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軍議参集(1)

第五十四部の発送です。


舞台は季の松原城に変わります。


そして汚爺様が駆け抜けます。


では、お楽しみくださいませ!


翌 五月二十七日 夕闇更ける頃合い




「さての、参ろうかの」


 立ち上がる篝火の中、やる気のない言葉を発した飯井槻さまが、行列の出立を御指示為された。


「出立!!」


蔦巻右衛門の合図と共に、神衣を纏った輿の担ぎ手が十二人が一斉に二本の搔き棒を肩に乗せ、ゆっくりと均一に立ち上がる。


 その行列総勢は二十二人。


付き添う侍女……が扮する、香也乃大宮の巫女二人。

兵庫介、巻右衛門、茅野家馬廻四人、近習二人。


本日夕刻、深志弾正、孫四郎親子連名による。季の松原城、二ノ郭御殿で執り行われる、軍議と云う名の酒宴に参加するため茅野屋敷から表に出てきたのだ。


「では行って参るからの。そうそう爺様、わらわの為に何か甘い物でも作っておいてくれないかや」

「畏まりました」

「じゃ、頼んだのじゃ~」


()()に四方を囲まれた輿の柱の隙間から、爺様に手をヒラヒラさせ応えられた飯井槻さまは、その瞬間だけ、さも楽しげな透き通る声音を発されて。


「またの♪」


と、爺様別れを告げられ、見送りの家臣一同には。


「あとは任せた」


 そう、僅かばかりの神妙な面持ちを残し、後事を託した。




 バリバリ、パリ。


突如、東側から北方向に光が幾つも走り轟いた。



「稲光か、不意の雨に備えよ!」

「はっ!」

「はい!」


先頭を預かる巻右衛門から、突発的な雷雨に備えるよう指示がなされ、行列を構成する全ての者たちが空を見上げて身構えて、飯井槻さまが座乗する輿を気遣う。


「東の方角は兎も角、風も東側に流れ雲もそちらに流れておるから、雷雨であっても、こっちはまだ大丈夫そうだな」

「左様、ですが用心に越したことはないかと」

「その辺は任せた」

「仕った」


巻右衛門は輿と夜空を一瞥し、それから屋敷地から左右に折れる道の混雑振りに肩をすくめた。


既に八千余りの軍勢は深志越前守直卒のもと、各土豪どもを貴下に進発している。


聴いたところによれば、深志家の軍勢は四千、土豪どもが四千余りの人数であったそうだ。


これだけ抜けてもなお、未だに季の松原には深志方の将兵は一万三千騎がおり、更には味方となった添谷本家の軍勢二千から三千余騎が、深志方に転んだ家老の一人に率いられ遣ってくる手筈らしい。


「にゃ、にゃにゅ?雨が降るかもじゃと⁉」


無論、添谷本家を率いて来るのはあやつではない。


季の松原の御城の大手御門に続く道に左旋回中の、我らが行列に割り込むように、深目の編笠を被せただけの竹製の()()が追い抜いていこうとする。


「あれは、()(じい)か!?」


なんでまた、領地を出てきたのだ?引っ込んどけば良いものを。


「急げ、急げ、遅れを取るにゃ!雨の前にたどり着くのにゃ!」


屋根代わりの編笠から垂れた、釣り合いヒモを左手に握った汚爺こと『鱶池金三郎』は、まるで背後から誰かに追いたてられて居るような勢いで、大手御門目指して駕籠に揺れていた。


「添谷に負けるにゃ‼添谷に負けるにゃ‼ わちゃが深志に与えたお手柄じゃ‼」


えっさ、ほいさ!えっさ、ほいさ!


駕籠掻きは全部で四人。みなさん、鱶池の家臣のようである。


「何を言ってんだアイツ? 添谷家の翻意は……。まあ云うだけ無駄だな。本気で自分の手柄だと思ってるのだろう」


「誰が付いたかわ知りゃにゅが、わちゃがやった手柄にゃー!」


ほらな、全くもって言ってる意味がわからん。あれの頭をかちわり中を……。確かめたくはないし、汚いから止めとこう。


「しかし、儂なら山の中でアイツを駕籠ごと谷へ蹴落とすのにな。律儀なアホどもだ」


家臣にも良し悪しはある。自分を持つものか、持たざるものか、だな。


鱶池の家臣は得てして後者が目立つが、生き抜くために仕方なし、と言ったところか。


「添谷の先陣はわちゃのもんじゃあ〰〰‼」


どこからか、添谷本家が深志家の軍門に降ったとの話を聞き及んだのか、一定の音頭を取りながら、汚爺とその掻き手が茅野家どころか他家の行列をすり抜けすり抜け、一路、季の松原城の大手御門に吸い込まれていった。


ようであった。


そんままどこかに排泄されたら良いのに。と、兵庫介は思った。


















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