ひょんひょろ侍〖戦国偏〗箕埼表の戦い・前編
続きです。
兵庫介頑張れ!
てことで、お楽しみくださいませ♪
『『かかれ‼』』
山名領は箕埼表の表街道で両軍は激突した。
西側に陣取る茅野勢は凡そ一千五百。対する山名勢は凡そ三千三百であったと古書は伝えている。
「防げ!防ぐのじゃ!」
山名勢出現と共に急拵えの竹柵と盾を急峻な山筋に沿って走る表街道から、北側の丘まで急ぎ張り巡らせた茅野勢の壱ノ備の軍勢に、兵庫介配下の本隊の一部を加えた七百人は佐竹小五郎宗近の指揮のもと、攻めかかる山名勢先鋒隊からの間断ない弓矢と投石を防ぎつつ、時折反撃の兵を繰り出しては敵の攻勢が一点に集中しないように牽制を行っている。
「ふむ。川島勢と殿の大炊少允軍勢を北の丘にぶつけ、その隙に南の柵に全力で当たり突破するしかなさそうじゃな」
「なるほど、茅野勢を全面で拘束し、しかる後に一番弱い山際の柵を打ち破る手ですな」
「そうだ。打ち破った後は崩れた敵を本隊を以て追い込み覆滅致すのじゃ」
「よしんばそれで敵勢が丘に逃げ込んでも、これを取り囲むのみという訳ですな。なるほど。使番!」
山名勢の主将である山名主計大允豊高は、自身の配下で股肱之臣でもある玉谷惣兵衛に新たな策を伝え、軍勢の配置転換を促した。
「ほほう。山名はこっちにも盛大に仕掛けて来たな」
「予想通りですかな」
弐ノ備五百人が守備する丘の下の防備線に対して、さらに攻勢を強めてきた山名勢を見据えながら、兵庫介と紀四郎次郎は言葉を交わす。
「あの軍勢の旗印から察するに、新たに丘の攻めに加わったのは、敵の大将の叔父である山名大炊と川島信三の隊でありましょう」
「これで敵の数は我が方の倍近くになったな」
「援軍を差し向けまするか?」
四郎次郎の問いかけに兵庫介は否と首を振る。
「となると、必然的に表街道側が危なくなるな。こうなれば致し方なし、あの手を先に打って置くか」
兵庫介は一人ごちると使番を呼び、何事かを告げ走らせた。
「あの手だけでは不足でありますかな」
「なあに飯井槻さまを見習い、子供みたいな悪戯を施してやろうと思ったまでのことだ」
「はあ?」
表街道側の敵の攻勢は続いている。
今のところ表街道に布陣した壱ノ備は、佐竹小五郎の奮戦もあって大いに敵を苦しめ、山名勢の先鋒である篠田勢を撃退したばかりか、同じく最初に攻めかかった二陣の山名勘兵衛の軍勢をも崩し、名のある将を三人も討ち取る働きを示していた。
「攻めよ」
斯様に山名の攻勢が頓挫しかかってきた折に、より強大な力を一点に集中して茅野勢を打ち破るべく、山名主計が主力を率いて行動を開始した。
山名勢は千を超す軍勢に柵を構え待ち受ける佐竹勢にぶつけた後、南の柵に突撃部隊を差し向けるつもりで山名主計が直卒の兵三百が、玉谷惣兵衛のもとで既に集結を終えて待機していた。
『かかれ!!かかれ!!』
正面攻撃部隊の総大将に任じられた山名主計が嫡男、山名満豊が血気盛んに大声を張り上げ、これに呼応して各隊が吶喊を開始した。
「おや、少しばかり遠くに敵陣を感じるが」
騎乗して突撃準備中の惣兵衛は茅野勢の陣に違和感を感じつつも、再度の攻勢に転じた自軍の行方を見守るしかなかった。
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