表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/150

優しき一族。(2)

続きになります。


このサブタイトル。実は何かを意味しています。


まあ私はサブタイトルで良く遊んでるんですが、そんなことを考えつつ明日以降も読んでいくと、その内に『×××と×××な話』になったりします。


では、今回もお楽しみ下さいませ♪



何やら侍女二人のお陰で、(とき)が経てば経つほど気が気ではなくなった兵庫介は、合戦でもするかのように心の内で攻め太鼓を鳴らし、襲歩の要領で音頭をとりながら愛馬を出来うる限り疲れさせずに、知らず知らずにやんわりと駆けさせてしまっていた。


そして少しでも早く碧の紫陽花館に着けるよう、険しくとも近道を急ぐように努力もした。


結果。


「着いたな」


二刻半((およ)そ五時間)で、(あお)紫陽花(あじさい)(やかた)辿(たど)り着いてしまっていた。


「詰めの城の【飯井槻山城】共々、相変わらず戦う気が全く感じられない、気の抜けまくってる場所だな」


飯井通じなさまの居館である【碧の紫陽花館】は、茅野家がまだ藤原氏(ふじわらのうじ)(かばね)にしていた頃からある寝殿造の館で、築造から既に七百年余りは経つと言う古兵者(ふるつわもの)でもあった。


「だからと云うて防備(ふせぎそなえ)が、僅か三間(さんけん)程度の堀に薄い土塀(どべい)のみとは、(いささ)かどころではないくらい心許(こころもと)ないな」


あとの備と云えば、高倉に無理矢理板でくっつけたみたいに櫓が一筋有るくらいで、とてもではないが、いざ戦となれば此ほどまでに落ちやすそうな館は、此の国でも数えるくらいしか無いのではないかな?


「それに詰めの城にしたってそうだ。最後の拠点として詰め居る意味がない代物なのだからな」


仮に茅野家が攻めに攻められ、遂には館も落とされ(儂ならば半刻も要らぬ軽い戦で落とせる自信がある)て仕舞い、やむなく最後の拠り所として【飯井槻山城】に籠ったとしても、まあ持って一刻(いっとき)二刻(ふたとき)だろうな。


それ程までに【飯井槻山城】は要害とは程遠いシロモノで、まあ言ってみれば、ありゃ軽い登山と休憩所の提供場所だな。そう思えてならないのだ。


「儂は神鹿兵庫介である。開門願いたい!」


此の国一の名家である、茅野氏の居館の表御門。と云えば聞こえはいいが、実際のところは厚さのないペラペラの板に(かんぬき)を一本通しただけの、誠に以てやる気も護る気も感じられない門を、それでも守衛している健気な二人の門番に声を掛け、次いで茅野家了解のもとに開門して貰うのが通例なんだが……。


「すまんね兵庫介殿、今日は壱の爺様が居なくてね。ちょいと手間取るかもしれんが、(しばら)く此処にてお待ち願いたい」


そう言いつつ門脇の小さな番所から現れたのは、表門と門番の管理を取り仕切る昔馴染みの役人であった。


「判ったが、どこに参られてるのだ?」

「当家が接収した旧深志領にさ」

「成る程な」


ならば、当分は帰っては来まいな。


致し方なく儂は愛馬の手綱をとり、番所脇の馬留めに手綱を繋ぎとめ返事を待つことにした。


しかし、こういった手続きだけは、門はボロいけどしっかりしてんな。


「いつかちゃんと此の館も詰め城も、要害堅固にしてみたいな」


などと、根っからの土建屋……。もとい、神鹿家伝来の血が騒いでしまう。


「いやいやいや、儂が参ったのはそうではない!」


儂の突発的に発せられた大声に、連れ立ってきた近習二人に門番二人がビクッてなった。


「殿様どうされた??」

「兵庫介殿、如何いたしました?」

「すまん、ちと、詰まらぬ事を思い出してな。いや、すまん」


兵庫介は謝り、番所の壁板に寄りかかる。


しかし、なんだと云うんだ。


見知った侍女二人の意味深な言葉があったとは云え、何故に儂は息咳切って、目的地であった[仮]新領地の反対方向である碧の紫陽花館くんだりまで、勢い込んでやって来てしまったのであろうか?


「我ながら何をやってんだかな、意味がわからんな」


腕組みしながら頭を捻ってみても、取り急ぎ参らねば為らなかった理由が全然解らない。


「兵庫介殿、上役に許しを得れました故、御入り下され」


ボンヤリ少し曇ってきた空を見上げていたら、先程の門役人に声を掛けられた。


「御手数、痛みいる」

「がははは!なんの、拙者と貴殿の仲ではないか!」


そうだっけ?


季節(きせつ)(ごと)の付け届けも、他の方々と同じ地産品しかお渡ししたことがない筈だが、彼のどこから此の自信が湧いてくるのだろう?


不思議な奴もいるもんだと、もう何年も顔を会わせてはいるのに、今更感満載で、此の役人の頭のお気楽さに気付かされてしまった。


てな事を考えつつ、儂は徒歩で表門を(ぐぐ)り抜け、飯井槻さまに御目通り致したい旨を、出迎えの上役人に伝えたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ