?>
ピンと獣耳を立てて気配を探るが、当のミコは気が付いていないのか。
「なぁ、リュート。
僕は思うんだけどさ・・・ミコ姉の事なんだけどさ…」
ポツリとミコが話しかけて来た事で、リュートの気が逸らされてしまう。
「な、なんだよ?今話さなきゃいけないことかよ?」
不意に話しかけられて、リュートが気配を見失った。
それだけミコの声が真剣に聞こえて来たからなのだが。
「えっと・・・うん。
二人きりの方が話やすいからさ。
ミレニアさんにも聴いてて欲しい事なんだ・・・これから話す事を」
歩きを停めたミコがモフモフの尻尾を撫でると、
「ミコ姉の事なんだけど・・・さ。
あの黒い魔法書をどうして手に出来たんだろうって思って。
それに・・・どうして眠り込んでしまってるのかなって・・・」
自分達が転移する一か月ほど前から、ミコの姉である美呼は眠りについてしまった。
そして美呼の机の上に在った黒い魔法書。
開かれたページには翔龍騎の絵が描かれてあった。
単に興味本位で開いてあったとは思えない。
なぜなら、傍に在ったノートに書き写された魔法の絵と文字が教えていた。
姉美呼は、何かを求めてしまっていたのではないのか・・・と。
タストンやサエの様に、自らなにかを求めて魔法書を読んでしまったのではなかろうかと。
「もしかしたら・・・美呼姉は。
この世界へ来ているんじゃないかな?
どこかで何かを求めているんじゃないかなぁ?」
飽く迄、自分の考えの範囲だと思いたかった。
姉が異世界に自ら望んで入る理由が解っていないから。
何かを望むにしても、自分の居る世界から転移してまでも求める事があるのだろうかと。
姉がもし、この世界へ来る程の望みを魔法書に求めたというのなら。
何を求めてしまったのだろうかと・・・
ミコの考えた事はリュートも思った事がある。
と、言うよりも。
リュートには見覚えがあったのだ。
幼馴染の女の子が何を想い、何を求めていたのかを。
それは決して口外出来ない。
ミーと、読んでいた幼馴染で同級生の女の子との約束だったから。
<ミコには話せない、ミーの口から言い出せるまでは。
俺には約束を守らなきゃならない義務があるんだ・・・今も>
必ず元の世界へ戻ると言い張るミコには、
約束を交わした美呼の言葉を話すのは憚れると思っていた。
「ミコ、そもそもだ。
どうしてミーの奴が、こんな異世界へ来たいと考えるんだよ?
お前が居るというのに、ほっぽって転移なんかするもんか」
心の底ではそうであって欲しいとの思いが交差していたのだが、
リュートは確実ではない話を真実であるとは思いたがらなかった。
自分が言ったのもまた、確実な事では無いと知りながらも・・・
「そ、そうだよな。
美呼姉が僕達の前から自分勝手に転移をする訳がないもんな。
それならそうと必ず話す筈だもんな・・・美呼姉は!」
((チクリ))
狐モドキのリュートが、ミコの言葉で棘が刺さったような気になる。
自分だけには話していたのかと。
ミーの奴は、弟には話してはいなかったのかと。
<この世界から戻れたら、ミーの奴に言っておかねぇとな。
最愛の弟にまで内密にしてたのかよって・・・な>
心の底でそう思っていた。
だが、よく考えてみると。
<それだけ・・・俺の事を信用してたのか?
俺だけに約束させて・・・俺だけに護らせようとしてたのか?>
姉が弟には喋らずに、幼馴染の自分にだけ約束させたのだと。
美呼は龍斗に誓わせた・・・約束を守れと。
その約束がどういったモノなのかは、リュートにしか解ってはいないのだが。
「ねぇリュート。どうしたのさ、さっきから黙り込んじゃって?」
声を掛けられるまで考え込んでいたリュートが、先程感じた違和感を思い出すと。
「そ、そうだ。さっきの事なんだがなミコ。
何かが光ったんだ、あの辺りで!」
考えていた事をはぐらかす様に、ミコに感じた気配の事を教え。
「注意しろよミコ。
何かが襲ってくるかもしれないぞ?」
隠れている魔物が襲撃してくるかもしれないと促した。
「えっ?魔物が?だったら急いでこの場から移動しないと!」
リュートに教えられたミコが歩き始めた時の事だった。
「えっ?!ミレニアさん?何がそんなに危ないと言うの?」
ミコに宿る女神ミレニアが何かを言ったようなのだが、リュートには聞こえてはいなかった。
「なんだよミコ、糞女神が何を言ったんだ?」
思わず聞き返したリュートに向かって。
「糞女神って何よ!あなたこそちゃんとミコを護りなさいよ!」
ミコの口からミレニアが出しゃばって言い返してきた。
「わっ?!いきなり乗り移るなよミレニア!」
びっくりしたリュートがミコの肩から飛び上がる。
「あなたが私を馬鹿にするからよ!
大体ねぇ、リュートは女神を敬う気がないからそんな悪口を言うのよね!
こう見えたって立派な女神様なんだからっ!」
飛び上がったリュートに向かって言い募るミレニアが、ミコの身体を支配すると。
少女の身体が女神ミレニアの姿へと変わる。
(( ピン ))
何かがミレニアの頭に触れた。
少女の身体だったのならば、触る事も無かったであろう高さに仕掛けられてあったのは。
((ビシッ))
歩き続けるミコに乗り移ったミレニアだったが、流石に気が付いた。
「あ。ヤバイ・・・これ。
私の身体に成ったからかしら・・・崩れちゃうかも・・・」
急に足を停めたミレニアが足元を観て冷や汗を掻く。
「なんだよミレニア?なにがそんなにやばいんだよ?」
宙に浮いたリュートから視線を逸らせたミレニアが。
「あははっ?!これって・・・お約束ってやつなのよね?」
下を指して教えてくるのは。
足元にある石の一つが罅割れていく。
何個かある石の中で、ミレニアが踏みつけている石だけが割れて。
「トラップ?!じゃねえのか?
何してんだよミコの身体に戻れよ、早くっ!」
体重の軽い少女の身体に戻れと叫んだのだが。
「あははっ、もう・・・遅かったわ!」
バキンと罅割れた石が、いきなり砕けると・・・
「じゃあねリュート。
ミコをちゃんと護りなさいよぉっ?!」
何しに現れたというのか、ミレニアはミコの身体に戻るとリュートに言った。
「どうせ墜ちるのを助けるなら、軽い方が良いわよねぇ?!」
足元から崩れ去って行く床が意味する事は。
「だぁーっ?!そのまま墜ちるのかよ?
それでも女神なのかぁ?!」
ミコの身体に戻った途端、崩れ行くままに落下が始まる。
「えっ?!あれ?わぁっ?!」
気が付いた途端に落下し始めたミコの叫びが虚しく響く。
「なんてこったよ!待ってろミコっ今助ける!」
崩れ去る床と共に落ち始めたミコの身体を追いかけるリュート。
落下は直ぐに終わる事も無く、このまま墜ち続ければ。
「死ぬぅっ?!滑落して死んじゃうのぉ?」
ミコの恐怖は本物だった。
トラップに引っ掛かった女神に文句を言うまでも無く。
先程感じた光が、スイッチの作動だったと考える暇も無く。
リュートは墜ち行く幼馴染で弟の様に想う子が、無事に済む方法を考えるのだった。
それは・・・
「ミコっ!俺に掴まれ!引っ張り上げてやる!」
モフモフの狐モドキ状態でミコを持ち上げられるのだろうか?
リュートの手がミコを掴む?
ああ、モフモフにミコが救えるのだろうか?
堕ちるのはお約束なれど・・・どうなる?
次回 第3章 キル・ラルの遺跡 Act6
落とし穴はダンジョンのお約束!当然回避出来るものと・・・出来なかったのかよ?!
幼馴染を助けるのは男の務めだぞリュート!そのお礼は・・・むふっ!




