翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act4
自分をドラゴン・ライダーだと告げた<サエ>!
闘う事を望むと云うのか?!
どうする気だミコ?!
その顔に浮かぶ笑みは何を表しているのか。
余裕をみせて笑うというのか?
闘いに勝つと、自信を伺わせているというのか・・・
「アンタって闇の者じゃないって言ったわよね。
女神に会ったって・・・光を授かっているんでしょ?
アタシは今迄、闇の翔龍騎としか闘った事がないんだ。
だからさぁ・・・アンタを喰えればきっと強くなれるんだよねぇ?」
歪んだ口から告げられるのは。
「アンタがどれ程の者かは知らないけど。
アタシの翔龍に喰われてくれないかしら?
勿論、闘ってくれたら良いんだから。遠慮しなくてもいいからさぁ」
細く笑むサエと名乗った男の娘がミコへと手を繰り出しながら言い放った。
翔龍騎が倒した相手を喰らう事は知っていた。
だけどもそれは闇の者だけだと思っていた。
リュートが魔力を補給する為に魔物の魔法石を食べるのを知っているから。
「サエ、君の翔龍はそうやって強くなっていくことが出来るの?」
魔法力の補給だけではなく、喰らった相手の力を取り込めるものなのかと。
ミコは翔龍が喰らう相手の力を取り込む事が出来るのかと訊き返した。
「アンタ、そんな事も知らずにいたの?
魔法の力を補給するだけじゃない事位教わらなかったの?
翔龍と契約する時に聞かされていなかったの?」
呆れかえったような声で、サエが逆に訊き返して来る。
「うん、僕は聞いていないから。
僕の翔龍は一言も言っていなかったよ?」
尤も、白金の龍とは契約を交わす時に少しだけ話しただけで、詳しく訊こうともしなかったのだが。
その事には触れず、ミコはサエが言っていた喰らう事の意味を知りたがった。
「君はどうしてそんなに強く成りたがるの?
翔龍騎だったら今のままでも十分強いんじゃないの?」
闇の者を葬り去った力があるというのに、まだ力を求めている訳は?
「アンタ・・・この世界の事をまるっきり知らないみたいね?」
答えより、小馬鹿にしたような返事が返って来る。
「うん、だってこの世界へ来てからまだ4日しか経っていないんだよ。
右も左も何もかも解っていないんだから・・・」
実際、ミコ達は翔龍騎になって闘う様になって、僅かに4日しか経ってはいない。
女神ミレニアに従ってこの街にまで辿り着いただけの事。
そのミレニアも女神となって1週間しか経ってはいないときた。
「だから・・・教えて欲しい位なんだ。
どうすれば魔王を倒せるのか、どうすれば魔王の元へ行けるのかを」
魔王の元へ行って、倒してこの世界から帰る。
それだけしか考えていない自分に、情報を与えて欲しいと願うのだが。
「アンタって、ホントーに馬鹿じゃないの?
アンタに教えたって意味がないって事くらい解らないのかしら。
だって、今直ぐ滅びる奴に教えてもしょうがない事位分らないのかしらね」
男の娘サエが少女のミコへと答えた。
「まぁ、アンタがもしも勝てたのなら教えてやっても良いけど。
萬に一つ・・・だけどね」
見下したサエが最後通牒を告げる・・・
「そう?じゃあ勝てば話すんだな?俺達が!」
頭上からリュートの声が割って入って来た。
「あ、リュート!」
見上げたミコの頭に向かって狐モドキのリュートが舞い降りてくる。
「聞いてたぜミコ。こいつを倒せば情報が手に出来るんだよな?!」
ふんわりと羽ばたいて、リュートが載っかる。
「え?!あ、うん・・・」
闘う事も全く辞していないリュートに、少々躊躇って頷くと。
「なんだよ此奴?!もしかしてアンタのペットか?」
蒼白い狐モドキのリュートを指差したサエが含み笑いを浮かべる。
「ペットだって?
俺はミコのペットじゃねぇよ、パートナーさ!」
自慢げに言い返したリュートがミコの頭の上で胸を張る。
「こんな弱っちぃ間抜けな奴がパートナーだって?
これはとんだ翔龍騎だな・・・拍子抜けだ」
リュートがプラチナ龍である事に気が付いていないサエが嘲る。
「そうだよな、こんなカッコを観れば誰でもそう思うよな?
でもよ、俺達はこれでも魔王を名乗る奴を倒したんだぜ?
ここから森を越えた場所に居たレッドアイとか言った奴をやっつけたんだぜ!」
リュートが自慢げに話した瞬間に、男の娘が眼を剥いた。
まるで仇を見つけたかのような、釣り上がった眼になって。
「お前達が・・・お前等が・・・だって?!
アタシの獲物を横取りした・・・ですって?」
ミコとリュートを睨むサエが、牙を剥きだしにして訊いて来る。
「あん?!お前の獲物だって?そんなの知るかよ」
リュートが止せばいいのに言い返してしまった。
「知るかじゃないっ!
お前等が倒した毒蛇のレッドアイはねぇっ、
アタシがさんざん苦労して探し当てたのよ、この辺りを仕切る闇の蛇女って奴を!
それなのに・・・お前らが・・・お前らが勝手に葬ったんじゃないの!」
勝手な言い方だが、苦労したと言う処に力を籠めて主張している。
「それこそ知るかよ。
俺達はミレニアに無理やり召喚されて、已む無く闘っただけなんだ。
その結果、俺は翔龍にされて、ミコは翔龍騎になった。
奴を倒す為に間違われてこのエクセリアに呼ばれ、闘って勝っただけの事。
お前に断りを入れる時間なんてある訳がないだろーが!」
火に油とはこんな事か・・・
「言ったなぁ!そこまでアタシを愚弄してタダで済むとでも思っているのか?!」
タダで済むとは思っていないだろう。
初めからリュートはミコを護る為、情報を得る為に飛び込んで来たのだから。
「お前の力がどんな物かはしぃーんねぇがな。
俺とミコは負ける訳にはいけねぇんだよ。
魔王とやらを倒すまでは・・・滅びる訳にはいかねぇーんだ!」
モフモフの狐モドキがミコの頭の上に載って、サエに言い返した。
「リュート・・・決め台詞を言う姿じゃないよ・・・」
ビシッと決めたつもりのリュートにボソッと突っ込んだ主人。
とはいえ、サエもリュートも闘う事を辞してはいない。
方や強くなる為、こちらは情報を求めて。
「言いたい事はそれだけ?
じゃあ、始めましょうか。どちらが強いかを分らせてやるから!」
ピンクの髪を靡かせ、サエが下僕を呼ぼうとした。
「待ちなさいよ、こんな場所で闘う気?!」
翔龍騎同士の闘いを前に、もう一人が停めに入った。
「しかも・・・こんな夜分に?
迷惑ったらありゃしないわ!他所でしてくれない?」
ネグリジェのままで宿から出て来たタストンが、心底迷惑そうに言う。
「店の前で駄弁るだけでも迷惑なんだよ!
その上闘おうなんて、はた迷惑ったらありゃしない・・・あ!」
睡眠の邪魔をされたタストンは怒る声を呑み込み、
「あっ、アンタは!」
サエに気付いて呼びかける。
「この間のツケ、払いに来たんでしょうね?」
言い放つ声に、サエの顔が引き攣った。
「あ、あの・・・それが・・・あの」
声を詰まらせ、しどろもどろに視線を宙へと這わせる。
「アンタ!あの紅き魔法石の代金以上に食べたツケ、
まだ支払いが終わっちゃいないの忘れていたんじゃないでしょうね?」
タストンがずかずかとサエに近寄り手を掴むと。
「あ、あのっ!代金は払うからっ!この手を離して!」
慌てふためくサエが、タストンから逃れようともがく。
「ほほぅ?それじゃあ・・・今直ぐ払って貰うわ!今直ぐにっ!」
男の娘を捕らえたタストンの眼がすぅっと細くなる。
「あの・・・タストンさん?
サエは何をしたの?さっきから聞いてるとなんだか無銭飲食がどうのって?」
あまりの出来事に、毒気を抜かれたミコが口を出してしまうと。
「助けなさいよアンタ!闘う事も出来なくなっちゃうから!」
全く意味が解らない・・・
「なんで?僕が助けなきゃいけないのさ?
で・・・タストンさん?」
無視を決め込んだミコが訊ねると。
「この子はねぇ、あの魔法石を買い取った相手なんだけどね。
調子がいいったらありゃしないのよ。
店に居た全員に奢っちゃって・・・その結果」
「あんなに飲み食いするとは思わなかったのよぅ!」
タストンの言葉に被せてサエが涙目で謝った。
「・・・・・」
タストンに捕まったサエがずるずると引き摺られて店内に連れ込まれていくのを、
呆然とミコとリュートは見送るしかなかった・・・
「なんだよ・・・闘うんじゃなかったのかよ?」
・・・畏るべし!店長!!
まさかの展開に声が出せなくなるミコ。
呆れたように呼ぶリュート。
あっさり掴まえられたサエに明日はあるのか?!
なんだ?この展開は?!
闘えよ?闘うんじゃなかったのかよ?
次回 第2章 紅き魔法石 Act5
君は驚愕の叫びをあげるのだった・・・気絶する子を目の当たりにして?




