エキドナ様
女神エキドナ。
巨大な蛇の下半身、それに大きな翼をもつ女神であり、そしてあの世界の魔獣種の多くを生み出した「魔物の母親」でもある存在。
……で、そんでもって乳がすごくでかい。
……超絶バカでかい。
……そして、神秘のコシをもつフワフワのフニャフニャ。
え、混ぜっ返すなって?
いやいや聞いてくれ。
何が凄いかって、れっきとした大人の男である俺が、子猫のように全身おっぱいに挟まれて運ばれるんだぞ。
しかも、その大きさにして型崩れせず石像の如き理想の形。
さらに、人を挟んで持ち上げる硬さをもつハガなのに、ふわふわのフニャフニャのぷるぷる。
告白しよう。
かつて俺は、ちっぱい派だった。
そんな俺が宗派を替える結果になった神秘の乳こそが、このエキドナ様の巨大な乳なのだっ!!
だがしかし、だがしかしだ!
「ふー!ふーっ!」
おっと。
「落ち着けマオ」
なんか知らんけど、マオはエキドナ様を見るとムチャクチャ警戒するんだよなぁ。
なんでだろ?
前もそうで、ずいぶんと困らされたもんだ。
「ふふふ」
対するエキドナ様は実に楽しそうだ。余裕で笑っていたりする。
だけど。
「ふむ?」
唐突にエキドナ様は眉をしかめた。
「そなたら、身体を書き換えられておるな。ちょっと見せてみよ」
そういうと、手で簡単につまみあげられてしまった。
……相変わらず子供扱いだなぁ。
「ふー!ふーっ!」
「落ち着けマオ!」
「おおよしよし、見た目は変わったがあいかわらずじゃのう」
ビビリまくって威嚇しているマオが、なんだか懐かしい。
あの時も毛を逆立て、フーフーいってるマオを面白がってたよなぁこのひと。
バカでかさと裏腹に、彼女はいつもこんな感じだ。
まぁ基本「おかあちゃん」だからな。気のいいひとなんだ。
でも。
子をもつ女というのがイザとなると恐ろしいように、彼女が本気で怒ると視線だけでひとがバタバタ死ぬらしい。
そうなのか。
いや、俺は怖い顔された事がないもんでな。
さて。
そんなエキドナ様なんだが、彼女はいわゆる戦闘力はもたない。
しいていえばその巨体、それから蛇毒が武器にはなるようだけど、これも戦闘用じゃないらしい。
では巨体以外になにもないのかというと、その無尽蔵の魔力と、そして、まるで雲霞のように周囲にまとわりつき、遊んでいる無数の精霊たち。
そう。
彼女はその怪獣じみた巨体は同時に、とんでもなく強大な精霊術の使い手でもある。
当然、俺にとっては精霊の友としての大先輩だ。
もちろん向こうの人間族たちには、古代竜と同等以上に恐れられているんだけどね。
しかし、いいのかねエキドナ様。
はるばる異世界の、こんな文明世界まで来てくれたのは頼もしい限りなんだけどさ。
さて。
「あちらと通信が切れたようじゃな。どれ、つなぎ直してやろう」
そういったかと思うと、再びハイエルフの婆ちゃんとの通信が開いた。
さすが。
俺が日単位で満たした精霊への魔力を一瞬で満たし、たちまち再接続しちまった。
「ふむ、こんなものかのう?」
『こりゃ蛇の!説明前に行くやつがあるかい!』
「まぁ、そういうな森の娘。知らぬ仲ではないので、わらわも心配でのう」
どうやら婆ちゃんも言葉こそ責めているが、エキドナ様の性格は知っているらしい。いきなり飛んできた事をとがめる気はないらしい。
しかし、そうだよな。
先に飛べたということは。
「エキドナ様、自力で時空転移できたんですね」
「古代の魔道士ならば、わらわより強力な者もおったぞ。
じゃが、さすがに界を超えるとなると……彼らも道標なしでは無理であろうの」
「道標?」
「ユウの気を追ってきたのじゃ」
「ああ、なるほど」
そんなにポンポン世界間転移ができるのなら、こっちの世界だってもっとファンタスティックになっててもおかしくないもんな。
世の中そう甘くないか。
『やれやれ。で、ふたりはどうじゃった蛇の?』
「どうやらライカンスロープになっておるのう。ほれ」
「にゃあっ!」
エキドナ様、本当にマオのこと子猫としか思ってないんだな……普通にシッポまくりあげて股間覗いたりしてるし。
ははは、こりゃマオが嫌がるわけだ。
「って、ライカンスロープですか?」
「ワーキャットだと言われておったろう?」
「……ライカンスロープかどうかって股間でわかるんです?」
「ん?猫の生殖器は猫のものじゃが、ライカンスロープじゃと人間の生殖器に近くなるからのう」
そうなんかい。
まぁその、猫とワーキャットのマ○コの違いなんて俺にはわからんが。
「わらわが魔獣の母であることを知っておろう?
ライカンスロープは人族にしばしば分類されるが基本的に魔獣なんじゃ。
ところが人に似せる関係上生殖器の構造が人に近くての、なかなかうまく『合体』できないことがあってのう」
「うわぁ」
ちょ、ちょっとぉっ!
「昔はよく、うまくいかずに困ってる二匹をつかまえてこう、手で重ねてやったもんじゃが……どうしたユウ?」
「……あえてコメントしません。
あとそれ、俺たちでやらないでくださいね?」
「なんでじゃ?」
「なんでもです!」
そりゃ、エキドナ様から見たら皆、ひとしく可愛い子猫たちなのかもだけどさ。
勘弁して。
「まぁよい、その話は次の機会に置いとくとしてじゃ。
その前に、すまぬ。
わらわたちはの、ユウに頼まねばならぬ事があるのじゃ」
「へ?俺に?」
『うむ』
返事をしたのは、ハイエルフの婆ちゃんの方だった。
『ひとことで言えば、一時的または永続的に、我らと、我らのかくまっている少数民族をそちらで預かってくれということなんじゃが』
「……はぁ?」
いきなりだった。
「あの、すみません。もう一度うかがっても?」
『うむ、一時的または永続的に、我らのかくまっている少数民族をそちらで預かってほしい。
あと、エルフ族の女子供もな』
「いやいやいやいやちょっと待ってください!」
俺は思わず叫んでいた。
『む、何かおかしなことをいったかの?』
「あの、確認ですけど、それって異世界難民するって事ですよね?」
『うむ、その通りじゃ』
「無理です!」
『なぜじゃ?』
「あたりまえでしょうが!」
いくら俺でもムチャクチャだってわかる。
「ひとり転移するのにも莫大な魔力がいるんでしょう?なのに」
「いや待てユウ、転移に必要な魔力は質量や数、距離はあまり関係ないぞ?むしろ回数が大きい」
「え、そうなんですか?」
「うむ」
そうなんだ。
エキドナ様に普通に教えられて、思わず納得しかかったんだけど。
「いやいやいやいやちょっと待った!
受け入れようにもだいいち、こっちにはそういう事の経験者が全くいないんですよ?」
『あーいや、皆の面倒を見てくれなんて虫のいい事は言わぬぞ。そなたに頼みたいのは場所探しじゃ」
「場所探し?」
『何しろ何万という者がしばらく住むんじゃ、そこそこの広さは必要であろ?』
「無茶ですよ!どんだけ場所がいるんですか!」
『無理かのう?』
「あたりまえです!
大人の戦士ならともかく非戦闘員や子供もいるんなら、何より安全確保を相当厳しくしないとダメでしょう?しかも継続的に護衛なんかも必要になる。
冷たいって言われそうですけど、俺、そんな責任もてないですよ!」
『ふむ?そうかの?』
「だいたい、こっちの人間に見つかったら何がおきるかわからないんですよ?
どうすんですか!」