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なんで?

「え、どういうこと?」

「だって、アイテムボックスはもともと、せーれーが作ってたのを人間が欲しがって、神様が作ってあげたんだって」

「マジか」

「うん、えるふのおねーさんたちが言ってた。

 ていうか、マオのアイテムボックスは、そうやってもらったんだよ」

「そうなんだ」

「うん」

 ああ、だからマオはアイテムボックス使えるようになってたのか。

 俺はエルフが何かしてくれたもんだと思ってて、それ自体は違いなかったが。

 直接何かしてくれたのでなく、取得方法をマオに教えてくれたってわけか。

 なるほどなぁ。

 

 さっそく頼んでみた。

『なあ、アイテムボックスくれねえか?』

【いいよー】

 そういうと、馴染みの感触がした。アイテムボックスが開いたんだ。

 おお本当だ!

 うむ?小さい?

 ああ、そうか。

 レベルも低いし魔力も少ないから当然か。

【さいしょは、なんでもいいから、入れるといいよー】

【魔力ふえると、ボックス大きくなる】

【使えば使うほど、魔力もおおきくなるー】

【おはなしも、できるー】

【たのしー】

『……ああ、そういう事か。わかった使うよ、ありがとな!』

【どういたしましてー】

 なるほど、アイテムボックスってそういうものだったのか!

 

 え?何だって?

 つまり、アイテムボックスはこっちの魔力総量に比例して大きくなるんだよ。

 使えば使うほど魔力総量が増える。

 魔力が増えれば精霊といっぱい話せて、魔力もあげられる。

 精霊使いの魔力が増えるのは嬉しい。

 だから精霊は、精霊と話せるやつにアイテムボックスを使わせると。

 なるほど、よくできてるもんだなぁ。

  

 何しろアイテムボックスは超絶便利だ。

 車社会だとピンと来ないかもしれないけど、徒歩が基本の世界だとチートアイテム以外の何者でもない。

 あれば絶対使う。

 そして魔力さえあれば使えるわけで、誰もが欲しがる。

 使えば使うほどに容量が増えて便利になる。

 こっちも嬉しい、精霊もうれしい。

 で、そんなアイテムボックスもちに荷役を依頼する連中も嬉しいってわけだ。

 

 え?そもそもなんで今まで、アイテムボックスで魔力が増えると気づかなかったって?

 ああ、それは簡単。

 女神のアイテムボックスもレベルと魔力で大きくなるが、使えば使うほど魔力を増やす効果なんかなかったんだよ。

 魔力を増やす方法はただひとつ、召喚者が敵と認定している存在、つまり魔族を殺して殺害数を稼ぐことだった。魔族一匹に対して何ポイントとか、まるでゲームみたいだった。

 どれだけ殺したのか、俺自身ですら覚えてない。

 ああいいよ、憐れむ必要はない。事実だ。

 

 身体は昔に戻っても、この血まみれの手はもとに戻らない。

 魔族も含めて何万、何十万と殺した俺はもう、あの頃には帰れないだろう。

 でも。

 だからといって記憶を捨てるつもりはなかった。

 それをしてしまったら、俺の青春は……血まみれだけどいい事もあった俺の青春が、まるで無意味だった事になっちまうじゃないか。

 

 さて。

 とりあえず荷物がないので、手頃な石をいくつか入れた。

「そういや武器もないんだよな」

 こっちでは戦闘することもないだろうけど。

 でも何年も武装が当たり前の環境にいたから、武器がないと落ち着かない。

 だから、投げるのによさげな石を海辺で探してアイテムボックスに入れた。

「よし、じゃあ行くか」

「うん」

 そんな話をしていたら、マオがピクッと反応した。

「ユー、アンデッドのニオイする」

「……え?まさか」

 地球にアンデッドがいるわけない。さすがに勘違いだろう。

 でも。

「……なんだこの臭い」

 続いて感じた臭気に、俺も眉をしかめた。

 うなずきあって、俺たちは駆け出した。

 

 

「ゾンビだねえ」

「……ウソだろ?」

 荒れ果てた三島、じゃねえ沼津の海沿い。確か旧東海道。

 アルファルトが割れたりはしてないけど、砂やホコリが積もり、ここ最近車が通ってないらしいその道を、見間違いようがない存在……ゾンビが一体、ゆらゆらと歩いていた。

 なんで日本にゾンビが?

 いや、それだけじゃねえ。

 この旧東海道、全然車がないような道じゃないと思うんだが……ゴミやら葉っぱやら、たまり放題じゃねえか、なんなんだこれ。

 

 この道路状況、そしてゾンビ。

 それの意味するところは?

 

「……ユー、震えてる?」

「ああすまん……とりあえず倒すか」

「どうする?マオがやる?」

「俺がやる。試し打ちさせてくれ」

「わかった」

 精神面はともかく肉体的には、俺は召喚前の青少年のはず。

 全然別の身体に変わっている問題もあるし、慎重であるに越したことはないはずだ。

 さて。

 精霊に頼み、炎で攻撃してもらうことにする。

『よしっ、やってくれ!』

 ここで「燃やしてくれ」とかまで言わなくていいのが面白いとこだよな、「やってくれ」「頼む」みたいなトリガーだけでいい。

 具体的なとこは精霊たちが俺の願いを読み取り、そのイメージ通りに再現してくれるんだ。

 その瞬間、渦巻く炎がゾンビを取り囲み、ぎゅるぎゅると回りながら無理やり燃やしはじめた。

「すごい」

 炎の渦巻きにマオが驚いているので説明してやる。

「向こうでもこうやって巻いてたぞ、魔力がないから回転遅いだけだ」

 あ、そうかとマオは納得顔になった。

「なんでグルグルするの?」

「まわりを風で巻いて閉じ込めてるんだ」

「……あー、ニオわないように?」

「正解だ、普通に焼くとめっちゃ臭いからな!」

「だね」

 一度、師団級のゾンビ軍団を焼き払ったことがあるんだけど、とんでもないニオイで、まだ小さかったマオが悲鳴あげたんだよな。

 トラウマすぎて当人は忘れてるようだけど、それ以降俺は必ずこうしてる。

 さて。

 火葬場でなくて悪いが、このまま荼毘(だび)に付させてもらうぜ。

 魔法の炎(ソーサリアンフレーム)は威力が大きく、みるみるうちに腐肉は骨になり、やがてボロボロと崩れていった。

 それが完全に消えるのを待って、天に昇らせるように上空に追いやる……ま、本当はニオイを気流に飛ばしてるんだけど、こうするのが昇天っぽいからゾンビ焼く時はいつもこうしてるんだ。

「無宗教でごめんな……安らかに眠ってくれ」

 手をあわせて終わりとした。

「よし、あっち行くぞマオ」

 ゾンビの歩いてきた方向を指差した。

「あっち?何があるの?」

「確か学校がひとつかふたつ、それとホムセンとショッピングセンター……要は人の集まるところだ」

 それはつまりゾンビも多いってこと。

「……わかった」

 俺の意図するところを理解したんだろう。マオがアイテムボックスからダガーを取り出した。

 どうやら武装するつもりのようだ。

「鎧は無理か?」

「着れないみたい」

 まぁな、まるっきり異種族だもんな。

「俺に使えそうな武装あるか?」

「ごめん、ない。暗器ばっか」

「そか。いや、悪くないさ」

「腰布試す?」

「それはやめとく」

 今の俺はレベル1だ。技術を要する暗殺用の武器は、むしろケガの元だろう。

 あと、マイクロビキニみたいなの着せようとすんな、俺が着たら変態だろうが。

「戦闘あるなら裸は危ない。どうする?」

「途中のどこかで探そう」

 できれば民家でなく警察か何かがあればありがたい。

 そう思った。


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