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ひょんひょろ侍〖戦国偏〗敵地国境の攻城戦。

戦じゃ!いくさじゃ!


てなわけで、お楽しみくださいませ♪

「火をともせ!」


 借り物の軍配を右手で掲げた兵庫介の指示に従い、一斉に松明(たいまつ)に火を点けた茅野勢は、山上の城に向かい凄まじい雄たけびを上げた。


「攻めよ!」


 兵庫介は叫び軍配をサッと振り下ろす。


「「射かけよ!」」


 ひゅひゅん‼


 弓隊から放たれた幾百の火矢が、光跡を引き城に射こまれていく。


「「かかれ!」」


 うおォオオオ‼


 寄せ手は矢留の盾を構え、松明を切り出す際に倒した何本もの松の幹の丸太を抱え、慌てふためき為す術がない城門の守備勢は、矢倉から逃げ散り楽々と一つ目の郭を奪取することに成功した。


「思うた通り(もろ)いな」


 兵庫介は腰に(くく)り付けてある簡素な竹筒の水筒を取り、中の水を一口飲み一息つく。


「兵庫介殿の見立て通り兵の数も少のうござる。この分ですと程なくして城は落ちるものと見受けられまするな」


 茅野家直参軍の参ノ備を預かる『(きの)又兵衛(またのひょうえ)(ひさ)(まさ)』が、兵庫介に忌憚のない意見を述べる。


「だろうな」


 まあ、向こうはコチラの国が内紛で弱っておるとみて、すかさず手出しをしておるからな、まさか我らが、いや我らが飯井槻さまが斯様な事態を読み備えておったなどとは、夢にも想うてはおらなんだであろうが。


「して、他の二城も攻略は上手くいっておるか?」

「此処から見まするに、東側の城は最早全域を火に包まれ落ちましたようにござる。西の城はよう燃えておりますれば、こちらも間もなくでございましょう」


 騎乗のまま腰を浮かせ背伸びして、両城の辺りを臨みながら的確な報告をする。


 半面、偉丈夫な又兵衛に比べ著しく背が低い兵庫介は、幾ら背丈が大きな愛馬に跨っていようともまるで見ることが出来ない。


 間を置かず、両城を落としたとの報告が、攻めていた壱ノ備と弐ノ備から派遣された使番からもたらされた。


 コヤツのオジキである四郎次郎は巧くやったようだな。


「「勝鬨(かちどき)じゃあァアア‼ えいえいぉオオオォォォ‼」」


 ちょっと、まだ戦も終わってもないのに、本陣で勝手に勝鬨始めないでくれる⁈


 使番たちからの報告を真剣な顔で聞いていた兵庫介は慌てたが、それが本陣ではなく今攻めている目前の敵城からの気勢だと気付き、顔が赤くなる。


「やりましたぞ、御大将!」

「欠いた囲みから逃げる敵兵は追わず、捨て置けと重ねて申し伝えよ」

「畏まった! 使番!」


 意気揚々と応じた又兵衛は、すかさず両備から報告に参っていた先程の使番を呼び止め、兵庫介の申し送りを伝達する。


 ふむ、よもや敵方も我らが国境を越えて攻めては来ぬと踏み安心しきり、城の防備や警戒も手薄なのは致し方あるまい。


また、儂が敢えて城を包囲する陣の一角をワザと開け、切羽詰まり松明の途切れるところを狙い城兵が逃げる道を作っていたのも、幸いと云えば幸いしてはおるのだろう。


だが……。


 兵庫介はこうも考えてしまう。自身の狙い通りに事が運んだことには安堵はするが、幾ら何でも脆すぎやしないかとの疑念も同時に沸い来てしまう。


〘それにつきましては、恐らく考え過ぎでござりましょう〙


 ぶっ!


 兵庫介は二口目を含んでいた水を、盛大に吹き出してしまった。


「お、おまえ! 一体どこから湧いて出た!」


 本陣に詰めておる茅野家の(かち)(さむらい)に先導された、いやと云うほど見知った男が、娘侍の御姿を為された『さね』こと『(さね)衛門(えもん)』様をお連れになり、急に隣に現れたのだから兵庫介の驚愕と云ったらなかった。


「またお主は斯様に危険なところに『さね』、いや、これは失礼を。『実衛門』様をお連れになるなど、どういうつもりだ」


 兵庫介は口を拭いつつ、ひょろひょんを問い詰める。


〘さね殿が是非にと申したもので〙

「だからと云うて、飯井槻さまの縁戚であられる御方を戦場にお連れするなど危なかろうが!」

「あっちが参りたいと申したのじゃ。もう兵庫介は怒りん坊なのじゃ!」


 背が異様にひょろ高い、ひょろひょん脇の『実衛門』様はこう(のたま)った。


「されど…」

「バカにするな。あっちは是でも侍の端くれじゃ! 本物の戦場くらいは身をもって知っているのじゃ!」


 ぷんすか怒る実衛門様は兵庫介を睨みつける。思わず兵庫介は自身の(すね)を手で守ってしまう。


「本当なのか?」

〘左様にございまする〙


 にししし♪と目を細め、にこやかに笑う実衛門様はどれどれと落ちたばかりの城を見上げて眺め、御満悦の様子だ。


「まあ、よい。されどひょんひょろよ、お主さきほど敵方に策がないか案じた儂の独り言に心配ないと申したが、あれはまことか?」

〘誠にて〙

何故(なにゆえ)そう言い切れる」


 兵庫介はひょんひょろの物言いを(いぶか)しりながら尋ねる。


〘彼の国は守護職であられ此度の戦を仕掛けて来た山名陸奥守様と、西の四群(しぐん)を任されております守護代、西条殿との仲が険悪でございまして、とてもこちらの防備には手は回らぬ御様子にございます〙

「国の真ん中で睨み合っておるから、ここまでは手は回らぬと?」

〘左様〙

「なれば何故我らに刃を向けるのか?」


 だからね、ひょろひょんさんよ。どう考えてもそんなクソ忙しい時期に、ワザワザ他国にちょっかいなど出す暇などないのになんでだろうと、常識人の儂などは思ってしまうと言っておるのだが?


〘ですから敢えて、我らが国にちょっかいを仕掛けてきたのでございます〙

「…?」


 ちょっと誰か、コイツが何言ってるのか返答できる奴連れて来て。


 兵庫介は素直にそう思ってしまっていた。


此のたびもお読み頂きまして、誠にありがとうございました♪


でわ、またー♪

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