翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act6
謎の女店主タストン!
彼女が語るのは・・・<エクセリア>の真実なのか?
女主の言葉に驚愕するミコ達。
エクセリアと呼ばれる世界には、魔王を名乗る者が数多く居るという。
その中に本当の魔王が居るのか居ないのか・・・
「それじゃあ魔王って呼ばれている中から探し出せって事なの?」
本物の魔王が誰なのか。
自らを魔王と名乗る者の中で、本物は誰なのか?
まさか魔王と名乗る者全てを退治しなければならないというのか?
宛ても無く闘う愚業を繰り返さねばならないというのかと、呆然とミコが呟いた。
「ミコは魔王を滅ぼさないと元の世界へ帰れないんだ・・・勿論俺もだけどな」
リュートも信じられない発言に口を挟んで来る。
「そうだったのねぇ。帰る為に魔王討伐をしているんだ?」
グラスを片手に、タストンが聞き返す。
「そう・・・だけど。
そんなに多くの魔王を名乗る者から探し出すなんて。
何年かかるか判らなくなったよ・・・」
意気消沈したミコが机に突っ伏してしまう。
「そうよねぇ、私が知ってるだけでも魔王を名乗っている者が3人ほど居るからねぇ」
他人事のように、タストンが話す。
「そのどいつもが本当の魔王なのかどうか。
誰にも分らないし、誰も認めてもいないわ」
誰も認めていない魔王って?
それはもう、魔王ではないのでは?
「でもねミコ。
本当の魔王っていうモノがどんなものなのか、どんな力を持っているのか。
誰も知らないし、知ったところでどうにもならないのよ。
闇の魔物を造っているとしたら、この世界に遥か昔から存在し続けている事になるわ」
エクセリアに存在する魔物。
それを魔法石から造り出している者が魔王というのなら。
エクセリアに魔王は確かに存在しているのだという。
唯、魔物がもし魔王の所為で産み出されるのなら、その存在は何処にいるというのか。
「誰も深く考えた事もない。
魔物が存在し続けるのが当たり前になってるから。
この世界に太陽と月があるように・・・当然の事とされてきたからねぇ」
ぽっと出の魔王になんかは出来っこない。
魔王を名乗る者の中には、魔物を生み出す事が出来るものもいるかもしれない。
しかし、それが本当の魔王なのかどうか。
「誰も魔王と闘った事なんて無いと思うんだけど。
伝説には一度だけ魔王が滅ぼされたと明記されてあるらしいけど。
それが本当の魔王だったのか、今では疑問視されてるわ」
タストンの言葉に、益々落ち込むミコ。
「タストンさん。
じゃあ、魔王を倒さないと帰れない俺達は?
いつまで経っても帰れないということなのか?」
リュートの声が絶望感を醸し出し、女主に訊ねる。
「それはどうかしらね?
魔王にもいろいろあるんじゃないかしら。
例えば世界の闇を司ろうとする魔王とか、世界を我が物にしようとしている魔王とか。
魔王にもいろんな者がいるんじゃなくて?」
「はぁ?!いろんな魔王だって?」
思わず聞き返すリュートの声に頷いたタストンが。
「魔王を名乗るだけあって、各々(おのおの)趣向が違う者達なのよ。
世界を牛耳ろうとする魔王の中でも、人の上に立とうとしている奴。
はたまた、己の満足の為だけに魔法を造ろうとする者。
・・・この世界にはいろんな転移者が来ているわ・・・困った事に」
異世界転移者が、この世界に何を求めて辿り着いたのか。
エクセリアに何を望んで転移したというのか。
タストンは心底嫌そうな顔でため息を吐く。
「野望を抱く者達の中から魔王を名乗る者が現れだした。
自分の力を買い被り、他人を寄せ付けない独りよがりな者が。
ミコが倒したというヴァイパーのレッドアイも、その内の一人に過ぎないのかもね」
確かにそうだと思った。
タストンの言った通り、レッドアイ位の翔龍騎が魔王とは思えない。
なぜなら、あの城から出て森の中へと入った途端に襲い掛かって来た魔物の方が、余程手強かったから。
「じゃあ、他に居る魔王を名乗る者の中に、本当の魔王は居ないと云うの?」
顔をあげてミコが訊ねると、タストンは首を振って。
「それはどうかしらねぇ。
居るかも知れないし、前部違うかもしれない。
片っ端から滅ぼしていくのが妥当ってモノなんじゃないかしら」
またもや出鼻を挫かれる言葉に、ミコとリュートが突っ伏した。
「そんなぁ、それじゃあいつまで係るか判らないよ」
2人がどうしていいのか途方に暮れているのを観たタストンが顔を逸らす。
その顔には何かを含んでいるかのような薄い笑みが・・・
「ミコ、魔王の情報を集めれば良いだけじゃないの。
可能性のある魔王モドキを退治していけば、
少なくとも無分別に闘う必要は無いと思うわよ?」
「情報?どうやって集めればいいの?」
タストンの説明に乗っかかって来たミコに、またもやタストンが薄い笑みを溢す。
「ああ、それはねぇ。
ギルドに加盟すればいいのよ。
魔物退治を生業としている討伐ギルドに」
そう言ったタストンがカウンターの引き出しから一枚の用紙を取り出すと。
「ちょうどウチも新しい加盟者を募集していた処なのよねぇ。
ミコみたいな翔龍騎が加盟してくれると助かるわぁ」
用紙とペンをミコの前に置いて勧めて来た。
ミコの前に置かれた用紙には何やら細かな文字が羅列されていたのだが。
「あ・・・あの?これにサインをすれば情報を求められるの?
討伐ギルドって、どんな団体なのですか?」
タストンに無理やりペンを握らされたミコが戸惑う様に訊くと。
「ああ、魔物討伐に必要な情報が伝えられてくるのよ。
その情報を元に、魔物退治をする事に因って代価を受け取れるの。
当然の事だけど、情報を入手しやすくなるわ」
タストンの説明に、成る程と思ったミコがペンを用紙に着ける。
「ほら、一番下に自筆のサインをすれば良いだけ。
サインすれば効力が発生するわ・・・」
ニヤリと細く笑むタストンに、リュートが危険を感じ取る。
「待てよミコ。契約は書かれてある事を善く読んでからでなきゃ・・・」
現実世界でも、この手の詐欺紛いが横行している事を思い出して注意を促したが。
ミコはさっさとサインしてしまっていた。
「あ・・・ミコ!人の忠告を・・・」
慌てたリュートが用紙を踏んだくろうと机にとびかかるよりも早く。
「あ~らっ、サインしちゃったのねぇ!これでミコは私の支配下になったのよ!」
タストンがニヤリと笑いながら用紙を指差し、
「ちゃんと読んだ?
ここにある通り、ミコの所属は此処<オイスター>に決まったのよ。
翔龍騎ミコはギルドマスターのタストンが掌握したのよ。
これでミコ達は此処以外に所属出来ない事になったのよ!」
ほーっほっほっ、と。
高笑いするタストンに唖然とした顔を向けるミコ。
言わんこっちゃないと地団太踏むリュートが、
「そんな契約は解除出来る筈だぞ!クーリングオフも利く筈だ!」
現実世界では消費者は保護されているのだが、この世界では・・・
「駄目よ、ちゃんとここにミコの自筆のサインがあるもの。
この魔法契約書は支配者が解除しない限りは有効なのよねぇ、残念でした」
がぁあ~んっ?!
リュートもミコもあまりの理不尽さに衝撃を受ける。
「やっちゃったわねぇミコ。
悪く思わないでよねぇ、だって私も商売だからさぁ。
情報はギルド員以外には漏らせられないし。
こうする事に因って、お互いの利益にも適うんだからねぇ」
タストンが調子のいい事を言ってくる。
「そんな事言って!俺達を出汁に甘い汁を貪ろうって魂胆だろ?」
リュートが反抗するのだが、
「宛ても無く旅をするよりは良いでしょうに?
ここを基地に、目的地へ向かう方が効率的だとは思わない?」
用紙をカウンターの戸棚に仕舞い込むタストンがリュートに答える。
「そうだよな・・・その方が良いのかもしれないな」
ミコはリュートとは違って、タストンの言葉に頷いてしまう。
「待てよミコ!それで良いのかよ?下手をすりゃー良いように動かされるだけだぜ?」
それでもリュートは心配そうに幼馴染に釘を刺すのだったが。
「リュート、タストンさんはそんなに云う程悪い人じゃないよ。
これはビジネスだって言うんだもの・・・Win=Winになれば良い事じゃないかなぁ」
ミコはお互いに適う事でもあるというタストンの言葉を信じたようだ。
「甘いよミコ、そんな事だから女神にだって騙されたんじゃないか!」
年上の幼馴染として警告するのだが、ミコはもうタストンに訊いていた。
「それじゃあマスタータストン。
情報を開示してよ、一刻も早く帰りたいんだから」
ギルドの一店主でもある女主に、情報を求めると。
「待ちなさいよミコ。もう一人、加盟させてからよ」
もう一枚用紙を取り出したタストンが横でのびているサエに近寄ると。
「起きな!あなたにもサインして貰うからね!」
揺さぶって叩き起こすタストン。
やっと目を開けたサエが用紙を突き付けられて・・・
「アンタは強制的に加盟して貰うからね!
これが借金返済までの取立て状替わりよ!」
突き付けられた用紙を観たサエがキョトンとしていると。
「サエ、一緒に加盟しようよ?
そうすれば充ても無く闘うような事から解放されるんだって!」
ミコが同意書にサインするように勧めると、
「これに?サインすれば良いだけなの?
それで借金から解放される・・・死罪は無くなるの?」
気絶していた間の話は聞いていなかったみたいで、用紙にペンを奔らせる。
「書いたわ!これでチャラって訳ね!」
書き終えたサエがさっさと立ち上がり店から勝手に出て行こうとすると。
「ああ、アンタ。
私の許可なく店から出たら・・・」
タストンが停めたが、サエはさっさと店から出る・・・と。
「ぎゃんっ!」
店にいつの間にか結界が貼られてあったのか。
知らずに出たサエが悲鳴を上げる。
「あらま・・・おいたわしや。
このように、私の許可を受けずに店から出ると・・・」
タストンが店から出て焦げたサエを踏ん掴んで戻って来る。
「・・・こうなるのよねぇ。判った?ミコ」
証文の魔力には翔龍騎であろうと関係が無いということなのか。
改めてミコはリュートに早まったと謝ろうとしたが。
「後のぉ祭りぃーよぉ・・・」
演歌の様な台詞をミコに返すだけだった。
「あはは、でもねミコ。
私が許可を与えれば良いだけの事。
あなたにはいつでも好きな時に外出する事を認めておいてあげるから。
この証文に記載しておいてあげるわ」
タストンはミコを丁重に扱ってくれるようだった。
心の底でほっと一安心したミコとリュートに。
「だってミコには女神様が憑いているんでしょ?
だったら結界なんてあっても無くても同じだからねぇ」
ニヤリと笑うタストンに小首を傾げるミコ。
「どういう事?それって・・・」
モフモフの狐モドキ状態のリュートもタストンを見上げて訊く。
「ミレニアが結界を破るって事か?」
二人に向かって首を振った女主が。
「いいえ、女神が契約された事に反する事はないから。
もしも約束された事を破りでもすれば、もう女神じゃなくなるからねぇ。
約束を破った女神はその瞬間に打ち消されて消えてなくなるか・・・
若しくは悪魔と化すだろうからねぇ」
この女主はどうしてそこまで知っているのだろうか。
それがギルドマスターたる所以なのか?
「ああ、私の事を何者なんだろうって思ったでしょ?
私は地方の一宿主で、ギルドマスターの一員。
その正体は・・・」
タストンが自分が何者であるのかを告げようとしている。
ミコもリュートも固唾を呑んで見詰めていると。
「只の商人。それでいて転移者でもあるのさ」
初めてだった。
翔龍騎以外の転移者がいたという事を知った。
このエクセリアに居る転移者には、能力者以外の人もいたのだと・・・
驚きの真実?!
タストンまでもが転移者だった?
彼女の話は何を告げるというのか?
エクセリアという世界には何が秘められているのか?
次回で第2章も終ります。
<エクセリア>に転移した者が辿るのは?!
次回 第2章 紅き魔法石 Act7
君はこの世界に何を求めてきたのか?帰還する為には何が求められているのか?




