#アーカイブ:1 『サザン・クロスの手記』
本日はヒマシの街まで来た。塔からは遠いがいい運動になる。
何時までも塔の中に缶詰だと頭が狂いそうになってくるからね。
久々にギルドに来てみるとそこには相変わらずの喧騒が渦巻いていた。
クエストを請けるでもなくただ呆然と時を過ごす。
ああ、だめだめ。これじゃあ塔に居るときと変わらないじゃん。
取り敢えず何か請けてみよう。そう思った時、魔術の指導を請うクエストを見つけた。
大方、頑張ったが才能の開花しない良い所のお坊っちゃまお嬢ちゃまが張り出したのだろう。
そう思って請けるとあらびっくり。白いワンピースに薄緑の髪をたなびかせた、それは可愛いお嬢さんがいた。
しかしその姿は余りお金持ちの子供、という印象は受けなかった。
聞けばその子供は魔力感知すら習得していないようで、これは骨が折れると思ったが、驚いたことにものの数時間で魔力感知を習得した。
魔力感知が出来ない者は大きく二つに分けられる。
魔力が極端に少ない者と、魔力が極端に多い者。
彼女は後者だった。
魔力感知を習得した瞬間、莫大な魔力が噴き出した。
魔力というのは生命の力の根源。それが枯渇すれば死に至る。
彼女は多くの魔力を吐き出してしまったが、まだピンピンしていた。
あれだけの魔力を吐き出せば常人なら数百回は死んでいる。
本当に末恐ろしい子供だ。
しかもそれだけでなく、魔力感知が出来なかったにも関わらず、回復を修得していると言い出す。
ありえない。通常、魔法というのは自分の魔力を完全に理解した上で、何度も試行錯誤を繰り返して編み出す物だ。
しかも、詠唱破棄までしてみせた。
必ず何かがあると思った。
……まあ、彼女が夕飯を食べ寝てしまった内に魔力のサンプルは確保出来た。
本当に面白い子供だった。是非とも私の後任に推したい程だ。




