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ひょんひょろ侍 with 昭和ノスタルジー [其の弐]

昭和の『少年』と『ひょんひょろ』の御話はどうでしょうかね?


では、次の御話をお楽しみくださいませ♪

 彼、〖ひょんひょろ〗との出会いは偶然だった。


 三日前。僕が、と云うか僕たちが、いつも遊んでいたお城の下の三角形のかたちをした通称【さんかく公園】で、当時僕たちを含め日本中の男の子たちの間で流行っていた、〖ウルト〇セブン〗を真似てウル〇ラ警備隊員に[ア〇ヌ隊員はいない]扮した、居もしない怪獣退治ごっこに夢中になっていた時、友達の誰かが不意に『発見』した山に登る小径(こみち)()かれ、僕たちは探検ごっこを開始した。


 どこに続くのか、全く分からない草深い小径は、やがて登って行くうち生い茂った樹木の束に覆いかぶされ、奥に行けば行くほど辺りは昼間なのにドンドン暗くなっていき、それに怯えた友達は一人、また一人と家に帰ると云っては去って行き、気が付いた時には僕一人になってしまっていた。


「はあ、はあ。やっと、出口についた」


 目の前を(さえぎ)っていた枯れ枝をへし折って除けた僕の前に現れたのは、台状の広い山の中の(くさ)(はら)だった。


「こんな平らな場所が山の中にあったなんて…」


 僕は原っぱの真ん中まで進み両手を広げて陽の光を浴び、大きく深呼吸をした。


〘おや、かようなところで、どうなされました〙


 突然、背後の、しかも頭上からの聞こえる抑揚のない薄ぼんやりした『声』らしきナニカに、僕の身体は一瞬で固まってしまった。


 怖い!怖い!怖い!怖い!


〘おやおや、どうなされました。何か怖いモノでも見られましたか?〙


 また、声が頭上から聞こえる。


 でも今度は、抑揚のない平坦な声には変わりはないけれど、人間の声としてちゃんと認識できるレベルの音になっていた。


「わっ!」


 原っぱの、僕の足元から伸びている影に半分覆いかぶさるように、とっても長く細い影がスッと伸びているのが見えて、思わず叫んでしまった。


 お化けだ!お化けに会ってしまった!


 そう考えてしまった途端、足がガクガク震え痙攣までしだして、それが腰辺りまで登って来たところで僕は立って居られなくなって、身体が崩壊する様に地面と衝突寸前…。


〘大事在りませぬか〙


 ふわっと身体が空に昇った。


「えっ⁈ わっわっ!!」


 僕の眼に、これまで見たことも無い高さの景色が広がった。


 背がすっごく高い人は、毎日こんな視点で周りを見てるんだなって、僕は素直に感動してしまって……。


〘高い、たか~い〙

「子供じゃないからね!」


 いきなりのあやし言葉に、僕は突っ込んでしまった。 子供なんだけど。


〘ああ、左様ですね。御怪我はないようで安心いたしました〙

 

 なんなん?この人、一体。


 スイッと僕の高度が下がり、足先が地面に接して、やがて立てた。


「でさ、お兄さんは誰なの?」

〘誰なんでしょうね〙


 逆光を背負い、ぼやけた白っぽいシルエットの佇立している人らしきモノは、やがて目が慣れてきたためか、段々と人の形に見えてきた。


「ヒッピー、さんなの?」

〘なるほど、左様な者に見えまするか〙

「うん?」


 振り返って近くで見上げるた彼は、しゃべる口元は判るけれど、それ以外はなんとなくの感覚としてでしか、その表情が読み取れなかった。


「ヒッピーじゃないの? 髭もじゃもじゃだし、鉢巻き、あっ、バンダナ?で長い髪だし」

〘なるほど、左様です。ヒッピーですね〙

「んん?」


 なんなのだろう。言い回しが独特な人だな。


「でさ、そのお兄さん、ヒッピーさんはさ、こんなところで何しているの?」

 

 僕は心から怪しむ態度と口調で聞く。


〘実は[散歩中]の身でございまして、斯様な時に辿り着きました〙

「えっと、ヒッピーだから放浪中ってことなの?」

〘左様な次第になりましょうか〙

「ふ、ふーん……」


 どう見ても怪しいヒッピー系〖ジャイアント馬場〗かなり細身バージョンは、そんなふんわりした回答を述べた。


 どうしよう。おまわりさんに報せた方がいいのかな?


 僕は一歩だけ後ずさり、いつでも走って逃げ出せる距離を取ろうとする。


〘ここは()(やしろ)様の屋敷地だった場所でして、懐かしくもあり散策をしていた次第でして〙

「おやしろさま? やしき…??」

〘左様にございます〙


 益々怪しいよ。しかも言ってることが意味不明だ。


 僕はもう一歩、後退りをした。


「それって、なんのこと?」

〘雇い主にして主のことにございます。かつてはこの地に屋敷を構えておられました〙

「えっ!ここに?こんな原っぱに?」

〘左様にございます〙

「そうなんだ。お兄さんはヒッピーなのに就職してるんだね。 変なの」


 僕はクスッと笑った。


〘変でございますか〙

「変だよ。だってヒッピーって自由だ平和だって屁理屈を云って騒ぐだけの、結局は働きたくない人たちだって父ちゃんが言ってたもん」

〘左様で〙


 この言葉は、生まれからして苦労を強いられてきた来た父ちゃんの、偽りのない気持ちだったに違いない。


『喰う為に軍隊に居残った。でもな、散々に負けてしまって当てが外れちまって、今はしがない左官屋稼業と来たもんだ』

  

 とは、晩酌に安い二級酒か、安くて質の良くない味醂と焼酎を混ぜた直しと云う酒を片手に、母の作った漬物か味噌を肴に飲んでいる時の父ちゃんの口癖だ。


〘なるほど、これは会わす顔がないですな〙


 二ッとお兄さんは口元を(ほころ)ばせる。


「えっとね。お兄さんは大丈夫だよ。だって働いてるんでしょ? それにえっとお兄さん、『ひょんひょろ』さんは、ちゃんと働いている人なんでしょ?」

〘左様にございまするな。此の世に出でてからずっと、御社様にお仕えしておりまする〙


 自然と口から出た『ひょんひょろ』とかいう、不自然な言葉に僕は何の違和感も感じなかった。


 どころか、懐かしい親しみの感情さえ湧いてきていたのだから不思議だ。


〘ところで少しお尋ねしてもよろしいでしょうか〙

「なに?ひょんひょろさん」

〘あなたは何の夢を紡いでおいでにございまするか?〙

 

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