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策謀(1)

さてさて、話はサクサク進んで第四十七部になってしまいます。


とは申せ、まだ話は続きますが、今回は馬鹿たちの気合の入れ方をお楽しみいただければと思っております。


では、お楽しみくださいませ♪

「かみ? 確かに飯井槻(いいつき)さまは香弥乃の神の依代(よりしろ)だが?」

〘神世でございますよ〙

「?よく分からんが。飯井槻さまが神仙の如き知恵の持ち主であるのは否定は出来ぬな。さて、飯井槻さまから御役目を与えられたとはいえ、またも戍亥様のもとに行かなくてはならなくなるとはな」


〘兵庫介様、これも…〙

「わかっておる。御社(おやしろ)様の御為。であろう?」

〘左様にございます〙


 いつもの無表情ぶりを発揮中のひょろひょんは、口元を僅かに動かす感じで返事をした。


「それにしても、ようもまあ儂の拙すぎる策を飯井槻さまは採用される気になったものだ。(むし)ろアレならば、お主の献策したとされる策の方がよかったのではないか?」

〘そうでもございませぬ。アレは良い策でありました〙

「そうかなぁ」

〘左様にございまする〙

「大分危ない感じに飯井槻さまに改変されたのにか?」

〘はい〙

 

 ひょろひょんは無表情のままではあったが、何故だかは知らないがいつもの抑揚のない言葉にも係わらず、どこか強さを感じてしまった。


「そういえば、さねはもう役目に走ったのか?」

〘さね殿は、素早い御方にて〙

「左様か、してひょろひょんよ、奴はいったい何者なのだ」

〘内緒にござります〙

「あっ、そう。お主も色々抱えて大変だな」

〘それも(これ)も…〙



「〘御社様の御為〙か」



 その瞬間、ひょろひょんは微笑んだように見えてしまった。

 まあ多分、儂の気の所為(せい)ではあろうがな。






 しかしながら、ついさっき辿った道を、また引き返すのはめんどくさいな。


 兵庫介一行は季の松原の御城の中で、屋敷(やしき)(くるわ)の最重要地に構える茅野屋敷を出立し、國分川の東側に沿うように走る表街道を新町屋城を目指し、再び歩を進める運びとなった。


 飯井槻さまを言い表すのに初めて使ったな『御社(おやしろ)』なる言葉。


 悪くはない言い回しだが、やはり儂はあの御方を表すのには、『飯井槻』さまの方がしっくりくるように感じてしまう。


「そう言えば、飯井槻さま御自身が仰っておいでになったのだがな。自らを一人の女子(おなご)として見て欲しいそうだ」

〘左様でございますか〙


 ボンヤリ顔のひょんひょろの表情が、一瞬、柔和になったのは気の所為であろうか。


「殿様よ。また何であの厄介な新町屋の城に逆戻りなんで?」


 眼前を騎乗しながら歩む左膳が、行列の中央を歩む兵庫介に振り返り、今回の我らの不可解な行動の意義を尋ねてきた。


「案ずるな左膳よ。此度(こたび)はお主にも重要な役目があるぞ」

「んん?そうなのか⁈」


 左膳の突然の大声に、儂の馬廻や近習どころか、行列の横をすり抜ける様に走って行く深志家の早馬がひどくビックリした様子で、街道筋を大きく外れ河原から國分川に乗り入れてしまった。


 よし。見なかったことにしようっと。


 兵庫介は素知らぬふりを決め込み、國分川とは反対方向の季の松原城の大手門側を見る事に決めた。


〘ぶふっ〙


 コヤツ、今日は良く笑うな。


 馬上で陽気に当てられながら(そば)で笑うひょろひょんは、とんでもない背丈さえなければ案外面白い男なのやもしれんな。


 自分の、あんまりにもあんまりな背丈の低さに劣等感を感じている兵庫介は、未だにひょろひょんに対して素直になれないでいた。


 なんだかんだと云ったところで、コヤツも(いくさ)働きは兎も角、相当な知恵者の部類ではあろう。


 学べるものなればその知恵の根源、じっくり学ばせて貰いたいものだが、さて?


「で、御殿様(おとのさま)よ。此度わしは何をすればよいので?」


 誰が御殿様(おとのさま)だ。


「だから、わしは何をすればよい?わしは何をすればよいんだ?やっとまともに飯井槻さまの御役に立てる機会が来たのだろう?」

「あのなぁ、童かお主は? まあよいわ。こっちに馬を寄せろ」


 それ来た!とばかりに、子供のようにはしゃぐ左膳が傍にズイッと寄って来る。


 無論、付近に当家の者以外いないことを確認してだ。


「来たぞ。早く教えろ」

「わかった、分かった」


 でっかい赤ら頭を近付け、耳を兵庫介の顔にぶつけんばかりに寄せた。






「よし判った!それをやり遂げればいいんだな?」

「そうだ。頼んだぞ」

「任せて置け!」

「うむ」


 幼馴染(おさななじみ)間柄(あいだがら)(ゆえ)か、ぶっきらぼうな物言いになってしまっている左膳の、お天道様にも似た明るい笑顔に兵庫介は恥かしながら勇気を貰ったような面持ちにさせられてしまった。


「「あのう、大変失礼ながら、我らも何か飯井槻さまの御為(おため)に、出来得ることは御座いませぬか?」」


 今度はこいつらか。やれやれだな。


 密かに兵庫介と左膳の会話を気にかけていたのであろう。兵庫介の前後を歩んでいた馬廻の二人が声を(そろ)えて(たず)ねてきたのだ。


「お主らも心配いたすな。此度(こたび)はお主ら全員に働き口があるぞ」


「「「「誠か?御殿様よ‼」」」」


 増えやがった。てか、なんでお前らまで御殿様呼びなんだ⁉


「ま、誠じゃ。委細は新町屋の城についてから左膳に聞くとよい」


「「「「「「「応‼」」」」」」」


 兵庫介一行に参加している武者全員の声音が、周囲の山陰に当たり木霊となった。


「ちょ、お前ら静かにしろよ!」


「「「「「「「おう」」」」」」」


 だからと云って、(ささや)くように声を揃えんな。バカか。


〘頼もしい限り〙

「お前よ、それ本気で言ってんの? (まれ)に見る大馬鹿者達だぞこいつらは」

〘そう(おっしゃ)る兵庫介の御顔も(ゆる)んでおりまするぞ〙

「さ、左様か?」


 兵庫介は思わず顔に両手で覆い、わしわしと洗顔をするように(こす)り上げてから一行を隅々まで見渡した。


「皆、怠りなきよう」


 返事はない。


 左膳も皆も、ただ満面の笑顔で頷くのみであったからだ。


 あの、ひょろひょんでさえも、だ。


「では改めて参るぞ」


 彼らの赴く先は、傾き始めたお天道様を背負い、國分川の西の断崖に周囲を威圧する様に(そび)え立つ、此の国屈指の要害【新町屋城】であった。


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