翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act5
連れ込まれた男の娘サエ!
女主タストンが睨みつける前で・・・?
ミコは何の事かと聞き耳を立てるのだったが?!
夜中の店内で・・・
女主に連れ込まれたサエが畏まって座っている。
説教にも似たお小言を喰らい、俯いたままで。
「あなたを放免したのは確約したからよね?
必ず返しに来るからって豪語してたわよね?忘れた訳じゃないわよね?」
一言一言に重みを利かせて、タストンが確かめる。
「あなたが同じ位の魔法石の在処が解っているから・・・そう言ってたわよね?」
タストンの言葉にコクリと頷くピンク髪のサエ。
「自分の力なら、確実に手に出来るとも言ったわよね?」
またまたサエが声も無く頷く。
「それで?今晩此処へ戻って来たのは魔法石を手にしたからじゃないと云うのね?」
傍で聴いていても怖ろしい声色が女主から零れ出る。
「ひぃっ?!手に出来たけど・・・食べさせちゃった・・・から」
怯えるサエが言い訳をしようとしたが、タストンの眼に声を呑んだ。
「あなたの翔龍に喰わせたっていうのね?」
一歩女主タストンがサエに近寄る。
「ひいぃっ?!そう、そうなんですけど。訳があるんですぅ!
アタシが目標にしていた闇の翔龍騎が勝手に滅ぼされていて。
魔法石だけが転がってたのよ、倒した訳じゃないからつまんなくなって・・・つい」
「つい・・・なに?」
言い訳を必死に言ったサエに、タストンが迫り聞き咎める。
「ひいいいいぃっ?!つ、ついっ、パンサーに食べさせちゃったのおぉっ!」
((ぐいっ))
タストンに捕まったサエが、猫掴みされてダランと宙に浮かばされる。
「にゃぁっ?!辞めてくださいぃっにゃーっ?!」
猫語で怯えるサエ。
首根っこを摘まんで持ち上げる女主・・・
「あの、タストンさん?この子ってこれからどうなされるのですか?」
あまりの状況に、ミコが助け舟を入れてみると。
「ああ、無銭飲食の罪は・・・万死に値するわ」
ボソッと女主がミコに答えた。
「えっ?!無銭飲食で・・・ですか?」
驚いたミコが訊き返すと。
「そうよ?何か問題でもあるの?」
そら怖ろしい目でミコに応えてくる。
「ええっ?!本当ですか?この世界では食べ逃げしただけで・・・死罪?」
信じられないという意味でタストンに訊いたのだが、ミコを観ている眼が半端なかった。
「そんなぁ・・・死罪だなんて?!本当にゃぁーっ?」
猫掴みされたままのサエも必死に問い詰めるが。
「ホント・・・」
タストンの眼が嘘ではない事を告げている。
「い、嫌ぁっ?!お願いです赦してっ!必ず稼いでくるからっ!」
もう一度チャンスを与えてくださいと必死に懇願するサエに。
「だぁーめよぉーっ、もう逃がさないから・・・子猫ちゃん」
細く笑む女主が言い放った。
「きゅぅっ・・・」
魔法力ではそれなりに強そうな男の娘も、弱みを握られた相手には弱いという事か?
タストンに捕まれたサエが、あまりの事に卒倒してしまった。
「あらら・・・お薬が効き過ぎたかしらね?」
眼を廻したサエを降ろし、ミコに向かった笑い掛けるタストンが。
「ほーっほほほっ、そんな訳がないでしょうに」
あっさり嘘だとミコに教えた。
店の前で睨みあう二人に気が付いた女主は、仲裁の一計を図った。
ちょうど借金があるサエに、その件を言い募る事に因って。
「この子が金を払うって言ったらどうしようかと思ったんだけどねぇ。
案外図星だった訳よ、こいつは傑作だったわ!」
自分でバーボンをグラスに注いで、ミコに教えてくる。
「はぁ・・・借金があったなんて知らなかったから。
それにしてもタストンさん、サエはそんな事を言ってたのですか?」
ミコがモフモフの狐モドキ状態のリュートを机に降ろして訊ねると。
「そんな事?ああ、大口を叩いていた事ね?
そう、なんでも奥地にある城に居る魔王を名乗る者を退治して来るとか言ってたのよねぇ」
女主の言葉にミコもリュートも気が付いた。
「サエはレッドアイを退治しに行こうとしてたんだ?」
「だけども俺達が先に滅ぼしていた?」
2人が交々言うと。
「ほぅ?ミコ達があのヴァイパーの翔龍騎を?」
グラスを一口煽ったタストンが聞き返す。
「うん、そうなんだ。きっとサエは僕達の後から城に入ったんだと思う」
入れ違いになった。
そして労せずレッドアイの魔法石を手にした。
「それなら、魔法石を持って来れば良かったのに。約束通りに・・・」
ミコが気を喪っているサエを観ながら言ったが。
「多分。サエは自分が倒して力を得ようとしていたんだと思う。
それが着いてみれば魔法石になってしまっていた。
癪に触って・・・つい、自分の下僕に与えちゃったんだろうな」
リュートが知ったかのように二人に告げて、
「俺も魔力が無くなりかけたのなら食べようとするだろ?
サエも城に着くまでに、あの森を抜けて来たんだろうから・・・
帰る時の魔法力が足りなくなるのを恐れたのもあるかもな、
下僕の力が出せなくなって、ヤバくなるのを恐れて」
自分達も脱出するのがやっとだった、死の森を思い起こして言った。
「そうだったよなリュート。
あそこから抜け出すのは、翔龍騎でも一苦労するもんな」
森の中での出来事を思い出して、ミコが自分の身体をそっと掴む。
「独りであの城まで辿り着けたんだから。
この男の娘サエって奴の実力は相当なもんだろうさ。
闘うにしても手強いだろう・・・用心しないとな?」
ミコが俯いているのを観たリュートが話を変える。
「タストンさん、それで?
こいつはどのくらいの借金をしているんですか?」
グラスを置いた女主が指をVサインの様に示して来る。
「2ゴールド?そんな端金じゃないな。
20ゴールド?まさか200ゴールドなんかじゃないですよね?」
このエクセリアの通貨価値がどれくらいなのかは知らない事だが、
金貨が単位な事位はミレニアに教わっていた。
通常1ゴールドが1000エクレル。
1エクレルっていうのは日本円にして1円だと思えば分かりやすいか。
「あなた達が売った魔法石が50ゴールドに相当しているの。
この子が売った魔法石・・・あなた達の倍位ある大きさの魔法石。
あの石が100ゴールドに相当している・・・それでも足りなかったのよねぇ。
なにせ店の客全員のツケと飲み食い代金全てを賄うにはねぇ」
タストンがまたグラスを口に運んで教える金額は。
「まぁ、ざっと見繕っても・・・2000ゴールドにはなるわね」
・・・・・・
「はぁ?!ざっと・・・200万円?!」
リュートが計算早く日本円の価格を叫んだ。
「たったの1度、奢って・・・2000ゴールド・・・」
そら恐ろしい目で女主を観るミコ。
「なに?ぼったくりじゃないわよ?そんな目で観ないで。
ここに来る奴等のツケがそれだけ溜まっていた・・・だけの事。
それを知りもしないで大風呂敷を拡げてしまったこの子が浅はかだっただけよ」
いとも軽く受け流すタストンに、ミコが開いた口が塞がらなくなる。
「そ、それだけの金額を一つの魔法石で払えるとも思えないですけど?
サエはどうやって返すって言ってるのですか?」
リュートが魔法石の単価ではそれだけの金額を返す事は出来ないと思って訊いた。
「なぁーに、魔法石にも種類があってね。
力上位でそれなりの者の石なら、売り様があるんだよ。
もしかすると2000ゴールド以上の儲けになる事もあるんだからねぇ」
女主は意味ありげに教える。
「例えば、本物の魔王だったら。
そうねぇ、出るとこに出せば・・・街一つ丸ごと買えるくらいの金になるわ」
街一つって・・・どれくらいなのか?
「そんな大金が?
どんな魔物を倒せばそんな価値がつくのですか?
魔王を倒せば、魔法石の価値も下がるでしょうに?」
ミコの質問にタストンがグラスを停める。
「あら?ミコ達は知らないの?
このエクセリアには魔王って名のついた者達がごちゃまんと居る事を」
「・・・え?」
ミコもリュートも声を詰まらせる。
「本当に知らないみたいね?
この世界には魔王って奴等が数十は名乗っているのよねぇ。
その内どいつが本物の魔王なのか・・・誰にも分らないのよねぇ」
最悪の話。
魔王を求めるミコ達にとって、
それは宛ても無く探し回らねばならないと告げられたにも等しかった。
「なんだってぇっ?!」
今度は2人が驚愕する番だった?!
事実とすれば、ミコ達には絶望を与える事にもなる・・・
しかし?
次回 第2章 紅き魔法石 Act6
君達は帰らねばならない、しかし・・・目的は果たせられるのだろうか?




