翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act2
バーテンダークリロンの胸に輝く紅き魔法石。
それが翔龍騎の成れの果てだとは思いもしなかった。
倒された者の力の大きさがそのまま大きさに反映されているというのか。
魔物と同じ・・・翔龍騎も倒されれば魔法の石を残すだけだというのか。
タストンとの話を切り上げ、自室へと戻ったミコとリュートは。
「なぁミコ。そいつがいつか現れるって思っているんだろ?」
狐モドキのリュートがベットの上で横になるミコに訊く。
腕を頭の後ろで組んだミコがコクリと頷く。
「そいつと闘う気なのかよ?」
タストンが言ったように<狩人>だとすれば、
相手と闘う事になるだろうと、リュートは思っている。
どんな相手なのか、どれぐらいの力を持つのか・・・
「なぁ、ヤバイ話には首を突っ込まねえ方が無難だぜ?」
リュートの方がミコよりも実世界では多くの体験を身に着けていたのだろう。
年下のミコに対して警告とも執れる話し方で教えたのだが。
「・・・リュート、僕達は一刻も早く戻らなきゃいけないんだ。
多少の危険は覚悟の上だろ?」
天井を見上げたままのミコが答えてくる。
「多少なら良いけどな。
相手が何者で、どんな翔龍騎なのか。
解ってからでもいいんじゃないか?今直ぐ会うのは危険過ぎると思う」
心配顔の狐モドキがミコの横迄来て諭す。
「ああ、そう願いたいところだけど。
相手はそう簡単に力を教えてはくれないと思うんだ。
だって、僕達を見つけたらいきなり闘う気だろうし・・・
それが<狩人>って奴だろうしさ・・・」
タストンに聞いた話に因れば、魔物を倒して魔法石を手にする者がいるという。
その中で魔物退治を生計にする普通の人間ならば遅れは執らないだけの自信はあったが、
今話をしている相手はそれなりに力の在る翔龍騎だと聞いた。
しかも、ソイツは闇の翔龍を狩るだけではなく、
見境なしに闘うと言っていたと聞いたのだ。
「厄介な事になったなミコ。
魔王を探すだけでは済まなくなったという事か・・・」
この<エクセリア>がどんな場所なのか、未だに良くは解っていない。
ミコに宿るミレニアにも、本当の事がイマイチ把握できてはいないようであった。
「「ミコ・・・魔王の情報はそいつから取れるとは思えない。
危ない橋は渡らない方がいいんじゃないの?」」
身体の中から女神も躊躇したような声を掛けてくる。
「「魔王が居る事は間違いないのだから、なにも他の翔龍騎と争わなくても」」
話の元である相手が何者か掴めていないから、ミレニアも遭遇する事に反意を示した。
「ミレニア、リュート。
僕達が会わずにしてても、相手の方がきっと襲って来ると思うんだ。
いくら闘わずに済ませようとしても、そいつはきっと現れる・・・戦いを求めてね」
覚悟を決めているようなミコの言葉に、ミレニアがもう一度反意を告げようと声を出そうとした時。
「そっか、ミコも成長してたんだなぁ。
俺の知らない間に、男になってたんだなぁ」
リュートの声がミレニアを停める。
「あんなに争う事が嫌いだったミコが。
姉の影に隠れて表に出て来なかった弟が、
ちょっとは男らしい事を言うようになってたんだなぁ」
感嘆とも採れる声をあげたリュートが、
「ミコがそこまで考えているのなら俺は反対しないぜ。
現れたのなら闘うまでだ、相手がそれを望むと云うのならな」
ミコの脇で丸こまって休む姿勢になる。
狐モドキになったとはいえど、
現実世界では兄貴分のリュートに信頼された気がしてミコは気恥ずかしくなってしまった。
紅くなってしまっているかもしれない顔を逸らして、
リュートに心で感謝している自分にも戸惑いを感じていた。
<どうしたんだろう?いつもなら冗談半分にからかう処なのに?>
心の片隅で、何かが疼いているような気がするミコだった・・・
「早く休めよミコ。明日は忙しくなりそうだ」
丸まった狐モドキのリュートが欠伸して促す。
「ああ、お休みリュート。また明日な」
リュートに背を向けたまま、ミコが応える。
小さな胸に何かを感じながら・・・
まだ、夜中・・・
寝静まった街中を影が蠢いていた。
「くっくっくっ!寝静まったか。奪い返すのは今だな」
影は一件の宿屋の前で立ち止まる。
「翔龍騎とはいえ、やはり子供には違いないという事か。
夜こそ、見張らねばならんというのに・・・甘い奴等だ」
影はフロントハットを被ったまま、宿屋へ近寄る。
「あなた・・・そこで何をする気なの?」
不意に影へと声が落ちてくる。
ハスキーな声が帽子の上から影の男へと訊ねてくる。
「訊くだけ野暮か。
お前・・・闇に属する者だよな?」
影の存在に気が付いたのか、声の主が咎める。
「だ、誰だ貴様は?!」
声の方を振り仰いだ男が観たのは。
「誰だって良いじゃない。あなたには関係ないでしょ?
それに・・・邪魔なのよ、あんた達。
私の邪魔になるんだから、消えなさい・・・」
お下げ髪が靡いて観えた・・・一瞬だけ。
有無を言わさぬ光が瞬くと、フロントハットを被っていた男に突き刺さる。
「ほぅ・・・魔物だったのね。
しかも・・・それなりに強い・・・闇の魔王の配下って奴なんだ?」
光弾を喰らっても倒れずに済んでいる姿を観た、お下げ髪の少女らしき影が細く笑む。
「貴様?!只の魔法使いではないな?」
帽子を脱ぎつつある男が正体を現し始める。
ボサボサの髪が蠢き、黒く沈んだ両目が鈍く光る。
「そうよ、私は来訪者。
この世界の住人ではないわ・・・最も、今はそうだけども」
闇の下僕に姿を変えていく男に向かって、ハスキーな声が教える。
「来訪者・・・だと?!まさか、貴様は?!」
闇の存在が、目の前に進み来る少女の影に怯える。
ゆっくりと月の光から姿を現してくる者が何者かが解って。
窓辺に一瞬だが光が瞬いたような気がした。
月明かりが反射したとは思えない位の光を感じて・・・
<今のは?確かに誰かが魔法を放った?!>
うとうとと微睡んでいたミコが起き上がり、窓の縁から伺う。
月明かりが煌々と照らす中で、気配を探ると。
「あ・・・あれは?」
宿の真下、入口付近に二つの影が観える。
方や人の影。
もう一つは・・・魔物の悍ましい姿。
「やっぱり、来たんだ!」
眠気が一度に覚める。
身体の中に宿るミレニアは何も言っては来ない。
「ミレニアさん、寝てる場合じゃないよ!魔物が襲って来たんだ!」
女神に戦闘になると呼びかけたが、返事は返っては来ない。
「全くもう!肝心な時にはいつもそうなんだから!」
宛てにならない女神に毒づく暇もあらば。
「リュート!魔物が襲ってきた!直ぐ起きて!」
ベットで蹲る狐モドキの幼馴染に声を掛けながら、一目散に階段下まで駆け下りていく。
店の中へ魔物を侵入させる訳にもいかず、ミコは単独ででも喰い止めようとしたのだが。
((バアアアァンッ))
1階まで駆け下りた時、店の外で破裂音が聞こえた。
「しまった?!奴がもう?」
てっきり攻撃されたと思ったミコが、手に剣を抜き放って店から飛び出た時見たモノは。
「あ?!あれ?」
シュウシュウと煙を揚げて崩れ去る魔物の姿だった。
「どうして?誰が?」
崩れ去る魔物だった者。
きな臭い匂いを発ち込ませ、崩れ去った魔物が一つの石に替わり果てる。
あの紅き魔法の石へと。
「その石はアタシのモンだからね!」
どこかからか、ミコが見詰める石を自分のモノだという声がかかる。
「アタシがやっつけたんだからね、後を追いかけて倒した労力の代償だから」
不意に何かの光が辺りを照らしたと思ったら、ミコのすぐ横からハスキーな声が告げてくる。
魔物を倒したのは自分なのだと。
すぐ傍まで来た人影が、墜ちている魔物の成れの果てを指差し。
「これはその宿屋に侵入を図った魔物の石。
あたしがきっちり倒してやったのよ、感謝して貰いたいくらいね!」
お下げ髪をリボンで括った女の子が、ハスキーな声でミコに言う。
「あ、そうだったのか。君が倒してくれたんだね?」
ミコが訊き直すと、その子が眼を細めて言った。
「アンタ、アタシが言った事が理解出来なかったの?
こいつを倒したのはアタシだって言ったじゃないの。
・・・アンタ・・・馬鹿ぁ?」
お下げ髪の少女は、高飛車に罵声をミコへと浴びせて来た・・・
目の前に姿を見せたセーラー服モドキを着た少女?
それにしてはハスキーな声なのだが・・・
闇の者を倒したというのか?!その実力は?!
次回 第2章 紅き魔法石 Act3
君は現れた者に正体を暴かれる?!そして・・・




