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軍議参集(2)

第五十五部になります。


今各部の話が短いのは仕様になります。


すいません。


あと、侍女扮する巫女が出ます。二人も。


では、またー。

「ありゃ、電光石火のバカだな」


門に消えた汚爺を、見送りたくもないのに、ついつい見送ってしまった兵庫介は、無駄な時間を過ごしてしまった事を酷く後悔してしまった。


まあ、機を見るに敏だとも言えなくもないが、自身は一兵も率いず、駕籠掻きのみ引き連れてどうするつもりなのか、見物ではあるな。


「どうかなされましたか?」

「いや、それよりどうか、定められし刻限までに二ノ郭につけそうか」


 尋ねられた巻右衛門は周囲を眺め、他家との歩数と大手御門との間の時間的距離数を図っている風情であった。


「恐らくは」

「左様か」


 それにしても、斯様な夜更けに宴会、いや軍議であったな。大体謀られそうな事柄は予測は出来るが、てか、飯井槻さまが予想済みであるのだが、本当にそうなるのだろうか?


儂にはまだ疑問なんだがな。


が、何にせよ。今までは上手くいっておるのだから、もはや信じるしかないのだが。


 シャン、シャン、シャン。シャラララ♪


茅野家の足並みに逢わせて、金色の御幣が重鳴る。


「まるで、桃源郷みたいな風景ですよ。飯井槻さま」


こう輿に伝えるのは、桃色の巫女衣裳に御幣を両手に捧げた、少し背の低く、顔や眼がややまるっこい可愛らしい娘で、名を『(たま)』といった。


どうやら同じ巫女姿のもう一人の侍女とは、茅野家の先々代の六郎(ろくろう)(たけ)寿(ひさ)様の頃に開かれた、境遇の似た隣り合う惣村の出身らしくて大変に仲が良く、飯井槻さまに仕えるようになったのも、寄り合いを利用して二人で話し合って決めた上で、共に揃って碧の紫陽花館に願い出たからだと、もう一人の背が高い色白美形の巫女『ふみ』から聞いた。


「ほんとうに綺麗。松明に提灯に篝火までが揺らめいて、田植えが済んだばかりの水面に映えて……」


「「美しい……」」


ほうっと、二人の巫女が吐息にも似た感嘆の声をあげた。


確かにな。闇のなかで連なり連なり提灯やら(たい)(まつ)やらを捧げて進む有象無象の土豪連中は、確かに幻想めいていて、とても美しく感じてしまう。


これが皆さん我等の敵ではなかったのであれば、の話だがな。


我らも含めた各々の、身分になりに工夫した行列は、大手御門に吸い込まれるまでの間を、踏み締める足で田んぼや水堀の水面を振るわせ、歩む人々も馬も、なにもかも歪ませ進む。





「焦げたあとは、見えんな」


頭上から威圧してくる大手御門の分厚い板には、焼き討ち未遂の焼け跡は、見られない。


兵庫介は門に近づき潜り抜ける間中、出来うる限りない隈無く眺め回したが、矢張、分からなかった。


その時。


「あれかや?」


そう輿の中からとぼけた声が漏れた。


飯井槻さまであった。


どうやら彼女も気になっていたらしく、御簾に僅かばかりの隙間を御自ら造り、そこからじっと大手御門の様子を探って居たようであった。


「成る程、あれなるか」


飯井槻さまが指し示した箇所は、大手御門の裏側東端上段の、如何にも堅牢な(ちょう)(つがい)辺りで、そこの木材が少し黒っぽく見えた。


「放火で煤けたか、焦げたのを、丁寧にノミで削ったか」


もはや見えなくなった該当箇所を思い起こしながら、兵庫介は御城に込めてある蕨隊と、あとから飯井槻さまによって追加派遣された茅野家の馬廻を中心とした合同部隊の、しかも指揮を執るのはあろうことに、茅野家から見れば陪臣の陪臣たる蕨三太夫が繋ぎのため、我らが道中で待機して居ることを思い出した。


それにしても三太夫の身分は、飯井槻さまたっての希望により叶った人事ではあったが、良くもまあ茅野家馬廻から抗議の声が上がらなかったものだと、思わず感心してしまう。


左様な臨時の組頭となった三太夫と、臨時の組下となった馬廻の代表者が仲良く二ノ郭に繋がる石段の端に寄り、我らが近づくのをそっちのけで、何やら二人で段取りしながら待っていたのだった。



 

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