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集結地、田穂乃平。【改稿版】(5)


 しかして、此度こたびの出兵の理由となった東の三家の謀反とは、いったいどういった経緯けいいおこったのであろうか。


 元々彼ら三家は、幕府領保護の為に京より此の国につかわされた四人の奉公衆の三家で、【印南家いんなみけ】を筆頭に【河埜家こうのけ】、【神嶌家かみしまけ】の生粋きっすいの武家であったのだが、更にこれに国主家くにぬしけ軍事いくさごとを預かる三番家老にまで出世した【深志家】が加わり、国主様に三家ともども大層気に入られ、いつしかその配下に組み込まれたのだ。


 丁度そのころ、京の都で巻き起こった応仁の乱の時分には、【国主くにぬしには勿体もったいない誉れ高き四人衆】と都人みやこびとや他の武家にも持てはやされ、外交や内政どころか戦すらもからっきしな国主様の地を這うような名声を少しばかり持ち上げていた。


 また無用無益な国主様の采配にも四家は柔軟に対応し、幾度となく京の戦場において崩壊しかかった国主軍を固くまとめては、果敢に敵勢に挑む大役を担っていたのだった。


 だがその戦上手の彼ら中にあって、一等抜きんでて注目を集める働きをしたのが、自称ではなく正式な官名の持ち主である【深志弾正少弼貞春ふかしのだんじょうしょうひつさだはる】が率いる深志の軍勢であった。


 彼は、合戦にいてたぐいまれなる胆力たんりょくを発揮すること幾たび、国主様くにぬしさまの、いつもの人生舐めてるとしかおもえない決断の無さや読みの大甘さが原因で引き起こされる苦難。。例えば、敵に対して多勢に無勢の立場におかれ、一方的に押しまくられる事態に陥ったり、果ては東の三家や自身の軍勢が全滅不可避の苦境に立たされている最中であっても、彼と彼の軍勢は、敵勢の動向を凝視し続ける弾正の命令あるまで、持ち場を離れず一切動じず、ひたすら敵の攻勢を防ぎ続け、やがて巡りくるであろう機を待ち。ひとたび弾正の号令がくだれば血気盛ん。誰も彼も命も惜しまず吶喊とっかんし、散々に敵の攻勢を粉砕すること度々《たびたび》であったという。


 それが為、四人の元奉公衆の中でもつとに名声高く、国主様にも本心から気に入られ大いに出世を遂げ、遂には国主家の三番家老まで上り詰めるにいたるのである。


 だが、そんな深志弾正と深志一族の存在を、かつての同僚であった他の三家がこころよく思うはずもなく、これが此度こたびの謀反の原因の一つともなっていたのだ。


 無論、ヒトの恨みつらみであるから、これだけが主足おもたる理由では無く、国政の実権を握った深志家から再三に渡り嫌がらせじみた、四条文を根拠とした日頃の奉公具合に対する問い合わせの使者や、詰問の使者がまあ、再々訪れるようになり、……表向きは国主家からではあるものの、東の国境くにざかいの守備に勤しみ、周辺の土豪連中の動向にも眼を光らせねばならない彼らにとっは苦痛以外のなにものでなかったのである。


 つまるところ東の三家にしてみれば、『俺達を差し置いてトントン拍子に出世しやがって深志のこん畜生!!そのうえ腹立たしいことに自分で勝手に作った四条文を根拠にしくさって、俺たちのお役目のしかたや生活態度にまで一々余計なクチバシを挟みやがってくそったれ!!こうなったら謀反だ謀反!!もうぜってえお前の指図なんか金輪際受け付けないもんね!!』


 ……と、国主さまに直接ではなく、あくまでも深志家に抗うための謀反を興してしまったのであった。。。


どっちみち国主家の家宰かさい、つまり政治や軍事の実権は深志家が握っているため、深志家への反旗はこれを推進した即ち国主さまへの反旗となるのだが、それに気付かないくらいに東の三家は激昂げっこうしてしまい、挙兵までしてしまったのである。


 もうね、やれやれ。である。


《しかしながら世の中は、往々にして抑えきれぬ感情が、冷徹な理性を上回ることはなはだしいものであると判る一例でございますな》


 とは、無表情なまま馬を進めるひょろひょんの言葉である。


「だがな、ひょろひょんよ。飯井槻さまの婿取りの話。アレはいかんぞ」

《全く以てその通りにござりますれども、此度は国主様直々の御下知にありますれば、当家と致しましては如何(いかん)ともしがたく》

「逆ろうて、国主様を操る奴腹やつばらめのやいばが、我らに向くのは良しとは出来ぬか?」


 兵庫介は、物凄く不満気な雰囲気を顔一杯に醸し出して声を低くし問うた。


《恥ずかしきことなれど》

「なるほどな。流石に相手が強大過ぎて重臣おとなたちは尻込みしておるのだな」

《ではございません。現に弐の御家老【甚三郎じんざぶろう様】が、のらりくらりと深志の申し出を受け流しておりまする。ですが、それでも向うも諦める様子はなく、御家としては困り果ておる次第にて》


 甚三郎様とは、飯井槻さまの叔父の【茅野甚三郎隆寿かやののじんざぶろうたかひさ】様の事である。


「今はどうにかしてときを稼ぎ、断れる時期を待つべきだと甚三郎様はお考えか?」

《左様にて》

「ふむ、なるほどな。国主様とその取り巻きの軍勢が相手ともなれば、その兵数一万を軽く超えるであろうからな。交渉にしくじり戦ともなれば、我らの敗北は目に見えておる。だがなひょろひょんよ。その甚三郎様が思うておられる時期とは、一体どの時期を指したものであろうかな?」


 甚三郎様に限ってよもやあるまいとは思うが、時期の読み違えを為された場合、何もかもが一切合切終わるのではないか? 


《よもや、左様な事はありますまい》

「ひょろひょんよ、そのなぁ~。飯井槻さまは此度の件どのように御考えであろうかな?……いやなに、儂は外様の身分であるがゆえ御家おいえ枢機すうきにあれこれ口出しできぬが、儂もその、…気になっておってな」


 兵庫介は自分でも判るくらいに苦し紛れで、遠回しな言い方に辟易しながら尋ねたところ。


《それにつきましては、あらかじめうかがっておりまする》

「ほう。で、なんと?」


 食い気味に馬上から身を乗り出し、兵庫介は問いかける。


《あんな“デカいモノ”持ちの相手は、是非もなしに嫌なのじゃ~。と、左様に申しておりました》

「んと……。何の話かな?」

《さあ?》


 有ろうことに男のナニの話とか、あの頭がおかしい御姫様め、いつもながら羞恥心とは無縁過ぎる性格をしておられる。と、心の内で兵庫介は呆れ果ててしまった。


ていうか、どこで【孫四郎やつのナニ】を見聞した( ゜Д゜)?!


「……ま、まあ、と、とにかく、飯井槻さまは深志との婚儀の話は御嫌なのだな?」

《察するに左様で》


 え~とね。。。うん、まあなんだ。このモワッとする気持ちをいったん切り替えて話の続きをしようか。


 

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