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ひょんひょろ侍〖戦国偏〗箕埼表の戦い・中編

引き続き兵庫介頑張れ!


てことで、山名勢との合戦をお楽しみください♪


「茅野が柵を打ち破るのじゃ!」

『『おォォオオオオオ!!!』』


 山名満豊が率先して軍勢の指揮を執り、弓矢と(いし)(つぶて)を集団ごとに陣太鼓の調子に合わせて放ちながら、茅野勢の竹柵と盾で防備された陣地まで猛然と突進を開始した山名勢は、突如驚愕の声を発しつつ先頭から次々と転倒をはじめ、そこを茅野勢に柵内から矢や槍で攻撃され大混乱に陥った。


「やられた…」


 軍勢が柵に取り付くのを待っていた惣兵衛は、突然沸き起こった事態に茫然とする。


「なにがあった⁈」

「わかりませぬ!」

「探れ!」

「仕った!」


 惣兵衛に命じられた武者は前線に駆けてゆく。が、彼の者も馬ごと倒れたところを鑓で突かれ絶命してしまった。


「くくっ!最早やむなし。一旦退く!」


 惣兵衛は味方衆の散々な状況を鑑み、前線指揮官である山名主計に攻勢停止を進言する為に駆けだした。

 




「儂の子供だましの悪戯(いたずら)は、(こと)(ほか)上手くいったようだな」

「誠に以て巧くいきました」


 名も無き丘の上から表街道側の戦況を眺めていた兵庫介と、同じく傍らで床几に腰掛ける(きの)四郎次郎(しろうじろう)は、まるで(わらべ)のように膝を打ちはしゃぎ喜んでいた。



 さて、千人余もの人数を用い攻め寄せた山名勢が、柵の前で将棋倒しの如く続々と倒されていった兵庫介が仕掛けた悪戯とは、いったいどのような手品であったのだろうか。


「それにしても斯様な子供だましが巧くいくなどと、誰が考え付きましょうや」

「なあに、童の頃に石投げ合戦の印字(いんじ)()ちで遊んでおれば、人数も多く石投げの上手い相手方を打ち破る方策として、そのうち誰でも思い付きそうなことだ」


 兵庫介は四郎次郎にニヤリ笑いかける。


「さぞかし童の頃は大層な悪ガキであったのでしょうな…」


 四郎次郎は呆れつつも感心しながら言葉を返す。


「なに。ただ単に奴らの足を引っかけようと、地面に縄を幾重にも張っただけなのだ」

「案外と気付かぬものですな」

「敵と云えど所詮(しょせん)は人だからな。命の取り合いを行う場で皆気が立っておる。左様なところでは前は見ても足元まで気が回る者はそうはおるまい」


 これが兵庫介が編み出した子供じみた策の種であった。


 表街道を中心に守備する茅野勢は、行軍の道中刈りだした竹や木を使い、山名勢出現と共に持ち運び可能な簡易な柵を拵え、これで道を塞ぎ海から丘を挟んだ山までの横幅が四町(約430m)の距離に防御陣を即座に設けて見せたが、柵が持ち運びができるという事は、即ちそれは移動が容易な代物だという事と同義でもあるのだ。


「それ故に敵が一旦引くのを見計い、(あらかじ)め後方で荷駄隊に作らせておいた杭張り縄の後ろまで、ゆるり柵を御下げ為されたと」

「まあな。真っ向から勝負しても内乱で戦慣れした山名勢には数の上からも敵わぬし、仮に死力を尽くして勝てたとしても我らの損害が馬鹿に成らん。なれば勝ちやすく楽な手を打つしかあるまい?」

「ですな。我らは軍勢の立て直しに手いっぱい。それ故、兵は戦慣れもしておりませぬ。それに…」

「左様。我らは敵地におり地の利もない。あるのは負けたら仕舞じゃと思う心根のみ」

「まさに死中に活を求める。ですかな?」

「戦場に未だ慣れてはおらぬ兵を奮い立たせるには、この様な危険を覚悟させねばならぬからな。しかも一兵たりとも無駄に損なわずにだ」

「それで斯様に守りやすい地をお選びになった訳でありまするか」


 ふむふむと、腕組みして妙に納得している四郎次郎を他所(よそ)に、兵庫介は別の思惑を巡らせる。


 それは、飯井槻さまが是から為されようとすることに、僅かならずも兵を失う事で(まつりごと)に遅れが出てしまっては面目が立たぬ。という思考であった。


 その後、兵庫介は横に座る四郎次郎から目を放し、キッと再び眼下で退却を始めた山名勢の前線部隊を眺め、やれやれと嘆息した。


「もう少し遮二無二に攻めて来て欲しいものなのだが、そこは中々巧くはいかぬな。流石は戦上手の山名大炊殿の手腕といったところか」

「左様ですな。兵庫介殿の御指図に従い危難に直面した西端城には目もくれず、わざと戦場とは離れた国境の手薄な三つの城を攻め落としたのも、城を攻める山名勢を我らに引き寄せ救う策なればこそ、しかしこれでは(とき)を取られるだけで、一向に埒があきませぬな」


 茅野勢は国境の三城を攻略した後、敵が少ない道を()って山名領内を駆け進み、山名陸奥守家が本拠である【播本(まくも)(じょう)】を窺うそぶりを見せつつ、西端城攻略戦を遂行していた軍勢が引き戻ってくるであろう、この表街道にしれっと出てきたのだ。


 無論、それまでに障害となり尚且つ簡単に潰せそうな砦は幾つか砕いたが、これすらもまた山名家の耳目を集め危機感をあおり、我らのもとに山名勢を呼び戻す策であったのは言うまでもない。


「四郎次郎よ見ろ。どうやら敵はまた軍勢を組み直すようだぞ」


 彼らの丘から四半里離れたやや高い土地を本陣とした山名勢は、これを中心として損害が蓄積された軍勢の総入れ替えと、陣形の再構築を行っているのが見て取れた。


「次が勝負時だな」

「そうなりましょうな」

「縄は恐らく使えまい」

「山名大炊殿は油断ならぬ御方なれば」


 ふむっと、兵庫介が四郎次郎の言葉を噛みしめ、新たな手を考えていたその時。


〘兵庫介様、物見をなさっておいでのさね殿より、危急の注進にござります〙

「聞こう」


 これまで一切口を開かず、戦況を見守るだけであったひょろひょんが兵庫介の背後から、いつもの抑揚さが全くみられない声音で以て、こう申したのだ。


〘背後に新たな山名勢が現れました〙と。


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました♪


次回をお楽しみに~♪

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