ひょんひょろ侍 with 昭和ノスタルジー [其の肆]
大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
今書き終わりました!
ひょんひょろ侍 with 昭和ノスタルジー 最終回になります。
では、お楽しみくださいませ♪
「あっ、はい。初めまして…」
僕はペコリと頭を下げて自分の名前を告げて、差し出された手を順に握って失礼が無いように気を配ってみた。なかなか難しいね、ちゃんとするって。
「ふむ、良き子じゃ。のう兵庫助よ、いえ、兵庫助…。あっと、智親さん」と、レースの刺繍が施された日傘をさしたビックリするくらいの色白美人さんが隣の背が低い男性に云った。
「その通りですな、飯井槻さま。ええっと、千桜さん」と、キチンと糊付けされた高そうな背広を着た美人さんに笑顔で応えた。
「??」
なんだろう、お互いの名前を言いなれてないのかな。婚約者同志なのに?
「いや何の、兵庫の……智親はの、元は我が茅野家の家来筋の身分でのう、未だにわらわも言い方に慣れてはおらなんでのう」
「私もね、ちょっとやそっとでは飯井槻さ…、んっと、呼び方が直りそうになくてね。困ってはいるんだよ」
ね♪♪っと、お互い顔を見合わせ微笑み合っている。
しかもココに着いた時からお互いの手はずっと繋がれていて、指まで絡ませ合っているのだから、恋愛の話どころか、女の子のこともまだよくわからない僕には毒が強すぎた。
「あ、あの!その、お二人はいずれ、け、けこ、結婚なさるんですよね」
顔が熱い。たぶんだけど、この時の僕の顔は良く灼けた達磨ストーブの腹みたいに真っ赤になっていた事だろう。
「どうしたのじゃ。暑いのかの?顔が真っ赤じゃぞ」
「ホントだ。水か冷たい清涼飲料水でも飲むかい?」
ひょうごのすけさん?ともちかさん?本名どっちなんだろ?さんは、僕を気遣いひょんひょろさんに相談を始めた。
「あ、あの。おかまいなく。ちょっとあてられちゃって」
「「?」」
とっても仲良しの二人は目を合わせキョトンとしている。
〘御二方、童の前でございます〙
『「あっ!!」』
パッと繋いでいた手を離した二人は、お互い反対方向に顔を背けて素知らぬふりを決め込んだ。
「ぷっ!アハハハ♪」
「ふししし♪」
「はははは!」
僕が思わず吹き出し、つられて二人も笑ってくれた。
「うむ憂い子じゃ。斯様に良き人となりなれば、任せてみるのものう?」
「左様ですな。それも一興かもしれません」
「?」
「ああ、すまないね、実はひょろひょんから話は一通り聞いてはいたんだけれどもね…」
「先ずは一目会ってからと思うたもんでの。ふししし♪」
途中まで時代劇の様な話ぶりをしていた将来を誓い合ったの二人は、にこやかに笑いながら僕の手を握ったり肩に手を掛けたりと、いやに親し気に接してきたのだから少し怖くて体が強張ってしまった。
〘お遊びも大概に致しませ〙
ひょんひょさんはいつもの抑揚のない声音を更に平坦にして、仲良し二人組を窘める。
「「ごめんね♪」」
おどけた二人は僕に謝罪してから、ひょんひょろさんにも軽く謝った。
「あのな童よ、お主の願いをわらわは気に入ったのじゃ、この地を其方に貸してやってもよい。好きに発掘なりなんなりするがよいぞ」
「私の知り合いには仕事柄大学の教授や学芸員もいるから、紹介しても構わないよ。発掘するにしても調査するにしても正規のやり方を知っておくほうがいいだろうからね」
「おお、それは良い考えじゃの、わらわも手を尽くそうぞ」
と、直ぐに僕のわがままな夢に賛同してくれて、しかも手助けまで申し出てくれたのだ。
「あの、えっと。ありがとうございます!!」
僕は感激してさっきまで赤かったけど何とか治まっていた顔が、今度は別の意味で真っ赤になってしまった。
「「ただし、ちゃんとした発掘は大人になってからじゃ。だよ♪」」
ニッカリ太陽みたいに笑って仲良しカップルは、ちょっとした釘を僕に刺した。
「それまでは色々な人に巡り合って色々学んで、普段の勉強もしっかりして大学にも入って一杯研鑽してくださいね。それと何かあった場合こちらに電話してくださいね」
そう言って差し出してきた名刺には『神鹿建設株式会社 代表取締役社長 神鹿兵庫助智親』と、印刷されていた。
「えっ?あの神鹿建設の社長さんなの?」
僕は心底から驚いてしまった。だって左官屋さんの父ちゃんが仕事を世話してもらっている、この地方では一番大きな土建会社だったからだ。
「ほら君も」
「解っておるのじゃ、左様に急かす出ない」
そう云ってパートナーに少しばかり怒りつつ差し出された名刺には、『県知事〖茅野三十郎〗公設秘書 茅野千桜 〖飯井槻〗』と記されていた。
「えっ、あの、ええっ!」
思わず僕は仰け反ってしまった。まさかこの清楚そうな人が県知事の秘書さんだったなんて!
「うむ、良い反応じゃ♪」
茅野さんは僕の驚愕が気に入ったようで、頭を優しく撫でてくれた。
「本日只今からわらわ達はお主の後援者じゃ、遠慮のう無理難題を申すがよいぞ♪」
神鹿さんと茅野さんは再度手を差し出して、僕と固い握手をしてくれた。
「あの、あの。どうしてそこまで僕を手助けしてくれるんですか?」
そう問うと二人とひょんひょさんは顔を見合わせ、こう応えてくれた。
「「「良い夢を紡いでいたからの♪だ。です」」」
僕がひょんひょろさんに伝えたささやかな夢『家族や地域の人たちを幸せにしたい』が、叶ったように思えた。
「なんの、未だはじまったばかりじゃぞ、あとはお主の頑張り次第じゃ♪」
「そうそう」
〘左様でございます〙
三人は同調する。
「折角お主は此のひょんひょろさんに巡り合ったのじゃ。奇貨居くべし。縁は大切に育まなければ為らぬぞ」
屈んで目線を合わせ茅野さんは諭すように人の運や生き方を教えてくれた。
「はい!一所懸命勉強して日本一の歴史学者を目指します!」
「うむ、その意気じゃ♪期待しておるぞ!」
ポンポン。僕を優しく元気づける様に叩いた茅野さんは、記念に写真でも撮らぬかと云い、その意を汲んだひょんひょろさんが麓に停めてある車までカメラを取りに降りていった。
「ねえ君、君にはひょろひょんが何に見えてるかな?」
唐突に神鹿社長さんが話しかけてきた。
「えっと、やたら背が高いヒッピーさんですが」
なんだろう、問いかけの意味が解らない。
「そうなのか、いや私にはね。やたらめったら背が高いのは一緒なんだが。見た目はくたびれた絣の羽織と着物を着ていてね、髪はぼさぼさでお釜帽をかぶった冴えない男にしか見えないんだ」
えっ!
「ほう左様かの、わらわには香弥乃大宮に住まうくたびれた禰宜に見えるがの。ふししし♪」
ええっ!!
もう、びっくりした何て、軽々しく言えるレベルを振り切った発言が二人から出て、僕はちょっと腰が抜けそうになってしまった。
「左様に驚くではない。アレは当家を支えて呉れておる者での。例えばそうじゃの、此の地で五百数十年前の下剋上騒ぎの際に暗躍してくれての、わらわから数えて十七代前の飯井槻さまも大いに助けられたそうじゃの♪」
ふししし♪っと、白い歯を見せ含むように楽しく笑う茅野さんは、続けてこう云われた。
「古代から故あって我が茅野家は香弥乃大宮の祭主を務めておるがの、その昔は香弥乃ではなく『かのうやの神』と土地の者から呼ばれていたそうな。『かのうや』は『叶うや』になるそうでの、それが転じていつの頃からか豊穣の神『香弥乃の神』になったそうな。大昔の人々の願い、かなえて欲しいこと云えば豊穣であったであろうからの。それ故に実は多くのことを叶える神であったのに、知らぬ間に豊穣の神に変じたのであろうの」
うん、うん。自身で納得したように頷いて、茅野さんは香弥乃の神の説明を閉じる。
「あの、それってひょんひょろさんが香弥乃の神様ってことですか?」
僕は震えながら問い掛ける。
「いや、恐らく違うであろうの、何せ香弥乃の神は代々の飯井槻と名乗る女子を依代として此の世に留まっておるからの」
「そうなんですか」
「そうなのじゃ」
クスクスしながら茅野さ…。あっと、当代の飯井槻さまが僕に応えた。だったらあの『ひょんひょろ』さんは何者なんだろう。
「それもついでにお主が調べてみるのも一興だろうて、ほれ、件のひょんひょろが帰って来たのじゃ」
僕が登城道を振り返ると、ユラユラ陽炎のように揺らめきながら、ヒッピー姿のひょんひょろさんがカメラを抱えて帰って来た。
〘お待たせを〙
スルリと、そう云った方がひょんひょろさんの不思議な現れ方にピッタリな表現は無いのではないかと思うくらいに、そんな感じでこの場に立ったカメラを携えた得体のしれない人物は。
「先ずはわらわと兵庫助と、この子を間に居れたのを撮るのじゃ」
との言いつけに従い、写真を幾枚かパシャリパシャリと撮影した。
「では次は私が撮るからひょろひょんも中に入ってくれ」
〘畏まりてございます〙
僕の右隣に立ったひょんひょろさんをフレームに収めた神鹿社長、えっと、兵庫助さんも幾枚かパシャリパシャリと撮影した。
日が傾き始めた別れ際、仲良しのお二人は再び手を絡ませるように握り合って、僕に頑張ろう様に手を振りながら登城道を下って行き、僕とひょんひょろさんはそれを見送った。
〘これを差し上げましょう〙
「なんですかコレ?」
右手に手渡されたのは一枚の綺麗な銅貨。
〘それは先程の御社様が仰られていました十七代前の御社様が、初めて私鋳された価値の高い銭でございます。出来が頗る良い品にてございまするよ〙
「ええっ!そんな価値ありそうなの戴いてもいいんですか?」
〘構いません。これも御社様の思し召しでしょう〙
「? よく分かりませんけどありがとうございます」
〘いえいえ、此方こそ御社様の神世にようこそ御出で下さりました〙
僕たちの頭上には、僕の大好きなF-4ファントムⅡの2機小隊の編隊が轟音を立て、美しい夕日に向かって飛び去って行くのが眼に入ったのだった。
平成29年10月18日
あれから私は一所懸命に勉学に励み、発掘調査の真似ごとにも勤しみ、多くの著名な方や学芸員さんたちとも知り合って、本場の発掘調査にも参加させてもらう事が出来た。
お陰で今は此の県の国立大学の教授にも就任して、中世から近世についての考古学歴史学に一家言持てる身分にもなった。
勿論、今はすっかり高齢になってしまわれたが、かつての飯井槻さまと、婿養子になられ十年前まで県知事を務められた茅野兵庫助さんとの交流は続いていて、兵庫助さんは私が調べ上げた考古資料をもとに、あの【季の松原城】の復元に取り組まれている。
なんでも、戦国初期から中期の城郭の復元は大河ドラマの呼び込みを始め、新たな観光資源の開拓に打って付けだそうだ(笑)
そして、私の家にはあの淡い思い出の写真が、今も大事に飾ってある。
実はこれにはちょっとした仕掛けがあって、いつも表に見えている写真は、僕と飯井槻さまと兵庫助さんが写っている楽し気な写真。それにひょんひょろさんから手渡された美しい造形の古銭。
でも重ねてある裏側には、僕と飯井槻さまと、そして本来の姿のひょんひょろさんが写っている。
「これは面白いから、僕にはもったいなくて墓場まで持っていこう」
久しぶりに取り出した白黒写真を眺めながら、そっと額縁に閉じ込め、私は夕日を眺めながら暫し懐かしい物思いに更ける。
その夕日に向かってしずかな轟音を上げて、空自のF-15Jの二機小隊が駆け抜けていくのを、見つけた私は、いつまでもいつまでも眺めていたのだった。
おわり。
今回もお読みいただき誠にありがとうございました。
感謝に堪えません。大変ありがとうございました!!
もしよければ感想など、いいたき事なぞ御座いましたら参考にもなりますのでお書き頂けると助かります。
それでは今後ともよろしくお願いいたします♪
では、またで御座います♪




