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店[1]

 半時間も歩いたろうか。その店はあった。

「こんなとこにリサイクルショップ、あったか?」

 廃業した商店か何かを改造したような、リサイクルショップがあった。

 俺はこのへんの住人じゃないけど、たま~に来てたんだけどな。気づかなかっただけかな?

 とりあえずチェックすっか。

 そのへんにいる精霊たちに声をかけた。

『ここに敵とか、動く死体とか骨とかいないか調べてくれる?』

【いいよー】

 精霊に頼むと、すぐに返事が来た。 

【店内には動くものなし。ただし奥には住人の遺体があるよ。

 店の天井裏が倉庫になっていて比較的安全。虫が少しいる】

『安全?根拠は?』

【「彼ら」はハシゴを登ってこない】

『出入り口を押さえられるんじゃ?』

【屋根に出られる】

『屋根か……』

 

 屋根か、それいいかもな。

 しかし。

 あっちの世界の精霊も可愛いけど、こっちの精霊も本当可愛いなぁ、フフフ。

 

 そんなことを考えていたら、

「ユー」

「?」

「マオも可愛い」

「お、おう」

 ぎゅううって抱きつかれた。

 こいつ、前ならでっかい猫だから可愛いですんでたけど、今はシャレにならないんだがなあ。

 つーか俺たち実は全裸だからやめてほしい、触ってるから。

 わかってんのかなぁこの子は。

「ん、こっちも可愛い」

「うわ!どこ触ってんだ!」

「つんつん、動いた」

「こら!」

 当人はジャレてるつもりなんだろうが、シャレになってねえ。

 

 

 とりあえずマオにチョップをかますと、リサイクルショップに入ってみた。

 シャッターがしまっていたから精霊たちの情報に従い、屋根の方から入ってみた。

 入るのにちょっと苦労したが、ここは繁華街にも近い。

 ニオイの元らしき奥の自宅?には近づきたくないし、外からゾンビが入ってくるかもしれないからな。

 そんなわけで、ドアも窓も全部閉めて、簡単に開かないことも確認した。

 店の方は逆に完璧だった。まるで今も営業中みたいだ……真っ暗だけども。

『明かりを頼む』

【わかったー】

 精霊たちに明るくしてもらった。

 ただ。

「やはり……ここで泊まるのはちょっと無理だな」

「ウン」

 ひでえニオイだけはどうにもならない。

 おまけに俺もマオも、人外の鼻の持ち主。

 とてもじゃないが、この中で寝られそうになかった。

 精霊に清掃を頼んでみたものの、どうしても強い臭気が残る。

 特に、奥の部屋に染み付いた臭気は敏感な鼻には暴力的で、俺はちょっと馴染めそうにない種類のものだった。

「すごいくさってる」

「あー……これ腐敗臭なのか。何が腐ってるのかわかるか?」

「たぶん人間」

「そうか」

 昔の俺なら埋葬も考えたかもだけど……ちょっと近づけない、ごめんよ。

 衣類と使えそうな生活物資だけもらい、おいとますることにした。

「ユー、服あった!」

「おう……って渋いなおい」

 めちゃめちゃ古着じゃないか。

「そっちのキレイな服も見とけ、サイズの合うやつをな」

「よくわかんない。なにこれ?」

「……それがパンツ以外の何に見えるんだ?」

「え、これパンツなの?パンツってこう、ヒモの……」

「そりゃドロワーズだ……ってそうか」

 こいつ、近代地球の女物なんて知ってるわけがないか。

 ……俺が教えるの?やっぱり?

「ん?ユーうれしそう?」

「いやいや」

 しょうがない、どこかでファッション誌でも探して見せるしかないな。

 

 古着でもマオは喜ぶが、これは単にあっちの服がボロかっただけだ。

 あっちの世界じゃ自動織機がないせいか、布は高価だった。リフレッシュしつつ大切に使い回すから、古着になるともう、リフレッシュしきれない長年の疲弊でボロボロだったんだ。

 それがいいことなのか悪い事なのかはわからないけどな。

 さて。

 衣類のほかはマッチを少し。あとバッテリーを見つけたので、一番大きいやつをもらった。あと配線やらいろいろ。太陽電池もかな?

「それなあに?」

「バッテリーだ。今後のためのものだな」

「?」

 動くパソコンとスマホがあれば情報収集を試みるだろうし、そうでなくとも機械を動かすのに使えるだろう。

 あと、ラジオもあった。まだ放送していればいいが。

 機器類をアイテムボックスに投げ込んだ。

「問題は食料か」

「ないね」

「リサイクルショップには置いてないよなあ、やっぱり」

 スーパーなんかは間違いなく、ゾンビの温床だろう。

 しかし。

「どこにあるの?」

「……コンビニ行ってみるか」

「こんびに?」

「コンビニエンスストアといって、夜中もやってる事が売り物の小さい店だ。量が少ないがひととおり揃ってて、そして」

「ゾンビも少ない?」

「正解。なんたって店が小さい、確保もしやすいだろう」

「わかった、いこ?ユー」

「おう」

 おなかがすいたのか、だんだんとマオが積極的になっていた。

 

 

 いわゆるアンデッドのなかでもソンビは、異世界でも非常に嫌われていたと思う。

 ただそれは、強さによるものでは全くない。

 臭い。

 不潔。

 トラウマ製造機と言われる圧倒的なおぞましさ。

 家族、友達、恋人、恩師。

 それら本人の遺体がひとりでに立ち上がり、こちらに向かってくる恐怖。

 

 そして何より。

 ゾンビ対応で何より恐ろしく絶対忘れちゃいけないのは、ゾンビそのものよりも、そのゾンビパニックの中で他人の足を引っ張る人間そのものだとも言える。

 

 静かにしろといってもヒステリックに騒ぎ続け、周囲のゾンビをどんどん呼び寄せる者。

 覚悟を決めたような顔をしつつ、ギリギリになってから、誰それを殺さないでと戦闘中の戦士に背後から抱きつき妨害してくる者。

 極限状況を利用して金銭や食料をかすめとり、ついでに自分だけ助かるために他者をゾンビの群れに突き落として去っていく者。

 

 そう、ゾンビ単体は正直、大したことない。

 あちらの世界で何度かゾンビパニックに遭遇したが、いつだって、ゾンビそのものより付随する人災の方がシャレにならなかった。

 

 いったいどれだけの勇敢な兵士・戦士が無意味に殺されたか。

 あいらはゾンビそのものなど比較にならないほど始末に悪い。

 自分がどれだけの悪事を働いているのか、どれだけのひとの命を危険にさらしているのか、どいつもこいつもまるっきり自覚がない。

 彼らの自爆行為のせいで重要な防衛線に穴を空けてしまい、それにより戦線が崩壊、莫大な死者が出たり最悪、国がなくなった事さえあるそうだ。

 

 異世界における、俺のゾンビ対応法は結局は次の三点になった。

 

 ひとつは、遠方から精霊に頼んで焼き払うこと。

 ひとつは、生存者や縁故の者がいたら全て遠ざけること……相手が国王だろうとなんだろうと例外なく。

 そしてとどめは。

 ゾンビをかばう生存者は、汚染済みとみなして共に焼き捨てる事だ。

 これは退去に応じず前線から離れようとしない自称家族、ヒステリックに叫んでゾンビを引き寄せてはばからない者、そしてゾンビパニックの上前をはねて回っている愚か者も含まれる。

 

 とまぁ、合理的ではあるんだけど……やっぱり精神的にはとてもきついんだよな。

 とにかく対人ストレスがきつい。

 物理的でなく精神に大きなダメージをおう。

 これが対ゾンビの最も恐ろしいところだと俺は思ってる。

 

「……」

「ユー?」

「大丈夫だ。マオ、おまえの鼻は大丈夫か?」

「がんばる」

「おう」

 悪臭がひどい。間違いなく近くにゾンビがたくさんいる。

 できれば離れたいが、食い物だって欲しくてたまらないんだろう。

「ユー、何か悩んでる?」

「ああ悩んでる」

「何を?」

「なんで日本にゾンビがいるのかってな」

「おかしいの?」

「おかしい。言ったろ?地球にアンデッドはいないはずだって」

「いるよ?」

「ああ、だからおかしいんだ」

 まぁ、そのおかげで俺たちは助かってるけどな。

 もし元の平和な日本に放り出されていたら、今ごろどうなっていた事か。

 その意味では悪い事ばかりじゃないんだけども。

 

 とにかく今は水と食料。

 で、情報収集しなくちゃならないだろう。

 

 

 コンビニを確保するのは簡単だったが問題もあった。

 でもその事に気づいたのは、実際にコンビニに行ってからだった。


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