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優しき一族。(3)

優しき一族。の三回目、トータルならば第67部になります。


早いもので、もう67ですよ奥さま。


セール品ではないので安売りは出来ませんが、せめて、生暖かい気持ちでお読み下さいませね♪


では、またー♪



「飯井槻さまにおかれては、御機嫌麗しゅうございます」

「……うん」

「ん?」


おや?飯井槻さまの御様子が、あからさまに可笑しい(笑)






さてさて、門役人の上役人に面会したあと許しを得て、碧の紫陽花館の裏側を右に回り、飯井槻さまの御座所がある母屋に向かい歩を進めていく兵庫介は、やがて造りや形としては(ふる)い形式にも程がある、小島を浮かべた大きな池と小さな池と、この二つを繋ぐ細い川のせせらぎに朱色の渡し橋を備えた庭園に着いたのだが。


「これは兵庫介殿。此度は如何なる用向きでの来訪にございましょうや?」


庭園の東西の(しつら)えた対屋(たいのや)の内の西対屋(にしたいのや)より老女房が一人出でまして、こう儂に問うてきた。


「これは妙義殿、昨日振りにござる」


兵庫介にはらしからぬ、規律正しい辞儀をした。


「はい、昨日ぶり。での、重ねて尋ねるが、何用にありましょうや?」


一瞬だけニッコリされた妙義殿は、直ぐに固い表情に戻りまた問うてきた。


()ればでござる」


兵庫介は道中で二人の侍女に出逢ったこと、其処でなされた会話などを妙義殿に告げ、無用とは思いつつも気になり自分が参った旨も告げた。


「まあまあ、左様なことが⁉ ですけど何やら妙」


妙義だけに?


「……ふう、矢張り兵庫介殿は飯井槻さまが日頃申される通りの、うっかり侍さんですのね」


妙義殿はすべらかしの髪に手をやり、ゆったり首をふる。


はあ? うっかり侍って儂、日頃からそう呼ばれてんの?なんで?


「……男足るもの、些細な事を気にしない‼」

「はっ!ごもっとも‼」


だんっ!!と、地べたを踏み締めた妙義殿の気迫に圧され、兵庫介は縮こまる。


儂、小さき時分より、此の御人が苦手なんだよなぁー。


たがひとつ、妙義殿のお陰で判ったことがある。絶対、飯井槻さまは良からぬ事を企んでおるに違いあるまい。


となれば一寸(ちょっと)の油断すらも禁物。命取り。


なんせ飯井槻さまは彼の強大な深志家を、事実上、口先三寸で見事滅ぼされた奇才で在らせられるのだからな。


 なんだろう。此の得たいの知れないおっかなさ。


なぁーんてな。無害な儂ら相手に命のやり取りなぞ、飯井槻さまは為さろう筈がないからな。


となると、あと考えられるのは……。


悪戯だな。


でなければ、新たな御役目かな。


まあ、何れにせよ。忙がしくは成るであろうな。あの不穏な件もあることだし。


兵庫介は思わず嘆息する。


ひとつ大事が片付けば、直ぐさま新たな大事が持ち上がってくる。


世の中の仕事とは、斯様な重なり合い繋がり合いから出来ているとは申せ、キリがないではないか。


まあ、いい。今は飯井槻さまとの面会が先だからな。






そして上記の出だしに戻るのである。



「のう妙義殿よ、如何(いかが)()されたのだ飯井槻さまは?」


兵庫介は(かたわ)らに控えておられる妙義殿に、小声で尋ね聴く。


「さあ、良くは存じませぬ。御自身で御尋ねに為られれば(よろ)しいかと」


なんじゃそら?


「一介の外様の儂がか?」

「左様なこと、当家では意味が在りますまい。何を今更、生娘(きむすめ)でもありますまいに」


いや儂、おっさんなんだが。


「あら失礼を。為れば聴けますでしょ?立派な男子(おのこ)なんですから」

「はい、すいません」


どうやら逃げ道はハナから無かったらしい。


「飯井槻さまよ」

「んん、なんじゃ」

「ちゃんと朝飯は喰ったのか?」


母屋の丁度真ん中に位置する台座の御簾の中、憂鬱な雰囲気を漂わせていた飯井槻さまの影を、我、小刻みに揺らせることに成功した。




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