プロローグ
この世には様々な戦闘スタイルがある。
拳や蹴りを駆使する体術や、刀や槍もしくは弓や魔法といった武具を武装する事によって戦闘を行うスタイル。 それぞれが奥深く極めるのに何年もの血が滲む様な努力が必要とする。
この世界では人と人が、国と国が、モンスターとモンスターが、魔導師と魔術師が、様々なスタイルで戦い、競い、殺しあうのだ。
澄んだ空気が風となり、広大な草原を撫でるかの様に流れ俺の嗅覚を刺激する。 馬車に積まれた荷物の上に寝転びながらゆらゆらと揺られて進む。
「おい兄ちゃんよ、もうすぐ大都に着くが、どうするんだい?」
馬車を引く大柄の男が、大声で問い掛ける。
「俺は大都でギルドにでも入ろうかと思っているんだが、王都ってどんな感じなんだ?。」
あくび混じりに答える。
「あんた、今時どこのギルドも募集なんて掛けて無いと思うぞ。只でさえ物騒で腕に自信のある、騎士団の連中がギルドの仕事を根こそぎ奪っていくせいで経済面が悪化してどこも店じまいさ。」
諦めの入った様な声で淡々と説明を続ける。
「最近はギルドに入れない弱い連中が独自にギルドを立ち上げてるって話だが、それを騎士団が難癖付けて少ない資金なんかを強奪して回ってるらしいんだ、ひでぇよなぁ。」
「親切に説明あんがとな。俺は気の向くまま自由にやりたい事をするって決めてるから問題無いぜ。」笑って答えると、飽きれた顔でまた馬車を進める。
草原の草花の匂いから海の潮の匂いへと変化して、徐々に海に面した巨大な大都が視界に入る。それまで寝転んでいた姿勢から飛び起きその光景を見て高揚感を覚えた。
「でっけぇええええええ。」大声を上げた。
「そりゃそうだろ、大都ミルティアはこの地方最大の街なんだからよ。」
負けずと大声で叫んだ。
「ところで兄ちゃん名前はなんてんだい?記念と言えば大袈裟だが・・・・」
そこに今までの空気を引裂く様な、少女の声が響く。
「いやあぁぁぁぁ」
前方に馬車が止まっている。
周りにはゴブリンが三体いるのがわかった。
そばには馬車を操っていたのであろう男が倒れている。
「いやっ、こっちに来ないでっ!!」
少女が馬車に背を預けながら石を投げている。
「おっさん危ないから近寄るなよ。」
言葉を発すると同時に荷台から高く前方へ跳躍し、受け身を取った勢いで前方の馬車へ全速力で走る。
走りながら腰のベルトにある小型の投げナイフを手にし、少女に最も近い敵へ投げる。
走っているにも関わらずナイフは鋭く一直線にゴブリンの首へ深く突き刺さり、野太い悲鳴と同時に倒れ込み絶命する。
周りの二体が此方に気付き棍棒を振りかざし、距離を詰めてくる。
ゴブリンのサイズはモンスターの中では小さい部類ではあるが、人間の成人男性と同じぐらいはある。
加速をしている自分の身体の体重を掛けてゴブリンの顎を目掛けて飛び膝蹴りを入れ、怯み手放した棍棒を奪い、もう一体のゴブリンから振り下ろされた打撃を斜め下へ力を受け流す。
ゴブリンはそのまま体制を崩し、前へ体重が傾くそこへ隙を与えず顔側面へ棍棒を叩き込む。
棍棒を奪ったゴブリンが立ち上ろうと、腕を地面に突いたところへ、すかさず身体を捻り跳躍し回転の力を利用し、後頭部目掛け踵をねじ込む。
馬車から跳躍してから数十秒でゴブリンを三体ねじ伏せた。
「兄ちゃんは何者だい?」
大柄の男は馬車から此方を不思議そうに見ている。
「俺はレン・アスタロト。まだ旅人Aだぜ。」
笑って答える。
「んっんん・・・・。」
少女は馬車に体重を預けながら気絶している様だ。
「君大丈夫か?」
身体を抱きかかえながら、肩を揺さぶる。
すると、少女は瞼を薄っすらと開き一度瞬きをする。
「気が付いたな。怪我は無いか?」
声を掛けると少女は、また悲鳴と同時に、するどい拳をレンの顔面へと突き込む。
咄嗟に左手でその拳を受け止める。
「それだけ元気なら大丈夫だな。」
笑って話しかけると状況を理解したのか、頬を赤らめて拳を収めた。
「本当に申し訳ありませんでした。助けて頂いたのにこんな失礼な事を・・・・」
深く頭を下げながら謝罪を繰り返す。
「良いって襲われて気が動転していただけだろうし、それよりも君は助けられて良かったよ。馬車を操っていた人は残念だったけど・・・・」
苦笑いをしながら話を進める。
「君の名前は何て言うのかな、差支えなかったら教えてもらえるかな?」
少女は慌てて頭を上げる。
「申し訳ありません、私の名前は、ルーナ・ヴァイスティと申します。歳は十六で、弱小ではありますが王都で別の二人とギルドを開いており、私は回復の魔法を使うヒーラーでございます。」
申し訳なさそうに答えた。
「はっ?十六?マジカよ、もっと小さいのかと思った。」
目を見開いて驚いた。
「良いですよ良いですよ、どうせ私はロクでもない見た目だけロリですよぉぉ・・・・・・」
突然元気を失い何かスイッチが入った様だ。
「ごめんごめん、俺はレン・アスタロト、レンって呼んでくれ。」
苦笑いで話を晒した。
「あんたら、話は終わったかい?終わったなら嬢ちゃんも、大都まで乗せてってやるよ。」
大柄な男が馬車から降りながらルーナへ声を掛ける。
「代金も無いのに良いのですか?」
ルーナが申し訳なさそうに聞き返す。
「状況が状況だからな、仕方ねぇさ。」
大柄な男は笑いながら肩を軽く叩いた。
その直ぐ後、災難にも亡くなっていた、馬車を操っていた男を埋葬して、荷物を乗せかえてルーナと共に王都へ向かうのであった。
「そういえば、ルーナはどうしてこんな所にいるんだ?」
馬車に揺られながら、ふと思った事を質問を投げ掛ける。
「私は、ヒーラーですので薬の調合とそれを届けに行く依頼の途中だったのですが、その帰り道にゴブリンの一団と遭遇してしまったのです....」
苦笑いを此方に向けながら説明をする。
「最近は王国騎士団からの、理不尽な納税等が厳しくて本来はヒーラーのみで郊外に出る事は無いのですが、傭兵を雇う資金も無いので....」
ルーナの説明が終わる頃馬車を操る大柄の男が、再び大声で王都に到着した事を知らせる。
巨大な門を潜り、市場を抜け広場で馬車が止まる。
「一応馬車はここまでしか入れないから、ここでお別れだお二人さん。また機会があったら俺の馬車を使ってくれや。」
満面の笑みで送り出してくれた。
二人は荷物を持ち大柄な男と別れた後、広場から住宅が並ぶエリアに差し掛かる。
「私達のギルドはこの近くなのですが、レンはこの後どうされるのですか?」
心配そうな顔で此方を見ている。
本当に優しい娘なのであろう。
「俺は、今からでも入れそうなギルドを探そうと思ってんだ。」
淡々と答えた。
ルーナが目を輝かせ気持ち頬が赤くなった気がした。
「もし、レンが良かったら、たった三人の弱小ギルドですが入って頂けませんか?多分、まだ報酬も満足には出せないかもしれないのですが、きっと大きな王都一の名声を獲得できるギルドにしてみせます!!」
凄く純粋な目で真っ直ぐに心に響く口説き文句だった。
そんな気持ちいい空気を台無しにする、下衆な笑い声が邪魔をした。
「おいおいおいおい、こんな所で男にケツをふって男口説いてんだよルーーーナーーーちゃーーん。」
輝いていたルーナの瞳が一瞬で曇る。
「今月の納税はまだだよな?こんな男に身体売るくらいなら俺の所に来いって言ってるだろぉ?な?」
見るからに下衆な巨漢の男とヒョロヒョロの出っ歯が突っかかる。
「あんたらは?何処かのサーカス団のピエロか何かですか?宣伝なら広場でやる方が効率的だが、そんな事も分からない程頭ん中がパレードしてんのかあんたら?」
ルーナが顔上げて此方に涙目向けて顔を横に振る。
「お前!!私達が王都を代表する王国騎士団と知っての狼藉か!!騎士団にしか与えられない魔法具の鯖にしてくるわ!!」
懐にあった剣に手を伸ばし抜刀する。
「レン!!今からでも謝って下さい!!魔法具を持った騎士団員に勝ち目なんてありませんよ!!」
ルーナが叫ぶ。
「もう遅いわ!!フレイムスライサー!!」
巨漢の振るった剣からなぞる様に、炎の斬撃が此方を斬り裂こうと迫る。
「笑わせるなよ。」
レンが笑った瞬間、その場の空気が変わるのをルーナは感じた。
炎の斬撃が、レンの首に当たる直前風に吹かれたロウソクの火の様に、消えたのだ。
「馬鹿な!!何故私の魔法具が!!」
巨漢がの顔からどんどん血の気が引いていき、顔を真っ青になっていく。
「さてと、ルーナ此処からは勉強の時間だ。」
レンが優しく話しかけると巨漢は肩をビクつかせる。
「一つ、魔法具を持つ相手は最強ではない、二つ、魔法具は道具に過ぎない、三つ、勝負は魔力か戦闘センスによって決まる。だから....」
レンの説明途中に物理的に斬りかかろうと、接近するヒョロヒョロに対して、瞬時に地面を蹴って懐へ入り込み、溝内に全力で肘打ちを叩き込む。
そのまま打ち込むのではなく、腕を覆う様に魔力の壁を作り鎧ごと捻じ込んだのだ。
ヒョロヒョロはそのまま後ろへ吹き飛び、巨漢ごと倒れ込む。
「お前らの持ってる魔法具を置いていくか、此処で走馬灯を見ながら旅立つかどっちがいいんだ?」
レンは満面の笑みで提案しながら近寄る。
二人は魔法具を置いて全力疾走で逃げて行った。
「レン、あなたは一体何者なのですか?」
ルーナは、戸惑いを隠せずにいる。
「俺か?これ二回目だな。まだ旅人Aだぜ」