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軍議参集(3)

第五十六部になります。


いい夢、皆様見てますか?


私は最近見てません。


夢自体をですが(笑)


では、またー。

さて、茅野家の行列の先頭に立つ蔦巻右衛門と、輿の先陣を預かる兵庫介に挨拶を済ませた蕨三太夫と茅野家馬廻代表は、腰を屈めすがめつつ、飯井槻さまからの御指示を輿の両脇から聞き取りした両名は、幾度かの質疑のあと後ろを振り向きもせず、住処の厩戸ノ郭に向けて駆けていった。


「そう言えば、ひょろひょんは上手くやってるかな」


新町屋城から持ち込んだ荷車ごと、巻右衛門以外の神鹿衆を引き連れて、ひょろひょんがお役目に散ったのは茅野屋敷に着いて直ぐのことだった。


「あやつのこと、勝手に上手くやってるな」


心配する必要もないかと、兵庫介は思い直した。


「殿様よ、東の雷鳴も済んだように見受けられますな」

「そうだな、雨にならずに良かったな」


まあ云うても、あれが雨を降らした話は聞いたこともないがな。


「うん、それにしても無駄に豪華な石段に、無駄な瓦の列だな」


季の松原城は此の国の守護職である、国主様が居城ではあるのだが、今や深志一族が居城の様に振る舞われてはいた。


が、だからと云って城の施されている精緻な技法や装飾や造りは、深志家が調えたものではなかった。


 すべては国主様の見栄からであった。


バカな話だ。


軍事も政治の力量も、およそ守護職に必要な人徳も、何も持って居ないのに英雄を夢見た男の成れの果て。


それがこの豪奢な、季の松原の御城となった一因でもあろう。


無駄な徴収と無駄な出費で出来た城、遣ってくるのは名ばかり貴族と名ばかり識者に逃げ武家ばかりとは、飯井槻さまの弁だ。


当代一流のモノは京の都やその周辺にあり、ワザワザ地方の出来合いの品を見に来る必要はないのである。


彼らに必要はのは、都で喰う宛を失った自分たちを、ちやほやしつつ喰わせてくれるお人好しの存在であった。


どうせ自分たちには、相手を屈服させ得る権威も権勢もない。


あるならば斯様な地方に逃げたりはしないと、ただ無いものを在るように見せ掛け高く売り付けるのは、彼らは得意だっただけのこと。簡単に騙されるアホが守護職をやっていただけであった。


やれやれ、お陰で此の国の経世済民、為ることは無し。とは、飯井槻さまの弁である。


つまりは三十年前から度々催される都への派兵や、無用な建造物や無益な土木工事の頻発で、国の経済はとっくの昔に疲弊しており、まともに領地経営が行えていたのは茅野家と、下剋上の実行犯である深志家くらいで、国主家が一番家老の添谷家であっても財政は逼迫、その上に、判断力が著しく乏しい当主がいるときたもんだ。


このまま放って於いても、誰かが、もしくは皆が下剋上なり内乱なりに突入して、醜くもお互いを喰い合うことは必定であったろうし、無論、既にそうなってしまっている。


一人の阿呆が三十年前から熟成させてきた負が、歴史を自分ごと塗り替えようとしていた。




「まあ、始まってしまったのは致し方なし」


兵庫介は石段の半ばに臨時で設けられた、下馬処で馬を降りつつ城下を振り返る。


そこに見えるは、まさに神々や仙人が集いし『幻想郷』


石段を登るにつれ、次第に揃う足並みの音。ひとの重なり。


規則正しく揺れる提灯に松明、人や馬、乗り物の影を巧みに操るようにさざめく篝火に、一定の風に吹かれる深志家の軍旗に幔幕のゆらめき。


それらは石段を上った先の、仄かな明るさで浮かんでいる宴の楼閣、二ノ郭の御殿にまで続いていた。


美しく……。それは全身を包み込み、心地よいくらいに華麗に美しい。



……夢の中。



左様に他者から観れば夢も(うつつ)な光景が、兵庫介を圧倒して止まなかったのだが、さて……さて。


続きは勝手に寝床でしてくれと、そう兵庫介は思うのだった。






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