#15 「君である事に理由があると、そう思うかい?」
「……さま」
駅のホームに私は立っていた。
誰も居ない、駅のホームに。
「……お……様」
それは異質な光景だった。こんな真昼間に誰も居ないホームを見るなんて、一度も無かった事だから。
私は眼鏡を掛けていた。久々な気がする。
黒い髪が視界に入る。緑じゃあない。
ああ、大学に行かなきゃ。
私は独り、電車を待った。
「やあ」
不意に声が聞こえた。
しかし、周りを見渡しても誰も居ない。
「こっちだよ」
声は下から聞こえた。
線路の上には、白いダッフルコートを着た少年が立っていた。
危ないよ。と私は言った。
彼は「君のほうが危ないよ」と言った。
そんな訳無い。明らかに線路にいる方が危ないに決まってる。
「間も無く、三番線を、列車が通過します」
ほら、危ないよ。
危なくないよ。
そんなやりとりが続く。
段々怒気を孕んだ声になる私とは裏腹に、何回も同じ声のトーンで言う彼。
電車のライトが眩しくなる。
「もしも、僕達の立っている場所が逆だったなら……ど____
彼の声は最後まで響く事は無かった。
代わりに、骨が砕けるような鈍い音がした。
彼は鉄の蛇に喰われたのだ。
「お客様! 起きて下さい!」
「ほえ?」
気づけば私は机に突っ伏して寝ていた様だった。
気付けばギルドの側にある酒場。
さっき、サザンさんと散々飲んで……お酒じゃないけど。そのまま電池切れて寝ちゃったか……
私の横には若い女の店員さんが。メイド服みたいな制服を着ている。
「ああ……水を一杯貰えますか?」
ウェイターさんは水差しから私のコップに水を入れた。
「はい、どうぞ」
グイッと一気飲みする。
うん。冷えてて美味しい。
「お勘定幾らでしょう?」
財布を開きながら聞くと、代金はもう貰っているとの事だった。
サザンさんが払ってくれたのだろう。有難い。
店を出ると、酔い潰れた人がちらほら居た。
宿も無いので今日も野宿だ。明日からはちゃんと冒険者やろう。
外壁まで歩き、また、寝た。
「やあ」
線路の上に、白いダッフルコートを着た少年が立っていた。




