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第5話 到着!アピトルの街!

10/19から不定期更新となっております。ご迷惑をおかけしますm(_ _)m

 朝もやにけぶる頃合いに出発して、幾度かの休憩を挟みつつ、日が落ちる直前で街に着いた。

 思っていたより近い……のか?

 少なくとも歩いて行こうと思える距離ではないな。

 行商が街に入る門のところで守衛と何か二言三言交わしたあと、チラリと荷台を覗かれたので手を振っておいた。

 それ以外は特に何事もなく、街へと入る。


 しばらく街路を進むと割と立派な建て構えの家々が立ち並ぶ場所で馬車が止まる。


「着いたぞ」


 御者台にいた行商が振り向き、荷台にいる俺達に声をかけてくる。

 自分で歩いてきたわけでも無いのに、ひどく疲れを感じて、地面に降り立った瞬間にふらついてしまう。

 ずっと不規則に揺れてたからかなぁ……。

 フィリップなんかえらい青い顔をしている。

 青レンジャーらしいぞ!

 実に素晴らしい!


「ここがうちの店だ」


 行商が指差したのは、これまた立派な建物だった。


「金を稼いだらここに持って来るんだぞ。銀貨30枚だからな」


 銀貨30枚……どのくらいの価値のものなんだろう……?

 あの寂れた村にいたせいで、通貨の価値がよく分からない。


「それで、今夜はどこに泊まるんだ?」


 そう言われてハッとする。

 ……金なんて持ってないぞ。

 シビラを見る。

 首を横に振る。

 フィリップを見……なくてもいいや。

 俺が持ってないのに奴が持ってるはずがない。


「こっち見ろよ!」

「いや、だって……持ってないでしょ」

「そうだけどさぁ!」


 持ってないんじゃん。


「……うちのうまやを使え。明日になったらさっさと仕事を探しに行けよ。万屋ギルドにでも行けば日雇いでなんかあるはずだから。一応これも金取るからな」

「おっちゃんありがとう!」


 なんて親切な人なんだ……。

 優しい世界で良かった……。


 建物の脇を抜け、どうも周囲の商店と共用で使っているみたいな厩に連れて行かれる。


「じゃあな」


 荷台を外し、馬を屋根がある下に繋ぐと、おっちゃんは家へと戻っていった。


「くさい」

「くさいわね」


 フィリップとシビラがそれぞれ文句を垂れる。


「え?そう?俺、こういうニオイ嫌いじゃないぜ」


 草食動物のフンって人のより全然悪くないニオイだと思うんだが。


「兄貴……もし日本に戻ったらそういう業界で食っていけるよ」

「どういう業界だよ」

「言わせんなよ、恥ずかしい」

「恥ずかしい業界を勧めるなよ。第一、俺には戻ったらヒーローという立派な仕事が待ってるんだ」

「またその話か……もういいよ、そんな厨二くさいのは」

「んなっ……」

「しょうがないわよ。もう我慢して寝ましょう。お金ないあたし達が悪いんだし……もうクタクタだわ……」


 そう言いながら、馬が繋がれていない場所にうず高く積まれていたワラの中に潜り込むシビラ。

 フィリップと顔を見合わせ、仕方なしとため息をつき、同じようにシビラとは違う場所のワラへと潜り――


「フィリカス!お前ちょっと考えろ!」


 さりげなくシビラの横に潜り込もうとした愚弟を引きずり出す。


「お、おおおぉぉぉ~……」

「おぉ~じゃないの!そういうことすると戦隊の解散時期が早まるからダメ!」

「チッ……」

「舌打ちするんじゃないの!」

「俺は別に戦隊の一員じゃねぇし……」


 愚痴ぐち文句を垂れるが知ったことではない。

 チーム内での痴情のもつれがもたらす悪影響は計り知れない。

 方向性の違いで……とか言って誤魔化して解散するほど余裕はないのだ。

 one for all, all for one!

 全員野球だ!


 無理矢理にでも俺と同じ場所のワラに引きずり込み、寝付かせる。


「俺が寝るにはまだ早い時間だぜ」


 愚弟がおませなことを言ってくる。


「よし、なら、難しい話でもしようぜ」

「おぉ、かかって来いよ。言っとくが、俺の知識は人並み以上だぜ。インターネットで蓄えた知識でいくらでも語り返してやるよ」

「じゃあ、まずボスフォラス海峡の地政学上での重要性についてだが、あれは黒海と地中海を繋ぐ……」

「Zzz……」

「…………」


 落ちたな。



 *


 朝。


 弟の熟睡を確信しつつも、やはり愚弟が何かしでかさないか心配で夜中にチラチラと目が覚めて確認し続けたせいで、かなり寝不足気味だ。


「うぅ~!寒い!けど、シャキッと目が覚めるから心地よくもあるね!」

「ああ……そうだな……」


 なんだかんだ言いつつ、馬車に揺られて疲労困憊こんぱいだったのか、しっかりと熟睡できたシビラが嬉しそうにはしゃいでいる。

 これから見知らぬ土地で、新しい生活が待っているからな。

 楽しみな気持ちは分からなくもない。


「そうだね、姉ちゃん!今日から一緒に頑張ろうね!」


 あれほど注意し続けた愚弟だったが、結局何もしでかさず、安らかに睡眠を享受したようだ。

 ……くそぅ……ままならないことばかりだ……。


「よう、早いな」


 急に声をかけられ、聞こえた方へと振り向くと、行商のおっちゃんが歩いてきていた。


「おはようございます!」


 元気よく第一声を発したのはシビラだ。


「おう、おはよう」


 人の良さそうな笑顔で応えるおっちゃん。


「俺はまた出かけるが、昨日も言ったとおり、仕事を探しに行くんなら万屋ギルドに行くんだぞ。場所は分かるか?」


 三人で顔を見合わせる。

 よし!誰も分からないな!


「分かりません。教えてください」


 頭を下げて俺がお願いする。


「ま、そうだよな……。ここをあっちに出て大通りに出たら左に向かってある程度進むと大きい広場に出るから、そこの左手に見えるはずだ」

「ここをあっちにピャッと行って、左へジャーッと行って、スッと見ればあるんですね」


 確認するようにフィリップが復唱する。

 ……復唱?

 何言ってんだお前。

 関西人か。


「ん、ん?お、おう……?まぁ、そこだ……と思うぞ、たぶん……」


 おっちゃんが困ってらっしゃる。

 やめて差し上げろ。


「わ、分かりました。そこに行ってみますね」


 俺が無難に着地させる。


「まぁ、どうせ今日だけじゃ宿賃も稼げないだろうから、またここを使えばいい。銀貨1枚取るけどな」

「はい、お世話になります」

「なります」


 俺とシビラが頭を下げる。

 フィリップは嫌そうな顔をしているが、贅沢を言っている余裕はない。

 支払いに猶予を持たせてもらえるだけでもありがたい。

 現在の借金……銀貨31枚!

 またお世話になると考えれば32枚!

 頑張ろう……。



 *



 ピャッと行ってジャーッと行ってスッと見たところに万屋ギルドがあった。

 『冒険者ギルド』って書かれているが、ここでいいのかな……?

 いいよな?いいんだよな?

 とりあえず、扉を開けて入ってみる。


「ヒエッ……」


 やたらゴツイおっさんがウロウロしている。

 鎖を体に巻きつけていたり、それホントに振り回せんの?って大きさの剣を背負っていたりする男達。

 中には女性の姿もチラホラ見えるが、それなりに身なりが良かったりする。

 こちとら、俺の鋲打ちの革の胸あてがせいぜいなのだが、板金の防具をつけている人もちらほら見かける。

 盾も鉄製だったり……いくらくらいするんだろう……。


「よう、新入り希望か」


 近くにいたコワモテのおっさんに話しかけられる。

 髪は短く刈り上げられ、あごひげがダンディなおっさんだ。


「え、ええ、そうです。ここで仕事をもらえるって聞いて」

「そうかそうか。じゃあ、まずは受付を済ませてくんな」

「は、はい」


 促され、筋肉と金属の隙間をすり抜けて受付へと進む。


「あら、いらっしゃい。初めての人?」


 出迎えたのは妙に色気のある20代に入って間もない年頃であろう女性だった。


「は、はい、そうです」

「じゃあ、この書類に……字は書ける?」

「大丈夫です。教会で習いました」

「そう。それなら良かった。じゃあ、名前と職業……まぁ、何が出来そうかはこの表を見ながら書いてもらって、あとは出身を書いてね」


 そう言われ、差し出された表を見ながら自分の職業は何に当てはまるのかを探していく。


「兄貴、兄貴、まず俺に見せてくれ」


 フィリップからそう声をかけられ、表を渡す。

 こいつ、触媒なしで魔法使えるからな……。

 村でと同じように重宝がられるだろう。


「ふ、ふふふ……俺は才能あるからな……最初からランクもブーストされるよな……」


 ランクとかあるのか……。

 表を見終えたのか、フィリップは用紙にガリゴリと記入していき、受付嬢に差し出す。


「あ、あ、あぁ、あっ、あのっ、おっおねっ、お願い……しまっす……」


 すげぇどもるのな。

 元の世界での姿がわずかに垣間見える。

 受付のお姉さんは渡された紙を幾度か流し読みする。


「……へぇ、上位魔法使いなのね。若く見えるのに、すごいわ。ちなみに白魔法?黒魔法?」

「え?白?黒?」

「あら?分からない?えーっと……そうね、相手を攻撃するなら黒、そうじゃないなら白ってのが大まかな分け方よ。その区分で言えば、どっちになるかしら?」

「あっ、えっと、こっ攻撃なの……で……黒、だと……思います……」

「そう、分かったわ。黒魔法ね」


 そう言うとお姉さんは渡された書類にさらさらと何かを書き加える。

 それを後に渡し、しばらくするとガコンという音が聞こえ、フィリップに2箇所に穴が空いた小さなプレートが渡される。


「仕事を受けるときはこれを見せてね。失くしたら言ってもらえれば再発行できるから、遠慮なくお願いね」

「は、はい……あっ!あの……」

「ん?何かしら?」

「えっと……そういうのがあるか分からないんですけど……俺のランクは何ランクになるんですか……?」


 そう聞かれたお姉さんは一瞬キョトンとした顔をしたあと、元通りの微笑を浮かべ口を開く。


「もちろん、Sランクよ。プレートにもちゃんと記載されてるわよ」


 そう聞いた瞬間、横からでも分かるほど顔をパッと輝かせ、次に俺の方に向かい、誇らしそうな……つまりはドヤ顔をする。


「じゃあ、次はあなたね」


 声をかけられたのが俺だと気付き、慌てて窓口へ駆け寄る。

 差し出された用紙に名前と出身と……職業……表をチラッと見て『戦士』と書き加え、それを差し返す。


「ま、見たまんまよね。あら、一応下位魔法使いではあるのね。ふーん……。はい、ちょっと待ってね」


 しばらく待ったのち、プレートが差し出される。

 フィリップのとを見比べてみるが、色に違いは無い。

 おそらくは……鉄製?

 まぁ、加工しやすいからかな。

 よく分からん。


 そんなことを考えてるうちに、シビラが書類を提出していた。


「ハンター……は狩猟を生業とする人のことだから、こういうとこだとレンジャーってなるわね。いい?」

「はい!もちろんです!」

「そう、じゃあ、それで」


 同じようにプレートを渡される。


「よう、愚兄、お前何ランクだよ?お?言ってみ?」


 妙に上から目線で突っかかってくる愚弟。

 言われて、自らのプレートに目を通してみる。


「んー……あ、これかな。……Sってなってるけど」

「……はぁ!?」


 愚弟が素っ頓狂な声を上げるので少し驚く。


「ちょ、ちょ、ちょっと見せて……」


 彼に促され、プレートを差し出す。


「……えぇ?ど、どういうこと……?」

「どういうことって?」

「いや、Sランクって普通、最高位の実力者とかに付与されるやつだと……」

「あたしももらったー!見て見てー!」


 彼女がかざしたプレートに素早く目を向けるフィリップ。


「ね、姉ちゃんもSランク……へ、へぇ……ふーん……そ、そうなんだ……」


 なんかえらい動揺してるな。

 なんだ。どうしたんだ。

 兄ちゃんさっぱり分からんぞ。


「お、お姉さん」


 唐突に受付嬢さんに話しかけるフィリップ。


「ら、ランクって……どっどういう格付け……なんですか?うっ上からSSSから下は……えっ……Fとかじゃ、ないんですか……?」

「うん?ランク?そうね。君達はまだ初めてだから、当然Sからのスタートよ」

「え!?Sって……かなり上位じゃないんですか?ど、どういう並び順になってるんですか?」

「下からねぇ、ショート、トール、グランデ、ベンティ、トレンタってなってるのよ。だから、あなた達はショートのSからよ」

「…………」


 フィリップは顔面蒼白で口をパクパクさせている。

 しばらくして、声帯を震わせて搾り出すように声が出てくる。


「ド○ールかよ……」


 ス○バでしょ。


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