#16 ロリっ子が冒険者としての一歩を踏み出す話。
私の目標は何だ!?
そう! あの巨乳女神、シルヴァさんから言い渡されたのは、十三大大迷宮とかいうダンジョンの攻略だ! 地獄を作れ!
……じゃなくて、ダンジョンの攻略なんだ。しかしどう見ても今の私じゃあ、一階層で即退場。またシルヴァさんとにらめっこするところまで見えた。
しかしただでさえヘタレな私が幼女になってステータスオールゴミなんだ。魔力以外は。
少なくとも装備は一級品にする必要がある。
ナイフ、防具。それは良し。あの武具屋のおっちゃん、中々腕が良い。
後は杖とか回復薬とか、色々が要る。
その為には何が要る?
銭だッ!
銭が必要なんだ!
と、いうワケで、ギルドのクエストボードとにらめっこ。
むむむ……採取系にするか、討伐系にするか。
よし! この『セージ草』の納品にしよう!
セージって確かスパイスとか薬とかに使われるんだっけな。
……いや、セージ草がセージと同じって決まったわけじゃないけどさ。
現在、アーデル山の麓に来ている。
目に付く草は片っ端から鑑定、鑑定、鑑定。
【アシネン草】
白く小さな花を無数につける草。繁殖力が高い。湯掻いて食べると柔らかいが、若干苦く、クセのある味。高齢者に好まれる。
苦いのかぁ……要らないかな。
いや、でも売れるかもしれないし、貰っておこう。
【フグノホッペ】
警戒状態にある河豚の頬に似た、薄赤色の花をつける草。葉を千切ると良い香りがする。
あ、ほんとだ。若干ツンとする感じの良い匂い。
ちょっと貰っていこう。
【トリカブト】
青い花をつける草。猛毒。
ひぃーーっ!!
この世界にもあるのか、トリカブト!
たまに牛が食べて泡を吹いて倒れるというあのトリカブト!
無視! 次!
【セージ草】
香辛料や薬用としてよく用いられる草の一つ。現在受注中のクエストの目標物。
お、あった。これだ。
結構群生している様だ。有難い。
二、三十本千切り、アイテムボックスに放り込む。
はい、クエスト終了。帰りますか。
……というか、少し喉が渇いた。近くにアーデル川の源泉があった筈だけど……
「ぷっはーっ! 美味いっ!」
すっごく透明な水。多分水中でも三十メートル先が見えるくらい透明。
味は混じりけのないすっごいピュアな味。
塩素とか、カルキとか、全く感じない。
流石異世界。スケールが違うよ。
……まあ、この程度、元の世界にもあるにはあるか。
源泉がといっても、ちょろちょろと小さい雫が流れる源泉ではなく、地下から湧き出るタイプの源泉だ。
泉、という表現が一番適切だろう。
純白の砂を巻き上げ湧き出す水。小さいけど、良い景色だ。
ガサァっと大きな音がした。咄嗟に伏せる。
草むらを掻き分け、出てきたのは大きな鹿だ。余裕で体長二メートルはあるだろう。
背中は緑色で、どうやら苔むしている様だった。
アラスカによくいる感じだ。具体的に言うと、クリスマスのお爺様の相棒をイカつく、凛々しくした感じ。
鑑定してみよう。
【 名 前 】
【 Lv. 】13
【 種 族 】ディソアラー
【 職 業 】
【 体 力 】5787/5787
【 魔 力 】678/678
【 攻撃力 】918
【 防御力 】1098
【 敏 捷 】1798
【 状 態 】水分欠乏
【 技 能 】特筆無し
【 修得済魔法 】無し
ディソアラー……なんか、言ってスッキリしない名前だな。
というか、Lv.13でこのステータスって……末恐ろしい。
【ディソアラー】
鹿型の魔獣。成体は体長五メートルを越すものもいる。基本的には突進が主な攻撃方法だが、大きな角に太陽エネルギーを蓄積し、撃ち出す事も出来る。
気性は穏やかで、攻撃を受けない限りは攻撃してこない。しかし、敵意を感じ取る能力があるため、殺気を持って接すればすぐさまその角の餌食となる。
へぇ。大人しいのか。あのナリで。
……ちょっと近付いてみようかな。女は度胸っていうしね。
私がゆっくりと立ち上がると、鹿は私に気付いたのか、目をジッと見始めた。
敵意は無いよー。鹿肉美味しそうとか思ってないよー。ジビエになんてしないよー。
ただ、ちょっとだけモフモフさせて欲しいんだー。
泉を回り、ゆっくりと近づく。鹿も、私に敵意がない事を感じ取っているのか、余り警戒していない様子。
いやあ、近くで見ると更に大きい。迫力満点だ。
私の身長が低いってのもあるかもだけど。
あ、そうだ。さっきの草、食べるかな? と思い立ち、アシネン草を差し出す。苦いらしいけど、大丈夫かな?
鹿はクンクンと匂いを嗅いだ後、パクッと食べた。口がもしゃもしゃしている。
よし……今のうちに……
撫でる。
ああ……凄い。さらさら……
サラサラしてりゅうううっ!!
何これ!? この世の物とは思えない程サラサラ、フワフワしてりゅ……
ああ、ずっとこのまま撫でくりまわしていたい。それくらい良い気持ち。
鹿がジッとこちらを見ていた。
クリクリの双眸に私が映る。
鹿はキュルキュルと鳴きながら足を折り、その場に屈み込んだ。
細長い舌が私の頬を伝う。
ああ、なんて可愛いんだろう。いっそ、うちの子にしてしまいたい。
いやいや、ダメだダメだ。まずは私の実力を伸ばさなければ。
……でも、もうちょっとモフモフ、良いよね。




