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第4話 悲劇!トーン村炎上!

 落ち着いてイノシシを見てみると、体長は俺の身長よりやや低い、160cmほどだった。

 シビラに言わせれば、結構な大物らしい。


「これを持って帰るのはちょっと難しいね……」


 シビラはイノシシを見下ろしながら呟く。


「せめて大人を1人、連れてこないと大変かも」

「うーん……そうか……」

「こいつを空に浮かべさせたり、軽くしたり出来ればいいんだけど……」


 妙なことを言い出すフィリップ。


「そんなこと出来るのか?」

「いや、分からん」

「なんだそりゃ……」

「しょうがないだろ。ちゃんとした理論があって、それを理解して、何度か実践してみないと使えないんだから。村では大ばば様の口伝でしか教わらなかったし」

「まぁ、そうだな……」


 村にいる魔法使いと言えば、長老の一人である大ばば様しかいない。

 彼女も俺と一緒で、何か……触媒と言うらしいが、それがないと魔法を使えないタイプの人だ。

 それは村の中に幾人かはいる。


 だが、フィリップみたいな、理論さえ理解してしまえば触媒が無くとも力が続く限りは自由に使える人間は非常に珍しいそうだ。

 理論を教わり、触媒を使って実際に発動させ、その感覚を身体で覚えると、あとは使いたい放題らしい。

 いや、それはあくまでも力が続く限りであって、そう何度も使えるわけではないらしい。

 その点では触媒を使ったほうが、その力を使う量は少なく済むのだとか。

 何事も一長一短だよね、って話か。


「そもそもそういう重量とか、重力とかに干渉できる魔法自体があるかどうか……」

「そこからになるか」

「うん……やっぱり大きい街に出て、色々勉強したいなぁ……」


 どうやら彼も村には不満足なようだ。

 一緒に両親にお願いしてみるのも良いかもしれないな。

 魔法使いとしても優秀だし、一緒に動けるなら心強い。

 あと、青レンジャーだし。

 勝手に離脱は許さんぞ。


「とにかく、まずは村に戻って大人の人を連れてこようよ。師匠ならいるだろうし」

「うん、そうだな」


 シビラの言うとおり、出来ないことであれこれ議論するよりは、出来ると分かり切っていることをすべきだろう。

 せっかく獲れた獲物を他の野生動物に奪われないように見張りでも立てるべきなのだろうが、子供3人のうち、誰かを一人で行動させるのは不安だ。

 3人で一緒に村に戻ることにする。



 *



 村に戻り、シビラの師匠であるベテランのハンターと連れ立ってイノシシの死体の場所へと戻る。

 キツネが周りをウロウロしていたが、俺たちの姿を認めると一目散に森の奥へと逃げていった。


 師匠と一緒に村の近くを流れる川まで運び、投げ入れた。

 血抜きと毛皮の中で繁殖している虫などを洗い流すためらしい。


 家に帰ると、返り血まみれの俺を見て母さんが驚いていたが、事情を説明すると着替えを持って来て、汚れた服を洗ってくれた。

 食事の場で母さんが俺たちがイノシシを獲ったことについて、農作業を終えて帰ってきた父さんに話した。

 怒られるかと思ったが、ちょっと注意されただけで、あとは手離しに喜んでくれた。


 翌日には血抜きを終え、毛皮を剥ぎ取り、程よい大きさにイノシシは解体された。

 大きな獲物だったので、わずかずつではあるが、村の各家庭に配られ、残した分は冬に備えて村共有の倉庫で保管することに決まった。

 肉は新鮮なものより、熟成された物が好まれる。

 最初は新鮮なものの方が良いだろうと思っていたが、実際に口にしてみると熟成されたものも美味しかった。

 まぁ、ただ倉庫に入れて放置されているだけではないのだろうが……。

 そこらへんはよく分かっていない。


 なお、フィリップと二人で両親に街へ出ることをお願いしたが、当然の如く難色を示された。

 絶対に反対……ということではないらしい。

 若いのにこんな村でくすぶってるのも可哀想だし、外に出るのも良い勉強になるだろう、という考えではいてくれるようだが、いかんせんフィリップがまだ幼いからという話らしい。

 それを聞いたフィリップはゴネにゴネた。

 床に全身を投げ出し、手足をバタバタさせて。

 ……これでは幼く見られても仕方ない。


 とは言え、裏を返せばフィリップがもうすこし年を取れば外に出ることに問題はなくなるということだ。

 それまでにもっと力を蓄えようということで、俺とシビラ、それにフィリップは、その後も懲りずにレンジャー訓練と称して森の中へと入り、獲物を獲り続けた。

 さすがにまだイノシシに出くわすと緊張したが、相手取れると確信できれば積極的に狩っていった。

 たまにクマにも出くわしたが、それは逡巡の間もなく相手にすることはしなかった。

 動物園かどこかで見た記憶のあるヒグマほど大きなものではなかったが、“クマ”というだけで何か怖い。

 その間に、シビラは弓の腕を、フィリップは魔法の制御を大きく向上させていった。

 俺はと言えば……なんとか刃筋を立てられるようになり、接近戦に及ばざるを得ない場合にも良い按配に手傷を負わせたり、時にはトドメを刺すこともできるようになっていた。



 *



 その年の秋に入ってすぐのこと、フィリップが両親になんやかんやと絡み付いていたので放置して、俺とシビラの二人だけで狩りをしに森へと足を伸ばしていた。

 しばらく獲物を探して進んでいたが、ふと村の方へと目を向けると黒煙が上がっていた。

 直前に『最近、この近くでも野盗だかモンスターだかが出てきているらしい』という話を聞いていた。

 ついに襲撃を受けてしまったのか。

 すわ一大事と森のやや奥まで進んでいた俺たちは、急ぎ村に取って返す。

 父さん、母さん、フィリップ……!

 無事でいてくれよ……!


 村にたどり着くとそこで見たものは……。


「嫌やああぁぁぁ!街に行くんやぁああぁぁ!」


 泣き喚くフィリップと一部が崩れ落ちた自宅、そして自宅近くにあった、こちらも一部が焼け焦げた村共有の倉庫だった。

 困った顔の両親、そして一部は怒っているような、呆れているような、あるいは可哀想なものを見るような目で見つめる村人達に彼は囲まれていた。


 慌てて駆け寄り話を聞くと、フィリップの駄々が頂点に達し、魔法をぶっ放し始めたという。

 それで慌てて両親が必死に彼を取り押さえ、村人が総出で火を消し止めた。

 元の世界では不良物件だったのだろうとは思っていたが、どうやらこの世界でも不良物件になってしまったらしい。


 さらに悪いことに、倉庫に入っていた食料の一部が焼失してしまったようで、色々と話し合った結果、たまたま来ていた行商から食料を譲ってもらえるだけ譲ってもらうことに決まった。

 ところが、支払うべき代金や物がまったくないらしい。

 元々物々交換で成り立っていた村だったので金銭の蓄えがまったくなく、交換すべき食料も一部が失われ、交換しようにも交換する分が捻出できない。

 村人全員でどうすんべかと悩み始めた。

 そこで俺は気付く。


「俺が街に出て、何かしらで行商さんに支払う分のお金を稼ぐよ」


 これは絶好の機会だ。

 逃す手は無い。

 両親はそれでも悩んでいるようだったが、村人の多くは賛同した。

 そもそもの原因である家族の一人だし、口減らしにもなるからちょうど良い、ってなもんだ。

 冬はすることが極端に減るしな。


 早速行商にそういう形で支払わせて欲しいと願い出て、渋々ではあったが彼も了承した。

 ついでに翌朝、街に向かって出発するそうなので便乗させてもらうことも引き受けてくれた。

 いやぁ、ようやく悪者退治と帰還方法を探すことができる。

 実に喜ばしいことだ。



 *



 穴が空いた我が家の中、家族4人で身を寄せ合いながら夜を越した次の日の早朝。

 行商の幌馬車に乗せてもらい、出発する。

 その直前になって村長が荷台にフィリップを投げ込んできた。


「こいつを村に残しておくとまた何かしでかすかもしれんからな。しっかり監督してくれ」

「えぇ……」


 厄介者を押し付けられてしまった。

 割と乱暴な扱いを受けたフィリップだが、未だに幸せそうに眠っている。

 端正な顔立ちな彼の寝顔はとても……腹が立つ。

 ああ、蹴りつけたい。

 かかとで。

 顔面を。


 馬車がごとごとと動きだす。

 見送りに来ているのは村長と両親だけだった。

 あ、父さんと母さんもフィリップについては了承済みなのね……。


 母さんは目を伏せて父さんの胸に縋り付いている。

 父さんは難しい顔でこちらを見つめ続けている。

 村長はさっさと家に戻るためか、背を向けている。


 父さん、母さん、俺、頑張るよ。

 頑張って悪者を退治したり、日本に帰る方法を見つけるよ。


 ……あ、ついでに借金も返すよ。

 忘れてないよ。

 大丈夫だよ。


 やがてその姿は、朝もやの中へと消えて行った。



 *



 出発して数時間が経った後、フィリップが起きた。


「んぉ……?あ、兄貴……相変わらず冴えない顔してんな……」

「お前もな」

「……は?」

「は?」


 起きてすぐさま一触即発。

 ああ……やっぱりフィリップだ……。

 幻覚だったら良かったのに……。


「んでー……ここは……?」

「行商の荷台の中だよ」

「……え!?街に行けるのか!?」

「そういうことになる。村長が投げ込んできた」

「……ふ、ふふふ、ふはははは!やはり兄貴だけでは不安だったみたいだな!」

「いや、お前が村にいるのが不安だったんだよ」

「そうかそうか!あの村では俺には小さすぎると思ったんだな!慧眼だぞ、村長!」

「そのポジティブさは何なの。どこから湧いて出てきてるの。羨ましいわ~、その頭の悪さ」

「は?」

「は?」

「もー……またすぐそうやって喧嘩を始めるんだから」


 不意に荷台の中に女性の声が響いた。

 荷台の中ほどにあった布がごそごそと動き、そこから顔を出したのはシビラだった。


「シビラ!?お前……何やってんだ!?」

「街に出るんでしょ?あたしもついて行くに決まってるじゃん」

「いや、これは致し方なくこういう状況になってしまっただけで、遊びに行くわけじゃ……」

「分かってるって。でもあたしも……その……桃レンジャー?なんでしょ?仲間なんだから置いていかないでよ」

「いや、それにしたってだな……大体親御さんは了解してくれたのか?」

「壁に木炭で書いといたよ。アンリについて行きますって」

「えぇ……」


 それは……許されるのだろうか……?


「いいじゃん。仲間は多いほうがいいし、男二人じゃむさ苦しいしさ。兄貴より姉ちゃんの方がよっぽど役に立つよ」

「そうかもしれんが、そもそも事の発端はお前だし、お前のいる家の誰かが責任を取らなきゃいけないことだ。シビラの家は何も関係ないだろ」

「いいよいいよ。あたしら女なんていずれ村の外に嫁ぎに出るのがほとんどなんだし。問題があれば連れ戻しに来るでしょ」

「じゃあ、連れ戻しに来たら大人しく連れ戻されろよ」

「さぁ~?どうしよっかな~」

「お前なぁ……」


 とは言うものの、実のところ、気心が知れた仲間がそばにいてくれるのは心強い。

 シビラとフィリップの強さは知っている。

 それがこの世界全体で見た時にどの程度のものなのかまでは判然としないが、勧善懲悪を遂行するに当たっては俺一人ではやや心許なかったのだ。

 大体、まったく見ず知らずの土地で一人で活動するには不安でしかない。

 フィリップはともかく、シビラはいつまで一緒に活動できるか分からないが、3人でどうにか頑張っていけたら、と思う。

 それに、新しいメンバーも探さなければならない。

 不安も大きいが、それと同じくらいには期待が膨らむ。


 待ってろよ!新しい仲間!

 そして人々の敵!

 あとついでにお金!


「ぐへへ、待ってろよ……俺のハーレムメンバー……心配すんなよ、日替わりでちゃんと相手してやるから……ぐひひひ」


 やだ……弟がなんか怖いこと口走ってる……。

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