ひょんひょろ侍〖戦国偏〗西端城攻囲戦。
さて、やらしい名を飯井槻さまに付けられた、あの伊蔵が登場です。
では、お楽しみくださいませ♪
「やって参りましたな。伊蔵殿」
「左様、参りました」
「手筈通り上手くいくでしょうかな?」
「兵庫介殿は嘘は申さぬ御方。ここはひとつ信じることです」
西端城の城将〖塩田五郎安貞〗が、様子見に来たついでに合戦に参加する運びとなった、飯井槻さまの直臣である〖鎗田伊蔵惟頼〗に、迫りくる敵である【山名勢】を簡素な丸太づくりの物見台から眺めながら問い、彼から得られた答えに、うむ!と、自身に言い聞かせるように納得する。
しかしながら、草刷りに包まれた足が小刻みに震えているのを、伊蔵は決して見逃さない。
「い、些か敵の数が多う御座いますな」
「守護代側を押していると見えて、兵に余裕があるとお見受けいたします」
西端城が建つ小山に通じる表街道を圧して進撃する山名勢は、その数凡そ
〖三千五百人〗
これが陣太鼓の音を合図に田畑を荒らして横に広がり、本隊は西端城から見て北西の小高い丘に築かれていた宗丸砦に登り、本陣と成す構えを見せ、旗印の違う各隊は順々に翼を広げてこちらを包囲する様子であった。
翻って城を守備する我ら茅野勢は、その総数僅かに〖百五十人〗
早期に宗丸砦を捨て拠っていた兵を引き上げ、砦を打ち壊し西端城に集結させ得たのは幸いであった。
「さて、奴らはどう我らを攻めるか。見ものだ」
左右に緩慢に広がり続ける敵勢を眺め、伊蔵は胴丸を叩き気合を入れる。
「矢張り打って出る御積りか伊蔵殿」
「なに、遊びに行くだけで大したことは致さぬ故、御心配召さるな!」
そう云うなり伊蔵は物見台の丸太を滑り降りるや、本郭の小屋に繋いであった愛馬に跨ると、出郭に待機している三十騎の奇襲部隊のもとに駆けた。
「よいか! 手筈は先程拙者が申した通り、敵の首は取るな討ち捨てにせよ!」
「「応‼」」
出撃を今か今かと待って居た鎧武者共が、気勢を発する。
「出る!」
城門を飛び出した伊蔵率いる騎馬集団は、道に沿い左に旋回し、先頭を移動中の北郷勢に対して、騎乗から矢を射かけながら襲い掛かった。
「し、退くな!者共堪えろ!」
北郷方の先手の将が、伊蔵隊の突撃に蹴散らされる兵共を叱咤するが、混乱は一向に収まらない。
しかも後方から大薙刀を振り回し、逃げ遅れた兵を散々に蹴散らしながら、馬に跨り突進を続ける大男の姿が見えた。
「くっ、鑓!」
先手の将は傍らに控える鑓持ちから鑓を受け取り構え、果敢に大男に立ち向かう。
そして彼らが交差した瞬間、血しぶきが湧き上がり首のない鎧武者を乗せた馬が、狂乱しながら更に後方の北郷勢本隊までも掻き乱した。
「これまでだ!引け!」
「「応!」」
伊蔵の号令一過、反転した騎馬集団の間隙を塞ぐ形で、今度は二十人の弓隊と十人の護衛の鑓隊が現れ、混乱が収まらない北郷勢に防ぎ矢を間断なく放つ。
「突っかかれ!」
伊蔵隊は転回を終了するや、今度は出郭から見て右方向で包囲機動中の垣畑勢に突進を開始する。
「構え!」
垣畑勢先手の弓隊指揮官が、北郷勢が伊蔵隊の吶喊で崩れるのを見て取り、咄嗟の判断で簡易ながらも敷いた防御陣を整えて、突進する伊蔵隊を待ち構えていたのだ。
「よし!放…っ⁈」
「ぐあ!」
「ぎゃっ!」
「なんだ⁈」
今まさに矢を放とうとした垣畑先手衆に、西端城から新たに飛び出した投石隊と弓隊から打たれた石礫や弓矢が一斉に殺到し、待ち構えていた垣畑勢の弓隊はおろか先手衆にも、死傷者が続出し始める。
そこに伊蔵隊が躍り込んだ。
攻城戦初日の山名勢の攻勢は失敗に終わった。
西端城南麓の合戦に於いて名のある将を五人も失い、また併せて兵五十人余りをも討たれた北郷勢と垣畑勢は、事実上その戦力を喪失してしまい、結果。山名勢全軍が安全な宗丸砦を中心とした線まで一旦後退せざるを得なくなり、体勢を一から立て直すしか打つ手がなくなってしまったのだ。
それに比べ、伊蔵率いる騎馬集団は僅かに四騎を喪失したのみで、兵に損失は無かった。
「巧いこといって、誠に良かった。…よかった」
「数日はこれで大丈夫でしょう。あとは兵庫介殿の手並みに期待するほかありません」
「あ、はあ、左様であればよいのですが…」
特に深く合戦に参加した訳でもないのに、なぜか汗まみれの塩田は、深く嘆息しつつ沈む夕日を拝んでいた。
ああ、何故だろう?伊蔵に惚れてしまいそう♪
では、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回をお楽しみくださいませ♪




