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野火は血を欲するか?(1)

第四十四部になります。


ひょっと辞典を書いてるときに此の国と各家の貫高の計算間違いに気づき、今手直しにおわれています。


アホや、アホやで私。


切っ掛けは感想をお書きになられた夢想する人様への返信を見返した時でした。


夢想する人様、ありがとうございました。


また皆様にもご迷惑をおかけして申し訳ありません。


では、アホな私がお送りする、ひょんひょろ侍・第四十四部をお楽しみくださいませ♪


まさかの、飯井槻さまと自分の意見が同意見だったことに驚いた兵庫介は、思わず愛馬の手綱を引き締め…ようとしたのだが、ドボン!!という音と共に、舟から武者らしき男が川に落ちた姿にびっくりしてしまい、思わず馬からズリ落ちそうになってしまった。


「なんだ、どうした?」


兵庫介は馬に搔き付き周りの者に問うたが、もちろん誰一人として判る者なぞおる訳も無く、ともかくも鎧の重さで溺れ川底に沈みかけている武者を、一刻も早く助けねばならんと駆けだした。


肩まで水に浸かり、得能家の船頭や水夫らと一緒に救い出した鎧武者は、よほど慌てていたのか、陸に引き上げられてからも手足をバタバタさせもがいていたが、様子を見かねた船頭に一発張り手を喰らい正気を取り戻すと、兵庫介様はどこに()わされるかと船頭の身体に取りすがり、声を張り上げしきりに尋ね出した。


「儂なれば此処におるが、お主大事ないか?なんぞあったか」


抱き起しつつ兵庫介は自分の顔を武者に拝ませると、なんと三太夫配下の者であった。


武者は、自身を抱き起してくれたのが兵庫介だと気付くと、素早く躰を放して河原に跪いた。


「主、三太夫の命にて()(きゅう)な報せを持ち(まか)()しました。お、御耳(おみみ)を拝借」


「聞こう」


 兵庫介は武者に耳を寄せる。



『去る五月二十三日、穂井田様並びに配下の三家、御謀反』



現在、勢いに乗る東の三家に手こずっておる処に、今度は、南の四家(しけ)が一斉に挙兵し反旗を翻したのである。



彼らが一斉に蜂起する直前、穂井田様らの旧領を治め、合わせて穂井田家の(おさ)えを任されていた深志派の四つの家、(すなわ)木津家(きづけ)(たての)(もり)()鴻上家(こうがみけ)宮之城家(みやのじょうけ)であるのだが、このうちの木津と館森の二家は、元穂井田様の被官であったのだが、一年余り前、主家である穂井田家を裏切り、あまつさえ、深志側が仕掛けた陰謀に積極的に加担した功績が認められ、他の二家共々、穂井田家の領地の半分を褒美として分与された。


 彼らは居館(きょかん)をそちらに移して防備に当たっていたのだが、これらの家々は既に此の世には存在していない。


 穂井田様を始めとした南の四家は、(かね)てより謀反に及ぶことを決意し、用意周到に準備を行い、策謀を彼ら謀反人の領内に巡らせていたようである。



 御謀反当日早朝、迂闊にも川遊びに興じようと表に出た〖(たての)森上(もりこう)(ずけの)(すけ)(のぶ)(ただ)〗は、川の畔を住処とする野伏(のぶせり)十数人に襲われ、あっさりと首を討たれたのが全ての始まりとなった。


 舘森上野介の暗殺を合図に、深志派に屈し配下に組み込まれてはいたものの、穂井田家と密かに連絡を取り合っていた各地の土豪や領民が一斉に蜂起、これに不意を突かれた〖木津(きづ)太郎(たろう)()衛門和(えもんかず)(まさ)〗は同じころ、突如襲ってきた領民に追い立てられ為すすべなく、致し方なく篭城に及ぼうとしたものの肝心の兵が集まらず、仕方なく単騎で逃走を図ってはみたが領民に捕まり、(さら)し者に引きずりまわされた挙句、河原で磔にされ串刺しになり絶命した。


 前述の二人とは違い、いち早く領内の異変に気付いた〖宮之城相(みやのじょうそう)(じゅん)〗は、なんとか持ち合わせの兵で()場をしのぎきり、他の三家を救おうと掻き集めた兵で出撃したところ、隠れていた土豪らの軍勢に三方から攻めたてられ破れ、再起をかけ城に戻ろうとしたが、既に穂井田家に味方することに決めた家臣が、居城を占拠したと知るや、(いさぎよ)く馬上で首を搔き切り自刃して果て、〖鴻上五郎(こうがみごろう)(きよ)(かた)〗もまた、最初の蜂起を防いだものの、再出撃の支度中に背後から家臣に刺され命果てた。



 これが僅か半日で討ち滅ぼされた彼らの運命である。



 夜半、他の三家の軍兵を合わせた千七百の軍兵を率いた穂井田様は、蜂起した各地の在地勢力とも順次合流を果たし、翌五月二十四日には、総勢三千六百余もの軍勢にまで成長するまでになっていた。


 五月二十五日には、木津家の本拠地となっていた旧穂井田氏の居城【(かな)下崎(げさき)(じょう)】を出立、全軍を上げて深志家の本拠、柳ヶ原城に進撃を開始したそうだ。


 同時期、東の三家は季の松原城を目指して西進の途上にあり、本街道に繋がる(かり)(たに)(とうげ)を圧し、ここを最後の拠点として要害を構え待ち構えていた深志派の生き残りと、援軍として派遣された土豪三家の内、最初に合した村岡家(むらおかけ)の軍勢共々叩き潰した日でもあった。


「苦労であった、飯井槻さまには此の一件、報せておろうな」

「抜かりなく」


 緊張と喜びを隠せない武者は、水を所望して参ったので、腰に吊るしてある水筒の水を、一滴残らず呉れてやって一息つかせた。


「よし、益々(おも)(しろ)うなってきた!!」


 兵庫介は立ち上がって振り返り、ひょろひょんに満面の笑顔で言い放った。


「壱岐の阿呆め、本物の戦も知らぬくせに、これではそのうち百姓兵の数も足らなくなるぞ!」

〘有り難い限りです〙


 ぼんやりした表情を保ったまま、ひょろひょんが応じる。


「お主の申した通りになったな、素人が深く考えもせず、国中の野に火を放ち過ぎた結果がこれか」

〘故に、民草には強き負担となりましょう〙

「うむ、出来る限り早めに阿呆共を排除せねばならぬな」

〘左様にございます〙


 ひょろひょんは、いつもの無表情な仮面をかなぐり捨て、ジッと兵庫介を見る。


「ふっ♪ だが、こうなればこっちのモノ、目にもの見せて呉れん!」

〘兵庫介様〙

「うん?」

〘御社様のもとに参りましょう〙


 ひょろひょんはこれまで見せたことのない満面の笑みを以て、兵庫介に顔を向けたのだった。


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