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頼み事

 鮎沢PAにはやっぱり籠城の痕跡があった。

 だけど、どうやら内部崩壊があって全滅したっぽい。

 なんでかって?

「バリケードは無事で、出入り口も外から壊した気配もなくて……そして死体か」

「仲間割れ?」

「そうかな?いや、もっと楽しくない事だぞこれ」

「そう?」

「おまえ、ニオイで気づいてないか?」

「……そうか、ユーもわかっちゃうもんね、もう」

「ああ……やっぱりそうなのか?これ?」

「たぶんね」

 あちらの世界でも、ゾンビパニックの現場でしばしば起きる事だ。

 つまり。

「なんで、こんなヤバい状況で悪事に走るんだろうな」

 ゾンビになってない、どうやら女性らしき遺体。

 異様に飛び散った血の痕跡。

 転がっているナイフには、ゾンビのものではない変色した血の跡。

「これゾンビの血じゃないよな」

「だねえ」

 念の為に精霊たちに確認してもらうと、やっぱりだった。

【おそわれて、じさつー】

【おとこだけじゃないよー】

「なんだそれ?」

【いじめー】

「……まじかよ、災害避難時だぞ?」

 

 精霊たちの話を要約すると、こういう事らしい。

 つまり。

 彼らは同じところにいた者たちで、被害者は普段からいじめられていたらしい。

 ストレス発散に、いつもの『おもちゃ』をいじめたい女たち。

 で、公認でひとりの女をおもちゃにできると喜んだ男たち。

 誰も助けてくれず、外はゾンビ。

 絶望した彼女は、転がっていたナイフで自分の首をやり頸動脈を切ったと?

 ひどい話だな。

 でも。

「よく自分の首を……思い切ったもんだ」

 普通、そういう時って手首やらないか?

【リスカけいけんしゃー】

 あ、そうか。

「手首をちょっと切っても死なないって知ってたわけか」

 なんとも救いがない。

「なぁ、頼んでいいか?」

【なに?】

「もし彼女が心残りしてたら、せめて眠らせてやってくれ」

 地球には異世界みたいなゴーストはいないと思ってた。少なくとも俺は見た事なんてなかった。

 でも精霊がいてゾンビがいるなら?

 俺には見えないってだけで、眠れない死者もいるのかもしれない。

 だから。

 だからせめて、死後は安らかに。

【わかったー】

【いのりー】

 精霊たちにあわせて、俺も、絶望の中で死んだ魂のため冥福を祈った。

 

 

 幸いなことに、中の施設はほとんどゾンビ侵入がなかった。

 女の人が死んだらしき部屋には形跡があったけど、いくつかの部屋はそもそも鍵がかかっていた。

 鍵を探してきて開けてみると、これらはなんの被害もなかった。

「うわー、きれー」

 ホコリっぽくなった、でも近代的な部屋。こりゃ仮眠室か何かか?

 マオは、ゾンビ臭がないのが気に入ったようだ。

 なにもないが安全に座れるようなので、俺たちは休息することにした。

 途中で集めた食料などを並べた。

 そうしているうちに暗くなってきた。

 明かりは不要かなと思ったけど、屋内なのでちょっと光量が足りない。どうしようかと思ったんだけど、マオのひとことでそのままにした。

「大丈夫。ユーにも見えるよ」

「……そうか」

 俺は猫の目の性能なんて知らない。だからマオにまかせてみたんだけど。

「ほう、本当に見えるな」

「でしょ?」

「おお」

 色彩がわかりにくくなりモノトーンの劇画みたいになるが、本当によく見える。

 これはすごい。

「これはよくみえ……わっ!」

「ん?」

 マオの目が光ってた。

 まるで闇の猫だ……って、そのまんまか。

「ユーも光ってるよ?」

「ああ、だよな」

 わかっちゃいるんだけど、やっぱり驚くよな。

 

 と、そんな話をしつつ食事を再開した時だった。

 

【魔力みちたー】

【ありがとー】

【いえーい】

 おお、ついに終わったのか!

「マオ」

「うん」

 マオも精霊は見えるので、俺を見てウンとうなずいた。

 

 え、何があったのかって?

 つまり。

 ゾンビ発生原因の調査を精霊たちに頼んでいたこと。

 その回答をもらうのに必要な魔力が今、揃ったってことだよ。

 

「魔力は足りたのか、おつかれさん」

【ユウもありがとー】

【がんばったねえ】

 精霊の力を借りたら、魔力を支払わねばならない。

 本来、自分の魔力を越える願いには応えてくれないんだけど、でも、仲良くなると後払いや分割にも応えてくれたりもする。

 でも精霊たちいわく、値切るのはダメらしい。

 それも難しい理由があるのでなく、それが精霊と世界の約束事なんだと。

 よくわからないが、大切なことなんだな。

 で、今回の件なんだけど。

【ゾンビ発生は、あっちからユウを召喚した術式のせいだよ】

「どういうことだ?」

【召喚術はね、ひとりしか送らないのー】

【それ以外はね、いのちを吸い取ってゾンビにするんだよー】

「……すまん、よくわからないんだが」

 

 召喚術はひとりしか送らない。だから俺だけ送られた。

 それはわかる。

 でも「それ以外」ってどういうことだ?

 どうして、俺がその「ひとり」になった?

 俺と「それ以外」の人々にはどういう違いがあるんだ?

 なんなんだ?それ?

 

【ごめんー、ボクたちにもわかんないー】

「あー」

 精霊たちは論理的な話が苦手だもんなぁ。

 しかし。

【だから、説明できる人とつないだよー】

「え?つないだ?」

【ほーら、おはなしー】

【てれびでんわ?】

【ちがうよ、らいんっていうんだよ】

【ちーがーうー】

 なんなんだ。

 そうしているうちに空中に窓が開いて、なんかエルフの里に似た風景が後ろに。

「え?」

「?」

 マオと首をかしげていると、なんか婆さんみたいな渋いエルフが現れた。

 な、なんだ?

『わしはハイエルフの長老じゃ。ユウという精霊使いはそなたかのう?』

 あ……そうか、それでテレビ電話がどうのって。

 つまり、異世界とリアルタイムでつないでるってか?

 ……おいおい。

「あ、はい、ユウは俺です、だけど精霊は友達です」

『む?』

「よく助けてもらってますよ、でも使役してるつもりはないです」

『……ほう?』

 エルフ婆さんは面白そうに俺を見た。

『そなた獣化を起こしておるな。誰かに種族をいじられたか?』

「あ、はい。

 俺はその時をしらないんですが、変換の現場にはこいつ、姿変わってますけど猫族のマオがいたそうです」

『うむ、話にきく猫族の生き残りじゃな?』

 そういうと婆さんはマオの方を見た。

『マオとやら』

「はい」

『ちょいと目を見せておくれ?……ふむふむ』

 じーっとマオの目を覗き込んでいた婆さんは、なるほどとためいきをついた。

『うむ、もうよいぞマオや。楽にしなさい』

「はい」

『あの女の仕業か。やれやれ、くだらぬ真似をしよるわ。

 じゃが、今のおまえたちにはむしろ吉報かもしれぬな』

「え、というと?」

『まず第一に子孫のことじゃ。

 まず、そなたとマオは同種族になっておる。今はもう失われた猫人族の一種なんじゃが、この種族にはひとつの特徴があるんじゃ』

「特徴?」

『異世界人のそなたにわかりやすく言えば「ワーキャット」じゃな。

 つまり、その姿はひとつのカタチにすぎず、完全に猫になる事もできるということじゃよ。

 まぁ、そなたの知る猫よりはだいぶ大きくなるがの』

「……それヒョウかトラのサイズになりませんか?」

『どちらでもよかろう。

 ちなみにウェアキャットが滅びた原因は、多種族混血しやすいからじゃ。およそすべての獣人族、それからエルフとも血が合うようになっておる。

 あの女がふたりをその種族にしたのは、それが最も無難だからじゃろうな』

「無難?」

『ちゃんと子を成せるという事じゃよ。

 しかも猫族はお産が軽い、よかったのうマオ』

「うん!」

 いや、そこでどうして俺でなくマオに言うんです?

 まったく、ハイがつくからどうかと思ったけど、やっぱりエルフはエルフか。猫好きは変わらないんだなぁ。

『さて、話を本題にもっていこうかの。

 精霊たちに聞いたそなたの疑問は、そなたの世界で起きているゾンビ騒動と、そなたの関係性であろう?』

「はい」

 来たか。

 そして襟をただすと、婆さんは言った。


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