翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act3
月明かりに浮かぶ女の子・・・らしい人影。
ミコの前に佇んだ、髪をリボンで結った姿の子。
魔物を倒して紅き魔法石に替え、自分のモノだと言い張っている。
「馬鹿とはなんだよ?そんな言い方はないだろ?」
馬鹿呼ばわりされたミコが言い返すのだが。
「アンタが馬鹿な言い方をするから。
人の話を理解もしないで何度も同じ事を聞き返すからよ!」
相手の子は謝るどころか当然だと言わんばかりに指を差して来る。
「アタシ、こいつを倒したって最初に言ったわよね?
それを聞き返す事が馬鹿だって言っただけ・・・お分かりかしら?」
指を突き付け、小馬鹿にするようにニヤリと笑う。
「うっ・・・わ、解ったよ」
言い負けしたミコがバツの悪い声で認めると、
「判れば良いのよ、この石を食べさせてあげなきゃいけないんだから」
ハスキーな声の女の子が紅い魔法石を掴みあげる。
「えっ?!食べさせるって?誰に・・・」
言葉を飲み込んでしまった。
目の前で、女の子が摘まみ上げた石を後ろに向かって放り投げたから。
紅い魔法石は地上へ落ちることなく消え去る。
白銀色の獣に喰われて・・・
「翔龍・・・」
ミコの眼に映った獣が、瞬く間に少女の影に消え去る。
ほんの一瞬の事。瞬く間の出来事。
だが、ミコの眼に焼き付いたのは間違いなく宿る者の姿だった。
「ほぅ、アンタ。パンサーが観えたの?今の一瞬で・・・?」
女の子の声が変わった。
小馬鹿にしていた時とは違って、遥かに重い声に聞こえた。
「うん、獣が一瞬だけね。君に宿る翔龍の姿がね」
自分に対して敵対する気が感じられたミコが思わず身構えると。
「アンタ・・・もしかして・・・アンタも?」
膨れていく悪意を感じたミコが、女の子が何を言いたいのかを先走って頷く。
自分も翔龍騎だという意味で。
頷いた事で、相手がイキナリ襲ってくるかもしれないと身構えながら。
「そう・・・アンタも魔物だったの?じゃあ、くたばると良い!」
違ったようだった。
早合点した自分も悪いが、勝手に思い込んだ女の子も同罪だ。
「違うよ!どこから魔物だなんて考えるのさ!
僕は君と同じ翔龍騎って意味で頷いたんだからね!」
同じ闘うにしても勘違いされたままじゃバツが悪いと考えたミコに、
「はぁ?!アンタが翔龍騎ですって?
笑わせるにも程があるわよ、ちんちくりんの女子のくせに!」
相手の子が毒気を抜かれたような声で言い返して来る。
「なっ?!なにがちんちくりんだよ!
君も女の子じゃないか!それに僕は姿形は女の子だけど中身は男なんだからね!」
馬鹿にされたと思ったミコがついつい、本当の自分を曝け出してしまった。
「なっ?!なんですって?
アンタが男ですって?馬鹿にするにも程があるわ!」
一触即発状態が、口喧嘩状態になってしまった・・・
「本当だよ!こう見えても元の世界では高校一年の男だったんだから!」
「はぁ?!元の世界ですって?
もしかして・・・本当のお馬鹿さん・・・え?マジ?」
目が点状態の女の子に、
「そう、マジで!
だからこの姿はこの世界へ召喚された時に変化したんだ。
美呼姉の・・・僕の姉さんのちっちゃな時に代わっちゃったんだ」
目が点状態の女の子に訳を話したのだが、理解して貰えているか心配になって。
「あの・・・分かる?僕の話している事が?」
ポカンと口を開けて訊いている女の子に問いかけてみたら、話を振られた女の子が急に笑い始める。
「あーっはっはっ!これはびっくりだよね。
こんな簡単に同種が見つかるなんて!・・・傑作だわ!」
お腹を抱えて笑い出した女の子にむっとしたミコが、
「何がそんなに可笑しいのさ!
好きでこの世界に召喚された訳でも、女の子にされた訳でもないんだ!」
自分が女の子になって喜んでいるんじゃないと言い返すと。
「アンタ・・・人の話を聴かない子だねぇ。
アタシは同種って言ったんだよ、同類項だってね。
この意味が解らないと云うのなら、ホントーに馬鹿よ?」
解る訳がない・・・そんな一言で。
またもや小馬鹿にされたミコがムキになって聞き咎める。
「なんの事だよ同種って。
何が言いたいのかさっぱり分からないっての!」
訊き返された女の子が頬を引き攣らせてミコを睨むと。
「アタシも・・・って、意味。
こう見えても元は女の子だった、こんな体になる前は!」
スリットの入った極短のスカートを捲り上げて紫のショーツを晒す・・・
女の子だと思っているミコが思わず目を逸らすと。
「アンタ男だったんでしょ?だったら見慣れている筈よね?!」
女の子が言っている意味が良く解らない。
下着というものを見慣れているのは元の世界の自分の下着位の物だ。
女の子にされた今でも、他の女の子の下着なんて見慣れては居ないというのに。
「ほぉ~らぁっ!アタシがどういう者なのかが解るから!」
「えっ?!それって・・・」
ハスキーな声に促される様に隠した指の間から透かして見てしまうと。
「げっ?!マジかよ?」
確かに・・・見慣れた膨らみが。
「ほぉ~らね。これがアタシに付いたのはこっちに来てから。
そう・・・アンタと同じ。私も転移したからよ!」
スカートを元に戻した女の子がミコへビシッと指を着けつけた。
「・・・あはは。君もなんだね?」
異世界転移者がもう一人いたと言う訳だ。
と、いうことは・・・
「君も魔王を倒すのが目的なんだよね?」
転移させられたと考えたミコが目的が同じとばかり思って訊いたのだったが。
「そうよ!この世界に居るとされる魔王を倒して・・・」
「そうかやっぱり!」
女の子が自分と同じ目的を果たすのだと口を挟んだら。
「魔王を倒してこの世界の王になるんだ!」
「そうそう王になる・・・はぁ?!」
今度はミコが目が点状態になる。
魔王を倒して帰還するのではなく、このエクセリアの王になるって聞こえたから。
「あの・・・帰るんじゃないの?」
恐る恐る訊き直すミコへ。
「どうして?帰らなきゃいけないのよ?」
逆に問い返されてしまう。
「どうしてって?元の世界に帰らないと困るだろ、いろいろと?」
訊き返されたミコが戸惑う様に答えると。
「困る訳がないじゃないの!
あんな世界には二度と戻りたくもないし、帰らされるのなんて嫌よ」
ぷんと横を向いて拒否する女の子の姿で男の娘。
「い、いや・・・あのね?
君はこんな世界で生きていくというの?現実世界へ戻りたくないの?」
ミコはヤバイ娘と話して居る気になって来る・・・
「親や兄弟・・・それに友達が心配しているんじゃないの?」
家出少女的発言に戸惑って訊いてみたら。
「アンタには関係ないでしょ、そんな事は!」
確かにそうだが、気にならない筈がない。
「でも・・・」
自分は還らなくてはいけないというのに、目の前の男の娘は首を振り。
「アンタには関係ないって言ったのよ、この薄らトンマ!」
心配して言ったのに、あまりの言われ方で返されて。
「関係なくはないよ!同じ異世界転移者なんだから。
僕は掛けられた魔法を解いて帰りたいんだ、元の世界へ!
だから旅をつづけるんだ、魔王って奴が何処に居るのかを探し出す為に!」
自分が魔王を探し出して倒さねば帰れないから。
そうしなければ何時まで経っても元の世界へは還れないから。
「アンタ・・・もしかして。
本当に帰りたいの?願ってこの世界へ来たんじゃないというの?」
「そうだよ!誰が好き好んでこんな世界へ来たいもんか!」
言い返したミコを男の娘は眼を見開いて言葉を呑んでいた。
「僕もリュートも、姉さんの事が心配なんだ。
こうしている間にも姉さんがどうなっているのか。
病院で昏睡状態の姉さんがどうなっているのか・・・心配なんだ」
2人連れで転移して来た自分達の身の上話を溢したミコを観ていた子が。
「まさかとは思ったけど。
本当に意図せず召喚されたみたいねアンタは。
不思議な事もあるみたい・・・アンタのようなケースは初めて聴いたわ」
ふっと息を吐いて、ミコを観る。
「アタシが魔王を求めているのは願ったから。
自分だけの世界を造る為に・・・自分の力で世界を造ろうと思ったから。
だから・・・身体は力を求めて男に変化させられた。
転移を求めて黒い古文書に願った通りに・・・ね」
自らが求めて転移したと教え、なぜ求めたのかも知らせて・・・
「アンタは意図せずこの世界へ召喚されたって言ったわよね。
どうしてなのかは知らないけど魔王を探し出して倒せると思っているの?
魔王を倒せれば帰れると思う根拠は何処にあるのよ?」
男の娘が自分の願いの果てと重なるミコの言葉へ聞き咎めてくる。
「それは・・・女神が教えてくれたからだよ」
自分に宿るミレニアにとは答えず、女神にとだけ教える。
「女神?!アンタは女神と会った事があるの?」
「うん、そうだけど?」
身体の中で眠ったままのミレニアの事に触れるのは今は控えておこうと考えて、
当たり障りのない言葉で返すミコへ。
「そう?!女神に逢えたというのなら、アンタは光を手に入れた筈だよね?
だったら・・・強いんだよねぇ?」
ニヤリと瞳を光らせる男の娘に気が付かず、ミコは否定をしなかった。
「アタシはねぇ、自分をもっと強くしたいんだよ。
強い者を倒して喰らう・・・そうすればもっともっと強くなれるんだ」
ミコに向けられた声が徐々に険悪になって行く。
「アンタ・・・名は?」
自らが名乗る前に訊いて来る。
「君ねぇ、名を聴くのなら自分から先に名乗るモノだよ?」
言葉に棘が感じられる。
名乗らせてどうしようという気なのかを慮ったミコの手が腰に伸びる。
「アタシ・・・か?
アタシの名は<ピンクのパンサー>さ。
勿論称号のことだけど・・・翔龍騎の。
アタシの事は<白銀のサエ>・・・って呼ぶと良い」
ミコに向かって手を繰り出して来るサエと名乗った男の娘が嗤うのだった・・・
いよいよ怪しい者?!
闘う事を前提としているかのような言葉にミコは?
次回 第2章 紅き魔法石 Act4
君は現われし者と対峙する・・・のだったが?!
忘れちゃいけないのが、どこで喚きたおしているか・・・と言う事!




