慶長の世に秋《とき》は戻って日は暮れて。
此れにて、一旦『ひょんひょろ侍』はお仕舞いです。
が、また気が向いたら続くかもしれませんし、続か無いかもしれません。
仲良くしてくれている方々の作品も読まなければいけないし、しかも、しかもですよ?皆様の作品はジャンルが違えどおもしろくてたまりません。
あーあ!一日が一年だったらなー!休みの日だけ!(布団の上でごろごろっと)
てなわけで、明日からは予定三日間?くらいで、チョッとだけ補足的な『おまけ話』をあげます。
たぶん此れね。サブタイトルから可笑しいのですが、仕様なので仕様がないのね!
では皆様、お楽しみ下さいませ♪
慶長八年五月十日
「ひょご公!幼い頃より昔話で知っております! しかしながら本来の名が神鹿兵庫介と申されるのは初めて知りました。もしやとは思いますが尼様は、茅野家の血筋に繋がる御方様なのですか?」
「さぁのう。ふししし♪」
相も変わらず老尼様は手を揉みながら囲炉裏で暖をとりつつ、すっとぼけた様子で呟かれる。
「さりながら、かの茅野様の昔語とはつゆ知らず、誠に以て失礼いたしました。老尼様、不躾ながら重ねてお聞き致しまするが、茅野様に連なる御方であられまするか?」
「さてさて、不憫なる耳での、よう聞こえんわ♪」
こう云われて老尼様は、片眼を開けてコチラを探る様に覗かれた。
私は一歩飛ぶようにして下がり深く頭を下げて、これまでの無礼を謝した。
もしも、彼女が朝廷はもとより将軍家との繋がりも深い茅野家の縁者であれば、うだつの上がらぬ一介の底辺武士にすぎぬ私の身分程度では、目通りすら敵わぬ御方やもしれぬのだから、対等な気分で話を伺うべきではなかったのだ。
「ふしし♪ ま、よいのじゃ。これも茅野の拒まぬ気風故じゃ、気にせず面を上げられよ」
恐縮するしかない私は、身もだえしつつ謂われるままにゆるり、面を上げた。
「それでよい、それでよい」
顔を緩ませて老尼様は微笑まれる。
「での話の続きじゃが、その後はな、飯井槻さまが立てた策に則りての、ひょんひょろの深慮遠謀がこれを補完しての、兵庫介など才ある者どもが力を合わせて確実な国盗りに進んでいくわけじゃが、そろそろ疲れたによって続きは又に致そうかの」
目をしばたたせて、小さく欠伸をされた老尼様は如何にも疲れたのだといった面持で、ゆっくりと顔をこちらに向け、もうそろそろお主も帰らぬかと無言で促された。
「では私は御暇致しましょう。本日は誠に以て面白き物語をお聞かせ頂き、有り難き幸せに御座いました。また近きうちにお尋ね致しても宜しいでしょうか?」
百十年程も前の、さる国の国盗りに纏わる策謀の物語は、胸が沸き立つような思いがして確かに面白かった。そのお陰で、すっかり腹も空いてしまってもいたのだが。
「その折には人を遣って呼ぶ故、恙無く過ごし待って居るがよいのじゃ。その際にはの、何か旨いものを持ってくれば尚よいのじゃがの♪」
目を瞑ったまま食い物を催促して来る老尼を残し、狭く煙い庵から帰ろうと、外に一歩出た刹那、とある事を聞かねばならぬ事をふと思い出し立ち止まった。
「尼様、すっかりと物語から抜けて聞きそびれておりましたが、ひょんひょろなる侍の本当の名はなんでありましょう。出来ますればお教え願いたいのですが?」
庵の外は、とっぷりと日が暮れ夕闇が真近に迫っている。すっかり囲炉裏の暖かさに火照り汗ばんだ体には、涼やかな夕風が心地よく感じた。
「さぁのう、昔のこと故の、わすれたのじゃ」
ニヤリと笑った老尼は身体をひねり、よっこらせと座布団の上に横になられ、軽い寝息を立て始めた。
「致し方無し、帰って冷や飯に熱い湯でもかけ喰らいながら、話を纏めるとするか」
く~っと鳴る腹をさすりながら、老尼に掻い巻きを掛けて差し上げたあと表に出た私は、戦国の世の習いとは云え、なんとも恐ろしい話を聞かされたとポツリ呟き、うすら寒さに身震いし、それでもこの話を纏めれば世間に『我が名が残る』のでないかとの細やかな期待に胸を躍らせて、足早に家路を急ぐのだ…。
〘そこな御方、なにやら夢を紡いでおいでのようで?〙
暗がりに林の中から聞こえた声音は、誰であったのだろうと気にしつつ、ではあったが。
此の国の下剋上の御話は、是にて終わり。
原典 延徳明応諸国噺 作者不詳
現代語訳 良雪
斯様な原典、探してもないよっと♪
それでは♪
此処まで読んでいただき誠に有り難うございます‼
皆様のお陰で書き上げることが出来ました‼
本当に感謝に堪えません。ありがとう御座いました‼
今後とも宜しくお願い致します‼
では、またー♪




